第2話 -村の人々④-

森の奥に進むにつれて、魔獣の姿が減っていた。

今いるのは森の中層辺りだろう。


やがて、周辺に焦げ臭い匂いが漂ってきた。

俺は思わずため息を吐く。



「……はぁ、魔物がここまで出てくるとはね」



俺の目の前に姿を現したのは、赤い斑模様の上に炎を纏い、二メートルを超える体躯を持つ蜥蜴っぽい姿をした生き物だった。


単純な腕力でさえ熊をも上回り、その上魔力が高く、炎属性の魔法を操る森の王者。



「サラマンダー……」



これは大分まずい状況に出くわしたみたいだ。

奴らは普段、森の深層から出てくる事は滅多にない。


従来魔物とは、鍛え上げた人間が集団で討伐する必要がある。

特にサラマンダーレベルとなると、一頭の討伐でさえ、王国屈指の強さを誇る騎士が何人も必要だ。


群れを追い出された一頭が、森の中層や浅瀬まで迷い込むことはある。

しかし、俺の前にいるサラマンダーは十頭を超えていた。



「……まさしく異常事態って訳ね」



この森で何かが起きている。


群れから数頭のサラマンダーが前に出てきて、大きく口を開いた。

その瞬間、サラマンダー達の口から炎の球が吐き出される。


人を一人簡単に飲み込める程の大きさをした炎の球が、俺の目の前に迫ってきていた。



「……ごめんね」



そう呟くと俺は右手を前に出し、風の刃を放つ。

風は迫りくる炎の球をかき消し、そのままサラマンダーの群れへと向かっていった。



「……君達がこんな所にいると、村が危ないんだよね」



サラマンダーの防御力は、見た目以上に高い。

身体を纏う炎は魔力攻撃に耐性を持ち、その下には普通の剣なら傷一つ負わす事の出来ない鱗で覆われている。


でも、たかがサラマンダー如き、防御力が高かろうと関係がなかった。

俺が放った風の刃は、サラマンダーを覆う炎をかき消し、そのままサラマンダーの群れを肉片へと変えていった。



「本当は、肉片すら残したくなかったんだけど……」



本来なら魔獣が森の中層に戻って来れる様に、雷魔法でサラマンダーのいた痕跡すら残さずに消す予定だった。


しかし、今回は風魔法を選択した。


いつしか辺り一面に、サラマンダーの血の匂いが充満していた。

俺は目の前に広がるサラマンダー達の亡骸から目を外し、空へと目をやった。



「……君達は逃げていたんだよね」



森の奥から、大きな雄たけびが聞こえてくる。

その声は、だんだんと近づいて来ていた。


やがて、辺り一帯に大きな風が吹き荒れ始める。



「だからさ……餌となってもらうよ」



いつしか俺とサラマンダー達の亡骸周辺は、大きな影で暗くなっていた。

その大きな影はゆっくりと地面に降り、サラマンダーの死骸を一頭ずつ飲み込んでいく。



「……安心してよ、ちゃんと君達をここに追い込んだ元凶を断つからさ」



大きな影は最後の一頭のサラマンダーを飲み込むと、満足そうに天に向かって吠えている。


大きな影によって、サラマンダーは影も形もなくなっていた。

残されたのは俺と大きな影。



「お掃除お疲れ様……」



俺の呟きに反応するように大きな影が、ゆっくりと此方を見た。

サラマンダーが森の深層から、こんな所まで出て来た原因は此奴だろう。



「……恐らく、巨人の国から逃げて来たのかな。 この辺は君の住処じゃないもんね」



大きな影は此方を視認すると、翼をはためかせ威嚇する様に大きく吠えた。


次はお前だ。


とでも言いたい様に。





「でも、残念……ここが君の終着点だよ、君」









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僕とキューリーは一日かけて調べた事をまとめた。

今日はその報告の為、師匠の所に向かっていた。



「村長、師匠、おはようございます! 」



「村長さん、先生、おはようございます」



「おや、ヴァルくんにキューリちゃんじゃないか。 おはよう、さぁ、外は寒いから中へお入り」



師匠の滞在先である村長の家に着くと、笑顔で村長が迎えてくれた。

村長の家の中に入ると、いつもなら師匠の姿があるのに今日は見当たらなかった。



「あれ、村長。 師匠はいないんですか?」



「折角訪ねてくれたのに悪いね。 シグさんなら今朝早くに森に出掛けていて、帰ってくるのは明日以降になるかもって言っておったよ」



森に出掛けたって、師匠一人で何をしにいったのだろう?

折角調べものが終わったのに、師匠がいないんじゃ意味がない。



「ねぇ、ヴァル。 師匠が戻ってくるまでどうしよう」



「う~ん、それじゃ、キューリのお母さんに、王都の事を聞きたいかも」



その時、村長の家の扉が大きな音を立てて開いた。



「え、お母さん……?」





そこには、顔面を蒼白にしたキューリのお母さんがいた。




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