第11話 大いなる幻影

デカは集合時間の9時を大幅に過ぎた午後1時に劇場に到着した。時間に遅れることはミックたちに連絡していたのだが、その理由は知らせていなかった。

「デカさん、無事でなにより。状況が状況だけに心配したよ」

「みんなに報告したい重要なことがある」

「どうしたの!」

「この八代誠一の死体から採取したサンプルからDNA型が判明した」

「Wow!」

「そら大手柄でっせ!ほんで…?」

 色めき立った探偵たちだが、4人を前にしたデカは脱力感に支配されていた。

「それが…直子のDNAだった」

「え?!」

「は?」

「What did you say ?(なんて?)」

「…」

ジョーとネギとミックが短い輪唱のように反応して、キヨカは無言でパソコンのキーボードを叩いた。

「なんの冗談だい?」

「おれがそんな冗談を言うものか。内密におれを手伝ってくれている“草”は、科捜研…科学捜査研究所の研究員だ。彼に鑑定を頼んでいたんだが、結果は間違いないという。おれはどうしても納得出来なかったから、もう一度、解析データを確認してくれと…それでも結果は同じだった。あのテロ事件で殺害されたとき、直子の焼死体から採取されたDNAデータが、警視庁に保存されていたからな。完全に一致するんだとよ」

「そんなアホな!デカはんが、この場で八代はんの口の中からサンプル取りはったんは、わしら全員が見てるさかいな!」

「然り!検めた粘液がすり替えられたに相違なかろう!」

「いや、やつはどんな事情があっても、おれを裏切ることなんてしない。嘘がつけない男なんだ」

「どうして言い切れるんだい?」

「目を見れば判る…人間だからな」

「そんな性善説ゆうとる場合ちゃいますよ!デカはん!」

「話の途中で悪いけど…デカさん、メール・アドレスは手に入った?」―キヨカがキーボードを操作しながら、半分フードに隠れた顔だけを上げる。

「ああ。パソコン本体を貸してくれた」

「それは大収穫だよ」

デカはアタッシュケースから、山根のノートパソコンを渡した。受け取ったキヨカは電源を探すと接続し、素早いタッチで操作を始める。

「メールからなにが拾えそうなんだ?」

「…回路だよ。この事件につながるすべての」

「回路?」

「デカさんの奥さんのDNAが、八代誠一の死体から出るはずなんかないんだよ。デカさんには衝撃が大きかっただろうから、単純なことを見落とすのも無理はないけど…」

無表情ながら真剣な表情でキーを叩くキヨカに、デカがわずかに苛立った。

「単純とは…?」

「科捜研のDNA鑑定結果は、どうやって判定される?」

「おれも専門的なことまでは詳しくないが…まず、採取したサンプルを核酸抽出装置という機械にかけて…」

「いや、そうじゃなくてさ。最終的に解析データはコンピューターで弾き出されるんじゃないの?」―キヨカがパソコンのディスプレイに注視したまま続けた。

「つまり、本当のヒトゲノム解析の結果と違うデータを、鑑定結果として記載させた可能性があるってことだよ」

「…まさか。いや、そりゃあ確かにDNAの鑑定は、指紋を見比べるような方法じゃ無理だから、最後にはコンピューターが解析結果を出すが」

「それもマイスターQの仕業だとしたら?」―ミックがチッ!と歯を鳴らした。

「…直子の事件にも、マイスターQが関与しているってことか?」

「そこまでは考えたくないけど。キヨカの言う通り、鑑定機と鑑定結果を書き出すコンピューター回線が、外部からもアクセス可能ならあり得るよ。鑑定機が八代誠一のDNAを解析した瞬間に、保存されている直子さんのDNAデータに変換して、それを真の結果として書き出す。キヨカ、それは可能ってことだろ?」

「ああ。そう簡単じゃないだろうけどね。世界中のインターネット回線、ネットワークを自分の手足のように使える人工知能なら、人間がハッキングするよりも容易いよ」

「なぜ、そんなことを!」―デカが吠えた。

「よりにもよって、直子のDNAを引っ張り出すなんて!機械が直子を侮辱し、おれをあざ笑うつもりなのか!?」

 ミックは、デカの肩に手を置いて宥(なだ)めた。

「いや、これは逆に核心に近づいている証拠だと思う。デカさんには申し訳ないけどね。おそらく、マイスターQで間違いないと思うんだけど、やつは…いや、人間じゃないからマシンだよな。ともかく八代誠一の身元がDNA鑑定で明らかにされると、すべての真相が暴かれる。マイスターQは、その危機を回避するために、こんな手を打ったんじゃないかな」

「卑劣にもデカはんのトラウマを利用しよってからに、こっち陣営を混乱させる魂胆かいな?」

「各々方!ひとつ、お尋ね申して良いか!」―考え込んでいたジョーが手を挙げた。

「よしんば、デカ殿を動揺させる手だてにしても、機械はそのような謀を考えるのか?」

「…考えるとちゃうのん?人工知能ゆうくらいやねんから」

「ならば、人の心を知らねば無体でござろう?機械が人心を学ぶのか?」

「You got the point. (それだよ)。いいところに気がついた、ジョーちゃん。人工知能といっても、マシンが人の動揺を狙ってこんなことをするには、人間の情動を演算する機能が必要なはずだ。キヨカ、それは可能なのかな?」

「…人の感情を、コンピューターにプログラミングするなんて不可能だね」

キヨカは、一度、キーボードの指を止めると顔を上げて解説した。

「強いていえば、コンピューターは不条理なこと、非合理的な思考なんてできない。思考しているように見えたり、感情的にやっているように見えることも、コンピューターはすべてプログラムとプロトコルの情報処理で動いているだけさ」

「プロトルコ?」―ジョーの眼が宙を泳ぐ。

「もうええわ!」

 2人の漫才を無視して、キヨカが講義を続けた。

「たとえば、人工知能が人間とチェスや将棋で対戦するだろ?その場合、コンピューターには人間相手のときみたいな、心理的な引っかけは通用しない。逆に言えば、人工知能が人間を陽動させることもできない。そう見えることはあってもね。コンピューターは、選択の可能性のすべてを演算しているだけで、人間みたいに考えているわけじゃない。ついでに言えば、チェスで全勝する人工知能でも、将棋がプログラミングされていなければ将棋では勝てない」

「え!そうなんや!」

「つまり、人工知能に思考や意志はないんだ。意志みたいに見えるとしたら、そう見えるプログラムを人間が設計しただけのことさ。だから、言い方がビミョーで申し訳ないけど…デカさんをあざ笑うなんて、人工知能には合理的じゃないし、意味がないことだ」

「じゃあ、なぜこんなことを?」―デカが語気を強めた。

キヨカは再びキーボードに戻りながら先を続けた。

「…考えられることは、ミックさんが言った通り。いまこの時点で八代誠一のDNAが解析されたらマイスターQにとって不利になるから。つまり、合理的な理由で時間稼ぎが必要だから」

「時間稼ぎ…?」

「そうか…」―と、ミックが拳を握る。

「…みんなとも話したよな?この事件の時間の正確さ。48時間という解答期限を含めて、すべてがスケジュール通りでなければならない、合理的な理由があるんだ!八代さんの死体のDNAを、現時点で解析されては計画が狂う…そういうシナリオなんじゃないか?」

「じゃあ、この八代誠一の正体が最大の鍵…要するに、この殺害事件の犯人を探せという依頼そのものが、引っかけ問題ということか?」

「さすが、デカさん!おれはそう思うよ」

「せやったんか!ほんなら、マイスターQはしくじりよったことになるで!八代はんの正体を知られたないゆうことは、この八代はんは…」

「そう。ニセモノだって可能性が高いね」

「これなる高名な御仁が?」―ジョーがぽかんと口を開けた。

「ああ、有名さ!だけど、彼については2001年に撮られた、たった一枚の写真しか残っていない。あとは記事だけさ」

「なんと!ならば、昨日から座しておるこの亡骸は、八代殿の影武者と申されるか?!」

「おれはそう思うけど。みんなは、どう?」

「…つながった」―キヨカが、パソコン画面にトンと指を置く。ポーカーフェイスに微かな高揚感が過った。

「デカさんが聞き込みに行った劇団座長・山根のノートパソコンは、コンピューター・ウィルスに感染していたよ」

「すると、山根君と通信していた影山のメールもウィルスに侵入されていたってことか?」

「そうだね。これはエムディビと呼ばれるウイルス。世界中の企業がこいつに狙われて情報を吸い上げられているんだ」

「いや、おれが見たところ、山根君というのは芝居バカで狙われるような機密情報などと縁はないと思うが…」

「いや、この手のサイバーテロは標的を直接狙ったりしないんだ。専門家が解析したらすぐにウィルス送信元が判明するからね。一見、つながりがない…実際、まったく関係がない人間の端末回線を経由して、最終的には狙ったターゲットから情報を盗む」

「ほな、影山はんのパソコンが狙われとったんか?しやけど、彼もマイスターQから脅迫されて事件に関与しとるわけやろ?ほんなら、マイスターQは初めから影山はんのパソコンに接触してんねんから、山根はんのパソコンにウィスル感染させるような手間は要らんはずやけどな」

「…待てよ」―デカが慌てて自分の携帯電話を取り出した。

「…そうだとしたら、おれたちは大きな幻影に振り回されていたのかもしれん」

「幻影?」

デカは急くように番号を押すと相手を待った。

「あ、山根さんですか?今朝、伺いました山崎です。稽古中に申し訳ない、早速の電話で…いえ、お酒の席についてはまた後日…」

横で聞いていたネギが頬を緩めた。

「おっさん、なんの話をしに行っとんねん…」

デカはネギに掌を向けて遮ると山根に切り出した。

「…実は山根さんに見て頂きたい写真があるんです…いえ、今朝、確認をうっかり忘れてしまいまして。いま、このまま携帯で画像を送りますから確認して頂けませんか?…」

そう言うとデカは八代誠一の死体を携帯電話のカメラで撮影した。

俯き加減の八代の顔を正面と横から、2枚の顔写真を撮ると山根への送信を済ませる。

一同が見守る中、デカは携帯をスピーカーフォンに切り替え、山根からの返事を待った。

―「あ、もしもし。山崎さん?」

「はい、いかがですか?この男性が誰だか、写真でお判りになりますか?」

―「もちろん!しかし、なんで居眠りなんかしてやがるんです?」

「確認なので申し訳ない、この男性の名前を言って下さい…」

―「ですから、この男は劇場支配人の影山ですよ」

「!…」―デカと、ミックたち全員が瞬時に顔を見合わせた。

 デカは山根に短い礼を言って電話を切り上げると、大きな溜め息をついた。

「この八代誠一の死体が、本物の影山氏だ…」

「The fact is stranger than fiction !(事実は小説より奇なり!) おれたちが話していた影山は、ニセモノ!人工知能・マイスターQの代理人だったってことか!」

「ほんなら、昨日までここにおったあの影山は、いったい何者やねん!」

―「預言者とでも呼んで頂けましたら光栄なのですが」

 客席後方からの声に全員が振り向いた―死体となった影山を除いて。

 劇場入口前の暗がりに男が立っていた。

 キヨカがパソコンから劇場照明の操作パネルを呼び出すと、ステージ上のスポットライトを男に射した。

 男は眩しさに一瞬、掌で顔を覆い、その手をゆっくりと下に降ろす。

そこにいたのは、昨夜まで「影山」を名乗っていた男だった。

「はっはー!随分と芝居がかったお戻りだな!預言者さんよ!」―ミックも大芝居の如くに両手をいっぱいに広げて声を張り上げた。

「マイスターQの計算よりも早く、真相に辿り着かれたようですね」

「なに余裕かましとんねん!おどれら、いま事件が解決したら時間的に都合悪いんとちゃうんけ!」

 男―預言者は通路を歩いてステージへと向かった。

「根木屋様、誤解されては困ります。みなさんは、まだこの事件を解決されておられませんよ?」

「なんやと?!」

 預言者は舞台袖にある階段からステージに上がると、中央の立ち位置に収まった。

「われわれの依頼は、八代誠一殺害犯人を特定して頂くことです。その死体が八代誠一だと思われた、劇場支配人・影山だとしても、いったい誰が彼を殺したのか。それを解明して頂くまでは、このゲームは終わりません」

「なるほどな。そこまでの大見栄を切るなら、預言者だとかいう、おまえの犯行じゃないってことなのかな?」

「私が犯人だったなどという陳腐な結末のシナリオを、マイスターQが書くとお考えですか?」

「腹立つわー!こいつ!」

「どうでもいい!犯人しか知り得ない秘密の暴露によって準現行犯と見なし、刑事訴訟法213条・私人逮捕権を行使して、この場で身柄を拘束する!」

デカが舞台上に身を躍らせた。

「それは困難でしょうね」―預言者が落ち着き払って言い放った。

 ステージ上でデカと預言者が対峙した。

「難しいかどうか試してやろうじゃないか!」

「山崎様!私は抵抗しませんよ。すると法律上、あなたは無抵抗の者を武力制圧することになりますから、逆に逮捕罪の現行犯としてあなたが逮捕されます!お忘れですか?マイスターQは警察無線を援用して、警官隊をこの劇場に突入させることも可能であると」

「…あれは、編集した無線じゃないのか?」

「おやおや、山崎様ともあろうお方が甘い推論を。最初に吉本様が探り当てた警察無線は、みなさんがそれを拾うことを想定済みの、いわばデモンストレーションです。勿論、現実に警察を動かすことなど簡単なことです。お試しになるのはご自由ですが、その時点で5人のみなさんは、探偵キャリア史上初の未解決事件という黒星を喫することになりますが」

「ええ加減にせえや!ドアホっ!おどれらが、ここまでの異常犯罪者や判ったら、わしらのキャリアやら、どうでもええわ!」

「ネギちゃん、ちょっと待った」―ミックも舞台に上がった。

「これも大根役者の芝居だと考えた方がいいと思わないか?」

「…と、言わはりますと?」

「48時間以内に犯人像が割れたら、マイスターQのほうが不利な状況になるんじゃないかって、おれたちは推理した。だから、直子さんのDNA情報まで使って時間稼ぎをしたんだ、とね。でも、逆だとしたら?」

「48時間より早く解決させたほうが、マイスターQに有利ということか?」―デカが預言者を監視したまま応える。

「ああ。そのために、あえて非常識な時間制限を告知した。おれたちみたいな優秀な探偵なら、ゲームのルールよりも早く難問をクリアしてやろうと考えると読んで。そうだとすれば、預言者がネタバレに登場したのも理解できる」

「なーるどな!時間稼ぎするなら、そのニセの影山は、48時間のタイム・リミットまで、雲隠れしとるはずや!まだ24時間あんねんからな!」

デカが困惑した。

「では、この男…預言者は、なんの目的でこの時間に戻って来た?」

「おそらく…」と、ミックは預言者に向かって続けた。

「こいつは、文字通りマイスターQの代理人として戻ったんだ。マイスターQが不在だから!」

「いや、マイスターQなら、あの絵の額縁からいつでもメッセージを送れるんじゃないのか?」

「そこだよ、デカさん。キヨカちゃん、マイスターQのメッセージの最後のところを聞かせてくれないか?」

 キヨカは背中越しに親指を立てると、パソコンの音声ファイルを再生させた。それはマイスターQが、5人の探偵に残した結びの言葉だった。


―「みなさん、取引成立ですね。ありがとうございます。では、48時間後まで私との通信は遮断されます」


「そういうことか」―デカが頷いた。

「ああ。マイスターQは、48時間後まで登場しないんじゃない。ある目的のために、自ら通信を遮断しなければならなかった!つまり、タイムリミットより24時間早い現時点では、登場できない状況なんだ!だから、生身の人間である代理人が戻って来たんだ。違うか?預言者!」―ミックの人差し指が真っ直ぐに預言者に向けられた。

「…」

「おっほー!黙りよったで、このドアホ!セリフを忘れたんか?!」

「キヨカちゃん、まず、この男が何者だか判るか?」

 キヨカは山根のノートパソコンから、大量のサーバーログ情報を掘り出していた。

「…山根とニセの影山、つまり預言者を名乗るこいつとのメール履歴から、どこにつながっているかを辿ると…おっと、防衛庁の機密情報だ。預言者は、どうやらゲリコマの出身だな」

「ゲリコマ?なんやそれ?」

「CIAでは情報収集されていたよ。ゲリラコマンド部隊…自衛隊に存在しながら、公式な組織図にも載っていない精鋭特殊部隊だ」

「…この男は、劇場支配人・影山氏を装って、まず山根君のパソコンから国外を経由して、ゲリラコマンド部隊の元同僚にアクセス。そこから防衛庁の機密情報データをアメリカ、デラウェアの基地局に送信している」

「デラウェア!八代誠一が創業した、テック・ディメンション・アライアンスの本社所在地やんか?」

「そう。正しくは、八代誠一という役を演じた本物の影山氏によって創業された…ってことになるけどね。そして、最後にすべての情報は、シンガポールのサーバーに流れ込んでいる」

「すべては、シンガポールからの遠隔操作だったのか?!」

デカに問われた預言者は沈黙を続けた。

「情報だけじゃないよ。山根に送られたカネ、おれたちに送金された着手金もシンガポール中央銀行からだ。一度、香港の銀行に送られてから日本に仕向けている」

「つまり、シンガポールにマイスターQの金庫があるってことか。事件というものの多くは、カネの流れを追えば真相は見えてくる。キヨカ君、追跡を続けてくれるか?」

「いまやってるよ。ちょっと待って…」

「みなさん、合格点まで近づいていらっしゃる…」―預言者が、再び口を開いた。

「なんや!セリフを思い出しよったんか?!」

「私が影山様のニセモノであること、特殊部隊の出身であることは、見事に正解です。しかし、八代誠一…いや、八代誠一に仕立て上げられた本物の影山様が、なぜ死体となったのか。その解答は見つからないようですね」

「いいや、必ず見つかるさ。この感じ、完成間近のクロスワード・パズルを前に集中しているときみたいだ。おれたちが見落としているなにか…あと、ひとつだけキーワードが見つかれば、すべての謎は解けるはずなんだ」

「いいでしょう。リミットまで、まだ時間はあります。私は逃げも隠れもしません。ここでお待ち致しますよ」

そう言って預言者は舞台上のソファに腰かけた。

ネギが歯を軋ませて預言者を睨む。

「このおっさん、ほんま好かんわー!ミックはん、わしらが見落としとるもんてなんや?」

「Wait a moment.(ちょっと待って)…この事件のすべてが、人工知能・マイスターQのシナリオだとすれば、この死体だけが奇妙じゃないか?」

「毒殺…という点が、だな?」―デカが閃いた。

「Yes ! デカさんの告白で直子さんの事件を聞いたとき、このニセの八代誠一殺害は奇妙だと思ったんだ。もしも、直子さんもなんらかの理由でマイスターQの計画によって犠牲になったんだとしたら、人工知能は人間を操って、しかも最も合理的な方法で邪魔な人間を排除する」

「巨額の現金を送りつけて、人間の善悪を麻痺させては殺人に走らせるという手口か。あのアジア系のテロリストも…」

「そうだとすれば、コンピューターが、毒殺なんて不確かな殺害方法を選ぶだろうか?」

「じゃあ、おれたちが見落としているものとは…」

「ああ。人工知能のほうじゃない…人間しかやらないことについてだ」

 探偵たちが客席にいる八代誠一…そのダミーである影山の死体を注視した。

 影山が、微笑んだように見えた。

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