第2話 断罪タイム!?
「皆さん、本日は御卒業をおめでとうございます」
一晩明け、今日は卒業パーティー当日である。学園の大広間には、着飾った紳士淑女が集う。卒業生へ在校生代表として挨拶をするレオンハルト王太子殿下の後ろで、私はそっと控える。
彼の後ろ姿を眺めることが出来るのは、中々に貴重な体験だ。普段殿下は私の正面が横に周り込むことが多く、後ろ姿を見ることが出来る機会は殆どない。柔らかいゴールドの髪がふわふわと揺れるのを目の保養にしながら、彼の癒しボイスを堪能しているのだ。正に役得である。緩みそうになる頬に力を入れる。
これだけ彼の可愛い姿を目にすれば卒業生・在校生も、そして卒業生を祝う為に集った貴族たちも彼が可愛いと認識するだろう。いや、分からないなど許さない。王太子殿下を可愛いと皆が分かるように、私は念を込める。
「……それでは、卒業パーティーをお楽しみ下さい」
殿下が挨拶を終えると拍手が響き、広間の中央を後にしようとする。私もその後に続こうと足を動かす。
「レオンハルト王太子殿下。申し上げたいことが……」
「……何かな?」
立ち去ろうとする殿下の正面に、卒業生の数名の男女が歩み寄る。卒業パーティーは無礼講が慣例である。貴族の子息子女が通う学園であるが、王太子殿下の進行方向を塞ぐという暴挙に驚く。
此処には国を代表する貴族たちや、国王陛下ご夫妻も卒業生を祝うべく集まっている。つまり王太子殿下への不敬が国の重鎮たちに知られ、将来を揺るがすことになるのだ。
「ステラワース・ハイネ様についてです。彼女は王太子殿下の婚約者に相応しくありません!」
「そうです! 同じ学園で過ごす我々との協調性が欠けています。先程の殿下の挨拶中も我々を睨んでいらっしゃいました! これでは将来、この国を担う王妃としてお支えるのは難しいです!」
「それから殿下がお慕いしているのに、愛想笑い一つしないではありませんか! 冷血な王妃など国民からの信頼や、他国との関係にも影響を与えかねません!」
二人の男性に続き、一人の女性が私への文句を口にした。その声はよく響き先程までの祝いの空気が四散し、大広間には痛いほど静まり返る。
「……っ」
私は両手を握りしめた。彼らの発言や視線が怖い訳ではない。この状況に戸惑っているからである。
確かに学園の卒業パーティーで私は断罪されるが、それは一年後の筈である。それに王太子殿下が庇うであろう、ヒロインが未登場だ。ゲームの開始時点は、ヒロインが編入をしてくる来年の春である。そして断罪は一年後だ。ヒロイン未登場・不在で私の断罪タイムが始まるのは、時期的に早過ぎる。
「……ふむ。それで? 言いたいことはそれで全てかな?」
私が現状に困惑していると、周囲の人々が床に膝を着いた。殿下の魔力が大広間に重くのしかかり、魔力の低い者は耐えることが出来ず。呼吸をするのも苦しそうである。
魔力は感情と大きく作用する。つまり王太子殿下は現在、大変不愉快な気分のようだ。
「他にも同じ様に、私の婚約者であるステラに不満を持つ者が多いようだね?」
「……っ、そ、それは……」
周囲見回す殿下に対して、先程の男性が何とか言葉を口にする。顔色は悪く、全身が小刻みに震えている。如何やら王太子殿下は怒っているようだ。これはもしかすると、『僕もステラのことを婚約者としてはどうかと思っていた。よし!婚約破棄だ!!』という流れだろうか。
何の障害もなくヒロインとの生活を謳歌したい為に、きっと断罪を早めたのだろう。それならばそうだと早くに言って欲しい。一年も早い断罪タイムに動揺をしてしまったではないか。悪役令嬢として、好きな人の幸せの為に華々しく散ろう。
私は深呼吸をすると、殿下の横顔を見た。
「ステラが本当に僕をどう思っているか、聞いてもらおう」
不意に殿下が左耳のイヤリングを外すと、宝石に触れた。するとコバルトブルーの魔法陣が輝いた。
『はああああぁぁ!!! レオン様が今日も可愛いかったぁぁぁ!!』
その魔法陣から私の声が再生され、大広間に響き渡った。
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