第3話 急展開!!


 

「……っ、な! なんですか!? 殿下、それは!?」


 秘密の独り言を再生され、私は我を忘れて殿下へと詰め寄る。不敬罪に当たるかもしれないが、悪役令嬢で断罪が控えているのだ。それを思えば何も怖くない。それよりも今は、独り言を聞かれたことが問題である。


「ん? これが、ステラの本音だろう?」

「……ち、ちが……」


 殿下は悪戯っ子のような顔をして、私を見下ろした。自信に満ちたその笑みも、可愛いと思ってしまう辺り私も大概である。

 しかし悪役令嬢が王太子殿下を可愛いと思っているというのは体裁が悪い。きっと、『僕を可愛いと思っているなんて! 不敬で断罪だ!』という流れなのだろう。私は空気を読み、否定しようと口を開いた。


『レオン様は格好のではなく、可愛いのよ!? 皆、全く何も分かっていない! 解釈違いですううぅぅ!!!』

「はうう!! そうです! 私はレオンハルト王太子殿下のことを可愛いと思っております!! 皆さんが格好良いと口にするのが不満で、可愛いと認識して欲しいと念を込めて視線を送っておりました!! 認めますから、それを止めてください!!」


 再び、私の独り言が再生され肯定する。手のひら返しが早いが、保身の為ならば致し方ない。早くその恥ずかしい独り言の再生を止めさせなければならないのだ。これは急務である。此処には国の重鎮たちと、国王陛下御夫妻が居るのだ。頬どころか全身が熱くて仕方がない。


 もう早く断罪して、婚約破棄をして欲しい。


「これで分かっただろう? ステラは一人の時でないと本音を言えない、恥ずかしがり屋だ」

「はううぅぅ……」


 殿下の言葉が大広間に響き、周囲のざわめきが大きくなる。私は居たたまれなくなり両手で顔を隠す。婚約破棄をして欲しいと願っていたが、こんな公開処刑は予想外である。


「……っ、ず、ずるいです! 私の部屋には防音魔法を施しておりましたのに!!」

「ふふっ、ステラ忘れたのかい? このイヤリングの役割を」


 恥ずかしさが最高潮になり、私はその感情を消化する為に理不尽さを訴える。前世でいうところの逆切れというものだ。殿下は優しく微笑むと、シルバーのイヤリングを掲げた。


「え、えっと……婚約者の証だったと思いますが?」

「そうだね。でも、それだけじゃない。魔力を流せば、お互いに居場所が分かるし通信が出来る仕組みだよ」


 イヤリングは婚約者の証という以外に役割はなかった筈である。私は思わず首を傾げた。ゲーム内でヒロインは卒業と同時に結婚をしていた。その為、イヤリングについての役割は婚約者の証ということしか知らないのだ。


「え? ええ!?」

「普段はプライバシーに配慮して、相手の同意がなければ通信は出来ない。だけど、一つだけ例外がある」


 彼の説明に驚きが隠せない。確かイヤリングを受け取った際に説明を受けた気がするが、その時は王太子殿下の可愛いに上の空だった。前世でも人の話はよく聞きましょうと注意されていた事を思い出す。転生を果たしても、その悪癖は直っていないようだ。


 しかし彼の説明に疑問が湧く。プライバシーに配慮しているならば、私の独り言を聞かれた説明が付かない。王太子殿下と公爵令嬢の婚約の証である、イヤリングが欠陥品だったのだろうか。

 王太子殿下は一度言葉を区切ると、左耳にイヤリングを装着した。その仕草も可愛いらしく、思わず見惚れる。


「れ、例外ですか?」

「感情が高ぶった際の、魔力過多による通信だよ。本来は、お互いの危機を知らせる為の緊急通信用だけどね」


 如何やらイヤリングに問題があるのではなく、例外の条件を満たしたことにより通信が繋がってしまったようだ。つまり私は殿下の可愛らしさに萌えていたが、知らずに緊急通信を多用していたことになる。


「も、申し訳ございません! 知らずとはいえ、王太子殿下にはご迷惑をお掛けしまして……」


 殿下の迷惑になることを知らない間に仕出かしていた。私は慌てて頭を下げ謝罪を口にする。大切な人に迷惑をかけていたという事を知り、背中に嫌な汗が流れる。こんな愚か者は婚約破棄をして欲しい。


「ステラ、顔を上げてくれないか?」

「……殿下」


 優しく温かい声に導かれ、渋々顔を上げる。


「初めて通信が繋がった時は君に何かあったのかと慌てたよ。でも、ステラの本音を聞くことが出来て、僕はとても嬉しかった」

「えっと……その……」


 彼は私の両手を握ると、はにかんだ笑みを浮かべた。可愛らしい表情を正面から受け、上手く言葉が出てこない。完全に可愛いの過剰摂取である。


「魔力過多により通信を繋げるほど、僕のことを想ってくれているのだろう?」

「……い、言ってくだされば……」


 改めて例外として通信を繋げてしまった理由を言葉にされると、羞恥心が込み上げてくる。何故、こうも恥ずかしいことを口にすることが出来るのだろうか。

 私がイヤリングの説明を聞いていなかったのが完全に悪いが、早い段階で緊急通信を使用していることを伝えて欲しかった。


「そうしたら、二度と本音を口に出さないだろう? そんなの嫌だ」

「え……?」


 不意に殿下が腕を引き、私は反応することが出来ず彼に抱きしめられた。彼の突然の行動に困惑しながら、顔を上げるとエメラルドグリーンの瞳と視線が交わる。そして私の右耳に掛かる髪の毛を退かすと、顔を寄せる。


「愛しているよ ステラ」


 愛の言葉を囁いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る