第2話 -村の人々③-

聞きたい事はいっぱいある。

でも、やっぱり一番に聞きたい事は決まっていた。


キューリに目配らせをする。

きっと聞きたい事は一緒だろう。


するとキューリは僕の方を見て、黙って頷いた。

キューリに無言の確認をとった僕は、レギムさんの方に向き直り尋ねた。



「魔獣……森にいる生き物について知りたいです」



「……うむ、分かっただ。 まず、魔獣と獣についての違いは知ってるだ?」



えっと……分からない。

困った様に僕はキューリの方を見た。


キューリも分からないと無言で首を振って伝えてくる。



「すいません……知らないです」



「いいだ。 まず獣は魔力を持たない動物の事を言うだ。 そして、魔獣は反対に、の事だ。 つまり同じ見た目でも、魔力を持ってなかったら只の獣だし、逆に魔力を持ってたら魔獣になるだ」



魔力……魔法を使うのに必要な力。


僕もキューリも簡単な魔法なら使える。

お母さんとかも、魔法で水を出して洗い物をしたり、洗濯をしたりしている。


大量の水が必要になったりする時は、今みたいに小川に行ったりするけど。



「魔力を持つ獣って事は、魔獣は魔法を使ってきたりするのですか?」



「一概に魔獣が全部魔法を使える訳ではないだ。 もちろん、魔法を使える魔獣もいるだ。 只、魔法を使えない魔獣とはいえ、魔力を持っているだけで身体能力は大幅に上がるだ。 だから魔獣は、普通の獣よりも危険と認識されているだ」



「そうなんですね。 それで森には魔獣と獣がいるって事ですか?」



「そうだ。 さっき一緒に解体した鹿の様な獣もいれば、ヴァルやキューリが出会った魔獣も森にはいる。 そして、森の深い所にはもいるだ」



「魔物って、魔獣とはまた違うんですか?」



「魔獣は元になった獣がいるだ。 魔獣は、何かしらの理由で祖先が魔力を持つことになって繁栄した個体もいれば、只の獣がいきなり魔力を持って魔獣になる事もあるだ。 しかし、魔物には元になった獣はいないだ」



僕とキューリが行った森には、それ程危険な生物がいっぱいいたのか。

今更ながら、何も知らないで森に行った自分達が怖すぎる。



「ちなみに、どんな動物や魔獣、魔物がいるのかしら?」



僕が一人身体を震わせていると、キューリが続けてレギムさんに質問をしていた。



「動物は大きな奴で鹿と狼と熊くらいだ。 魔獣も、今言った三種類が魔獣化した奴しか知らないだ」



「じゃあ、魔物は?」



「魔物は流石に俺も逢った事はないだ。 この村に来る時も、森の深い所には近づかなかっただ」



「そうなのね。 ちなみに、レギムさんは森で鹿を狩っているみたいだけど、魔獣とは逢わないのかしら?」



「鹿の狩りは基本、森の浅い所に罠を置いてそれを見てくるだけだ。 魔獣はこの村に来る時に一度だけ遠目で見たくらいで、俺も見つかる前に必死に逃げただ」



「魔獣ってそんなに強いのかしら?」



「只の人間じゃ、何人いようと敵わないだ。 それこそ、戦闘の心得がある冒険者チームで討伐する様な奴らだ」



「私達が逢ったのは、そんなにヤバい相手だったのね……」



「それを一人で一瞬で倒したシグさんは更にヤバいだ。 それにしても、普通はから、逢う事なんてないはずだ……」



師匠ってそんなに凄かったのか。


……ん、森の浅い所に、魔獣は顔を出さない?

レギムさんの話を聞いて、僕は頭の中で何かが引っ掛かた。



「……ねぇ、ヴァル。 私達、あまり森の奥には行ってなかったと思うの」



そうだ。

僕達は師匠に連れられて森に入ったが、魔獣に出くわした時、そんなに奥まで歩いてはなかったはずだ。



「キューリの言う通り。 僕達は森の中をそんなに歩いていなかったはずだよ」



「はっははははは、だから災難だったと言っただ。 普通、森の浅瀬で魔獣に遭う事なんてないだ」



僕達はどれだけ運が悪かったんだろう……。

きっと浮かれている僕とキューリに、神様が警告でもしたんだろう。





この時の僕は、魔獣に遭った原因をそんな風に軽く考えていた。





それからも僕とキューリは、レギムさんにあれこれ森について聞きまくっていた。

矢継ぎ早に質問をする僕達に、レギムさんは約束通りきちんと答えてくれた。


今まであまり話したことはなかったけど、レギムさんが良い人で良かった。


やがて、太陽が沈み始めてきた。


今日調べた事を、明日キューリと一緒にまとめよう。

そして、師匠に報告しなくちゃ。


親切に色々教えてくれたレギムさんにお礼を言い、僕とキューリは家路に就くのであった。





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俺は弟子のヴァルくんとキューリちゃんを、情報収集と言う名目で遠ざけている間、頻繁にこの前訪れた森へと調査に来ていた。


そして今日は、どうやらだったらしい。



「……うーん、やっぱり少し可笑しいよね。 村の人達に話を聞く限り、こんなに森の浅瀬で魔獣に出くわすはずはないんだけどね」



そう一人呟く俺の周りには、幾つもの魔獣の亡骸が転がっている。



「……熊型の魔獣までこんな所に来るなんて、森の奥では何が起きってるんだろうね」



これもお世話になった村や、可愛い弟子達の為か。





面倒だな、とは思うけど、俺は森の奥へと歩み始めるのであった。




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