最凶最愛の忘備録

わちこ様

第1章 -辺境の村-

第1話 -村の少年①-

 いつもと変わらない日々。

 朝起きたら、父が畑仕事に行っている間、母の手伝いをする。

 母の手伝いが終わったら、日が暮れるまで村の幼馴染と遊ぶ。


 それだけだった。

 何も変わらない平凡な日々。

 しかし、今日は違った。


「(こんな辺鄙な村に、旅人がくるなんで何年ぶりだろう……!!)」


 少し変わった日々になる。

 そんな気持ちを好奇心旺盛な少年には、抑えることができなかった。


「(……早く、早く伝えなきゃ!!)」


 それだけを思い、少年は一心不乱に走り続けた。

 村はずれにある小さな小屋、そこがいつもの待ち合わせ場所だった。


「キューリっ!!!!」


 走った勢いそのままに扉を開け、大声を出す少年に、

 小屋の中にいた少女は「ビクッ」っと肩を震わせた。


「もうっ!! いきなりなんなのヴァルっ!

 急に扉を開けて大声を出さないでっ!!

 ビックリするじゃないっ!」


 無作法で小屋に現れた"金髪の少年ヴァル"に向けて、

 思わずジト目を向ける"白髪の少女キューリ"。


 そんなキューリに向かって、少年は頭を掻きつつ、苦笑いで謝る。


「ご、ごめんってキューリ……」


「……はぁ、もういいわ。それで? そんなに慌ててどうしたの??」


「そう、そうなんだよ!! 聞いてよ!! この村に旅人が来たんだって!!」


「え、旅人!? 本当なのヴァル? 旅人なんて私、見たことないわ!!」


「僕もだよ!! 今、村長の家にいるってザックさんが言ってた!!

 ねぇ、キューリ……旅人さん見に行かない?」


「もちろん!! 行くに決まってるわ!」


 ヴァルとキューリはお互いの手を握り合って、急いで小屋から飛び出すのであった。





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「村長さん、すみませんねぇ……急にお邪魔しちゃって」


 そう目の前の老人に頭を下げながら話かけたのは、

 黒髪でしわしわの衣を纏った男だった。


 男の顔は一見若く見える。

 しかし、纏う雰囲気から、それなりの歳をいってるだろうと村長は思った。


「いえいえ……お気になさらないでください、旅人様。 

 それに、これほどまでの手土産まで頂きまして、こちらこそ感謝いたします」


 そう言って村長は優しく微笑みながら、旅人が持ってきた肉の山に目をやった。


「しかし、これほどの量の肉を、どうやってお持ち頂いたのでしょうか」


 村長が疑問に思うのも仕方がない。

 何せ、旅人が持ってきたのはまさしくなのだから。


 グラム単位どころかキロ単位、それも一桁や二桁ではきかない量だったのだ。


「いやー……まぁ、ずっと旅をしていて、旅に便利な魔法をそれなりに使えるんですよ。

 んで、旅がてら狩りをしてたら……みたいな感じですかね」

 

「ほぅ……そんな便利な魔法があるのですね」


 それからも二人は穏やかに会話を重ねた。

 男の名前は"シグ"と言い、世界各地を気ままに旅をしていると言った。


 シグは約一か月程、滞在したいと申し出たが、村長は快く承諾した。

 なにせ旅人の存在は、辺境の村にとって数少ない刺激であり、娯楽だった。


 それは歳を重ねた村長にも、変わりはなかった。





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 シグが村に来てから一週間ほど経った。

 村に馴染むまで、少しも時間はかからなかった。


 何故なら、辺境の村にとって旅人とは貴重な存在で、数少ない娯楽だった。

 それに、シグが持ってきた肉の山で宴をしたのも要因だっただろう。


 シグにとって、こういった旅先で訪れた村に馴染むのは慣れ親しんだものだった。


 旅の土産話に、大量の手土産。

 この二つさせあれば、大体どの村でも歓迎されたからだ。


 シグにとっては、慣れ親しんだ滞在方法。

 いつも通り一か月程ゆっくり滞在して、村を出ていく。




 そのはずだった……。



「師匠!」


「先生!」


『おはようございます!!』



 日が昇り、村長の手伝いを終えて家を出たところで聞こえてくる二つの声。



「……若いっていいね」



 シグは苦笑しつつも、その声の出処に目をやった。


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