幕間 -村の移住者-
ここ最近、ある二人の子供についてばかり考えてしまう。
「いい子達だっただ……」
村に移住するのは、実は簡単な事じゃない。
閉鎖的な村だったら中々受け入れて貰えないし、受け入れて貰えたとしても、村人からの対応は冷たい事が多々ある。
でも、この村は温かかった。
よそ者の自分に対して、誰も彼も親切で……。
そして、そんな温かな村で大切に育った子供達は、キラキラと輝く黄金の様にさえ感じられた。
俺もあんな風に生きたかった。
俺の過去も、あんな風な温かさで包まれていたら何か違ったのだろうか。
眩しいものにあてられたせいか、どこか感傷的な気分になっている。
「いけねぇだ。 余計な事を考えずに、仕事をしないとだ」
これ以上考えると、仕事をするどころじゃなくなる。
胸が痛み切る前に、俺は森へと向かう事にした。
やがて森の入口が見えてきた。
ここ半年程で慣れ親しんだ見慣れた場所。
しかし、今日は珍しく先客がいた。
「……えっと、レギムさんでしたっけ。 今日も狩りでここに?」
「は、はいだ。 シグさんは、どうしてここにいるだ?」
先客……それは、最近仲良くなった子供たちの師匠シグだった。
俺はいきなり話しかけられるとは思わず、少し驚いてしまう。
「……ちょっと、森の様子が気になりまして。 恐らく、浅瀬にも魔獣が出てくる様になると思います」
魔獣と聞いて、冷や汗が零れる。
俺はこう見えても戦闘の心得があった。
昔から狩りをしていて、多少なりとも魔法を使える。
けど、魔獣と出くわしたら生きて帰れるかは分からない。
「ま、魔獣が出るかもって危険だ。 シグさん一人で森に入って大丈夫だ?」
「ええ、問題ないです……。 申し訳ないですけど、今日は森に入るのは止めた方いいですね。 今日中は厳しいかもですが、明日、明後日までには何とかしてみせますよ」
村でまた会いましょう、最後にそう言い残すとそのままシグは森へと入っていた。
「世界はやっぱり広いだ……」
二人に滅茶苦茶強いとは話に聞いていたが、それでも魔獣が出る森に躊躇なく入っていく姿を見て驚きを隠せない。
思わず天を見上げて呟いてしまう程には。
「いつまでも、ボーっとしていられねぇだ」
シグが言っていた明日、明後日まで……。
その言葉を聞いて、時間がなかった俺は覚悟を決めるしかなかった。
何故なら、仕事終わりは近い。
恐怖なのか、憂いなのか、胸の傷の痛みは増していくばかりだった。
最凶最愛の忘備録 わちこ様 @wacchi666
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