幕間 -村の母-

「二人に村の外を見せてあげたい……ですか?」



突然の提案に、私はキューリちゃんのお母さんキューレさんと思わず目を合わせた。


そんな提案をしてきたのは、息子のヴァルが師匠と呼んでいる、

四日前にこの村へとやってきた旅人のシグさんって方だ。


いつも息子達の我儘に付き合って頂いているお礼を言いに来たタイミングでの事であった。



「はい、その通りです。 ……どうやら村の外に凄く憧れているみたいなんですよね。 

 ヴァルくんもキューリちゃんも良い子なので、大丈夫だとは思いますが……。

 ……まぁ、若気の至りで、村の外に勝手に行かないと言う保証もありませんし」



未だに戸惑う私に対して、シグさんはしっかりと目を合わせて言葉を続けた。



「……なので僕がいるうちに、外の世界について見せて、学ばせて上げたいと思うんですよ」



シグさんと出会ってから、まだ日は浅かった。

私は彼について、話方に癖はあるが人当たりも良く、信用出来る人だと思っている。


そして私よりも接す機会が多い息子からも、そして村長からも信頼出来る人だと聞いている。


それでも私は、自分の大切な息子を預けていいのか決めかねていた。


信用は出来ると思った。

ただ、愛する息子を預けるのに値するのか、息子や村長と違って信頼する事がまだ出来なかった。



「私は凄く良いと思います」



思わぬキューレさんの発言に、私は目を丸くした。



「……キューレさん?」



キューレさんは微笑みながら、目を丸くしている私に向かって言った。



「エイルさん。 シグさんなら大丈夫だと思います。 

 キューリにも、そしてヴァルくんにも、貴重な経験になると思います」



キューレさんも、シグさんと接した機会は私とそう変わらないはず。

なのに、何故こんなにも簡単に自分の大切な娘を預ける決断が出来たのだろう。


彼女も、自分と変わらないくらい娘を愛しているはずなのに。

戸惑う私に、キューレさんは近づいてきて耳打ちをした。



「え」



その内容に言葉が上手くでなかった。



「えええええええええええええええええええええ」



いい歳をして、はしたないかも知れないけど、私は驚きのあまり叫び出さずにはいられなかった。

キューレさんはそんな私を見て、口元を抑えて笑いを堪えている。



「やっぱり、知らなかったんですね。 実は私、昔王都で……」





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キューレさんの話を聞いて、未だに私は開いた口が塞がらなかった。

その話に何故かシグさんも驚いていて、ばつの悪そうな顔をしている。


そして私はあっさりと決めた。

可愛い息子のヴァルをお願いすると。


そう告げると、シグさんは快く承諾してくれた。



「それじゃあ……まぁ、三日後に連れて行こうとかと思いますね。

 それと、ヴァルくんとキューリちゃんには、当日まで内緒にしてください」



「分かりました。 ……ヴァルの事、どうか宜しくお願いします」



「キューリの事も、宜しくお願いします」



私とキューレさんは、頭を下げる。



「……いえいえ、此方こそ急な提案で申し訳ない。

 それと……先程の話ですが、出来れば僕の事は内緒でお願いしますね」



そう告げて、苦笑いをしたシグさんは、一度頭を下げてから去っていた。


シグさんが去っていく姿を見届け終えると、

すぐさま私は腰に手を当て、キューレさんの方を見た。



「……ねぇ、キューレさん。 何故、すぐに教えてくれなかったの」



「ごめんなさい、エイルさん。 私も最初は半信半疑だったの。

 私が昔見たお姿と、全く変わっていなかったから……。でも、今日近くで見て確信したの」



「それならそれで、事前に相談してくれたら良かったのに。

 私、本当に驚いたんですからね」



そう、私は人生で一番驚いたかもしれない。 





何故なら、シグさんが……





あの英雄譚に出てくる、





だったのだから。




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