第1話 -村の少年②-
事の発端は一週間前、シグが村にやってきた日に遡る。
村の少年ヴァルと幼馴染の少女キューリの二人は、広い外の世界に憧れていた。
時折村長が話してくれた"英雄譚"に出てくる広い世界。
村の外には、どんな世界があるのだろう。
そんなヴァルに、村に旅人がやってきたと言う話が飛び込んできた。
ヴァルは居ても立っても居られずに、幼馴染のキューリを捕まえて、すぐに旅人の元へと向かった。
きっと、外の広い世界についていっぱい知っているに違いないと。
旅人の名前はシグと言うらしく、ずっと旅をしていて、遠い遠い世界について色々教えてくれた。
遠い世界の山には、火の川流れているのだとか。
大地の果てには、塩辛い水で埋めたくされた海と言うものがあるのだとか。
シグの口から語られる憧れた世界の話。
ヴァルには、まるで新しい英雄譚のように聞こえた。
「(僕もいつかは、世界中を見て周りたいな)」
心躍る話に夢が膨らむヴァル。
隣のキューリも、シグの話に目を輝かせていた。
そして、考える事も同じ。
幼い頃から一緒にいたからこそ分かる、阿吽の呼吸。
二人は同時にシグの前へと立って、大きく息を吸った。
『外の世界で生きる方法を教えてください!!!!』
「外の世界で生きる方法……?」
シグの呟きに思わずヴァルが一歩前に出る。
「そう! 魔物を倒したり!!」
負けじとキューリも前に出ていた。
「野宿する方法とか!!」
あまりの勢いに、思わずシグは少し体を仰け反らせていた。
「うーん……参ったな」
ヴァルとキューリは、縋るような目でシグを見つめている。
そんな二人の姿に、シグは困ったような顔で苦笑いをしていた。
「……まぁ、自衛の手段はあっても困らないよな。
よし、二人には少しだけ"冒険"と言うものを教えてあげよう」
『やったぁ‼︎』
シグの返答に両手を挙げて喜ぶ二人。
「た・だ・し、ちゃんと親御さんの許可を貰ってからだよ」
『はーい』
そうしてヴァルとキューリの二人は、シグの弟子となった。
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閑話休題。
「おはようヴァルくん、キューリちゃん。 今日は、ご両親のお手伝いはもう終わったのかな?」
そう俺が声をかけたのは、二人の小さな弟子だ。
旅の途中で滞在する事になった村で、ひょんな事から弟子にする事になった村の子供。
俺はこの世界を見て周る時に、必ず滞在する村には一か月いる事にしている。
何故なら、二週間いれば大体そこに馴染む事ができ、一か月いれば大体を知る事ができるからだ。
そこで暮らしている人が、どんな人なのかをね。
そう言う訳で、一か月はこの村にお世話になる。
だから、村に住む人達の要望は、可能な限り叶えてあげるようにしている。
それに、子供は可愛いしね。
「はい‼︎ 今日はもうやる事がないから、お母さんが師匠の所に行ってもいいよって言ってくれました!」
俺の事を師匠と呼ぶ金髪の可愛らしい男の子、彼の名はヴァルくん。
「先生、私も今日のお手伝いは終わりました。 なので、なんの問題もないです!」
俺の事を先生と呼ぶ、白髪が綺麗な女の子がキューリちゃん。
この二人が、この村にいる間の俺の弟子である。
しかし、ヴァルくんとキューリちゃんの溌剌とした返事……思わず笑みが溢れてしまうな。
年齢はまだ十歳にも成ってないんだっけ。
それなのに、素直で礼儀正しくていい子達だ……。
普通、これくらいの子供はもっと我儘だったり、悪戯が好きだったり、とにかく大変騒がしいイメージがあった。
そう言えば、レイヤと初めて会った時もこれくらいの年齢だったけな。
……ん?
先のイメージの大半は、あの頃のレイヤのせいじゃないか?
確かアイツの子供の頃は、やれ遊んで欲しいと喚き散らし、構ってやらないと俺の物をすぐに隠したり、悪戯ばかりしていたっけ。
アイツ、今頃は…………。
「……師匠? 急に黙って大丈夫ですか」
俺が物思いに耽ていると、ヴァルくんが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
つい考え込んでしまうのは、歳を重ねたせいなのか。
「いやー……大丈夫だよ。 ごめんね、少し考え事をしていただけさ」
ヴァルくんは俺の返事に不思議そうな顔をしていた。
大丈夫、君も三十年くらい経てば、分かる時がくるから、たぶん。
「そうですか。 ところで師匠、今日は何を教えてくれるんですか?」
子供の切り替え早っ⁉︎
まぁ、俺みたいなおじさんと違って、きっと柔軟な思考をしているんだろう。
「そうだね。 この一週間、僕が何を教えたか覚えてるかい? 」
俺の問いかけにビシッっと手を挙げたのはキューリちゃんだった。
「はい、先生! 先生が私達に教えくれたのは、道の歩き方です」
「キューリちゃん正解! 」
うむうむ、ちゃんと覚えてたね。
まぁ、それしか教えてないから当たり前なんだけどね。
道の歩き方の基礎は、大体座学で教えた。
つまり、座学の後には……。
俺は村の外を指差し、ニヤリと笑った。
「 という訳で、今日は実際に外の道、歩いてみようか?」
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