使い魔になった経緯は?

 ドロシーがルルと出会ったのは、ホッポウ魔術学院の卒業式の日だった。



 卒業式の数日前に起こった出来事である。

 魔術学院の教頭が、学院の屋外にある倉庫に、黒と茶の斑模様まだらもようを持つ子猫が迷い込んでいるのを見つけた。


 祖母であるケーラをよく知っている教頭は、卒業生のドロシーに、子猫を里子にしてくれないか、と聞いた。

 子猫を家族として迎えることにしたドロシーは、サビ猫を保護したのだった。




 ドロシーは、メスのサビ猫を『ルル』と名付けた。

 そして、両親も手伝いながら、ドロシーは大切にルルを育てたのだ。



 セイホク村の家に来た当時、挙動不審きょどうふしんになっていたルルは、よく部屋の角で置き物のように固まっていた。

 しかし、家族の中で、ドロシーが熱心かつ積極的にルルの世話をしていたからか、ルルは次第に落ち着いて過ごせるようになってきたのだ。


 エヴァンズ家の中で、ドロシーは一番まめに動いていた。

 ルルの食事の準備に、用を足した後の掃除に……。それから、猫じゃらしを使った遊び時間の確保、できるだけ毎日ルルとの触れ合う機会を作った。



 元々、ルルは物静かな猫だった。普段、鳴くことがあまり無かった。

 彼女が鳴くなら、食事の前が大半だった。ドロシーが干した小魚を用意すると、「ニャー、クルクルクル……」と甘えた声を出しながら、軽やかに周りつつ、ドロシーのすねに頭をこすり付けるのだった。


 それと、ドロシーが自室のベッドで読書をしている時は、ルルが彼女のそばに居ることが多かった。

 読書の合間に目を休めていた時には、いつもドロシーはルルの頭や背中を優しくでていたのだった。



 それに、手足の長いルルは運動神経が良かった。さくを飛び越したり、非常に高い壁を登ったりするのは大得意。毎回、華麗かれいな大ジャンプを見せてくれる。



 ドロシーが丁寧にルルの世話をする度に、彼女とルルの距離は少しずつ縮んでいった。

 ついには、ドロシーが徒歩で外に出かけた時に、目的地までついていける程、ドロシーによくなついたのだった。




 ある日、ドロシーは祖母の手伝いを兼ねた仕事をするために、〈修復屋〉に出勤した時、ルルもドロシーのあとについていき、高齢のケーラを訪ねた時だ。

 ケーラは、主人に寄り添うように、自然な流れでドロシーと共に行動していたルルを見て、ドロシーにこんなことを言った。


『〈修復屋〉を引き継いでくれるなら、ルルを使い魔にしたら、いいんじゃないかね? きっと、仕事のをしてくれるだろうし』


 一人っ子だったドロシーは、ルルのことをずっと妹のように想っていたので、ケーラの提案を快く受け入れたのだ。



 ケーラから上記の提案を聞いた日、ドロシーはルルの頭のてっぺんにキスをした。


 魔術士が頭のてっぺんにキスをすると、キスをされた使い魔候補に、一部の魔力が注がれるのだ。

 その魔力を動物等が受け入れると、正式な使い魔になるらしい。魔術士と人語でコミュニケーションができるようになるという。


 また、魔術士の使い魔となった猫は、ネズミ番やペットとして飼われている猫よりも長生きするらしい。



「ルルちゃん。これからよろしくね!」


「分かったよ、ドロシー。わたし一生懸命、頑張がんばるからねっ」

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