第2話 -村の人々②-
「森について、教えて欲しいだ?」
レギムさんの家に善は急げと急いで向かった僕とキューリを出迎えたのは、片手に籠を持ち、もう片方の手で鹿を背負っている茶髪の男の人だ。
彼の名前はレギムさんと言って、約半年程前にこの村に失恋をキッカケに移住して来た人で、歳はお母さん達より少し上だって聞いた事がある。
「そうなの、私達森について知りたくて。 それで、レギムさんは確か森の向こうにある村からやってきたんだよね」
「確かに俺は森の向こうの村からやってきただ。 ……嬢ちゃんと坊主は確か、キューリとヴァルだっけだ。 どうして森について知りたいだ?」
いきなり森について知りたいと押しかけて来た僕とキューリに、レギムさんは怪訝な目を向けている。
「それは……」
僕はシグさんに弟子入りした話など、今までの経緯をレギムさんに説明した。
外の世界で生きる方法を知りたい事。
村の外に連れて行って貰った事。
そして、魔獣に会った事。
「はっははははは、そりゃ坊主達、災難だっただ! どうだ、森は怖かっただ?」
「うん……」
あの時は本当に怖かった。
右も左も分からない森で、どうすればいいのか頭が混乱していて……そして、急に現れた魔獣。
あの獣臭は、今でも思い出すだけで吐き気がする。
「いいだ、森について教えてやるだ。 但し、条件があるだ」
「……条件?」
思わず僕はレギムさんの顔を見る。
するとレギムさんは、僕達の目の前に背負っていた鹿を置いて言った。
「こいつの解体を手伝うだ」
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僕とキューリはレギムさんと共に解体の為、村の端にある小川に向かっていた。
ときおりレギムさんの持っている鹿から何とも言えない獣臭が漂って来る。
その臭いを嗅ぐと、鹿とは分かっているとはいえ、あの時の魔獣を思い出して仕方がない。
正直、未だにあの時の恐怖が抜けきっていない僕とキューリにとって、獣臭漂う鹿の解体は、何かの罰ゲームにさえ感じる。
しかし、折角森について教えてくれると言っているので断る選択肢はなかった。
道中、鹿の解体をする理由を僕はレギムさんに聞いてみた。
「対価なしに情報を貰うのは難しいだ。 今のうちに、そういうやり取りに慣れておくといいだ」
何でも、タダより高い物はなく。
何かを得る時は、なるべく対価を支払った方がいいとの事。
そして、今回の森の情報を得る為の対価が、鹿の解体のお手伝いだそうだ。
僕の質問が終わると、今度はキューリが何で喋る時に語尾に"だ"が付くのかを聞いていた。
レギムさんの出身地では、語尾に"だ"を付けて喋るのが当たり前だったらしい。
そう言った喋り方を訛りと言うらしく、僕やキューリが使ってる言葉以外にも、世界には色々な言葉あるのだとか。
レギムさんの話に好奇心を刺激されて、他にも外について何か知っていないか聞いてみた。
しかし、たまに狩りに出掛ける森と昔住んでいた村以外はあまり知らないと言われた。
それから、キューリとレギムさんと他愛のない会話を続けているうちに、いつしか村の端にある小川に辿り着いていた。
レギムさんは小川の側に鹿を下ろすと、此方を振り返り両手を叩いた。
「さぁ、早速鹿の解体を始めるだ。 まずは血抜きをするだ」
レギムさんの説明の下、僕とキューリは鹿の解体を手伝う。
血を抜いて、抜き終わったら鹿を川で洗い、そのまま洗いながら内蔵を取り出して……。
普段は見ないグロテスクな臭いや光景に、何度も気分が悪くなった。
その度にあの時のやるせない気持ちを思い出し、キューリと何度も目を合わせては心を奮わせ作業を続ける。
初めての解体作業に悪戦苦闘し、どれだけの時間が経っただろう。
僕とキューリの前には、綺麗に分けられた鹿の肉があった。
「お、終わっただー」
そう叫んで僕は滴る汗をそのままに、地べたへと身体を投げ出した。
普段何気なく食べている肉。
その肉を手に入れるのって、こんなに大変だったなんて。
そのまま仰向けに寝転がっていた僕の隣に、いつの間にかキューリが座っていた。
「ヴァル……レギムさんの訛り移ってるわよ」
「ははは、本当だ。 ずっとレギムさんの指示を聞いてたから、気付いたら移ってたみたい」
二人して目を合わせ笑い合う
やり切った充実感で、僕もキューリも顔や胸がポカポカしていた。
師匠に教えて貰った高揚感と言う奴だ。
やがて、解体した肉と皮を籠に入れ終わったレギムさんが、此方を振り向いて微笑んだ。
「ヴァルにキューリ、良く最後まで頑張っただ! しかし、お前達は根性があるだ。
それに、解体も手伝ってくれてありがとうだ」
そう言うと、レギムさんは此方にやって来て僕の隣に座り込んだ。
そんなレギムさんに合わせる様に、僕も身体を起こして座り込む。
ここからが本題だ。
僕とキューリはそのまま、レギムさんの顔を見た。
そんな僕達に、レギムさんは分かってると言う様に微笑んだまま頷き、口を開いた。
「さて、報酬の森について何でも聞いてくれだ」
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