二刀流

「はい、百円。今日もいいかな」

「あはっ! ありがとー。おじさん、あたしのおっぱいほんとすきだねー」

「う、うん。そうなんだ」


 目の前でツインテールの可愛らしい小さな少女が、中年に何かを受け取ると大きく胸を逸らした。

中年の男は下卑た笑いを浮かべ、その両手を少女の胸元へかざす。


 あれは多分初犯じゃない。今まで運良くハッピータイムのタマホームだったようだが、俺が見てしまったからには火の粉がぱちぱちだ。


「そこまでだっ! このクソロリコン野郎!」


 俺、今日は絶好調。俺に殺せないものはない、たとえ神でもな!

 神速歩行で歪んだ景色の先に標的を確認した。

 もうこうなったら俺のターン、誰も逃げられない。


「悪即ざああああん!!!」


 気合いを入れ過ぎるくらい入れて思いっきり俺の宝具『如意の誅言(電気警棒)』でそいつの胸を突いたった。そしたらバチバチ静電気が音を立ててそいつの体中で青く光って――警棒の先から出たスタンビーム(電気)がいつも以上に大量にそいつの体に流れまくって――俺の目には一筋の光が見えた。


「ごめんなさい、はよおおおお!!(訳:早く謝ってください)」


 追い打ちで警棒ひねってねじ込んだら、もう一回静電気がさっきより大きな音出してそいつの体を光りながら駆け廻った。


 その時、ちょっと電気流し過ぎぢゃね?って思ったんだよね実は。


「反省したかぁこらぁ!」

っていいかけたら


 あいつは、確かにこう言ったんだ。


「私は、この時を、待っておりました」


 ――は? 何言ってんの、何の話?


 でもこっちが質問する前に、そいつの震えながらむせて盛大にえずきだして、大きく痙攣して息を詰まらせて、ガクッと地面に倒れこんだら、それで動かなくなった。


 おい、何だよこれ……


 丁度その時、後ろからぜえぜえいいながらバタバタ走って来る音が聞こえて、振り向いたら白髭のじいさんだった。

 慌てて駆けつけてきたのか、ものすごく息を切らして、でも、白髭じいさんは声を絞り出すように言った。


「我が二刀流の呪い、危なくまた、未熟な乳を揉みしだいてしまうところだった」


 そういって、じいさん泣きだした。


 こいつ悪者だろ、何泣いてんダヨじじい! っていうかお前誰だよ。

 訳がわからなくて、姉さんに連絡取ろうと回線開いたらカメラに映ってる姉さんは蒼い顔してひどい顔して絶句してた。


 おい何だ、何なんだよ! 何が起こった!?


 密かにビビっている俺まるでビビってない風ですまし顔してたら、姉さん小さな声でこういった。


「遂に――はじまってしまったのね」


 え? 何て?


 姉ちゃんは何かを言ったがその声は聞こえなかった。かわりにどこか遠くでちんどん屋が騒いでいた。

 賑やかて古臭いやぼったいあっけらかんとした音楽が、邪魔だなこの音、そう思ったら――目眩がして立っていられなくなった。しゃがみこんで目をつむった。


 ―そうして目が醒めて、気が付くと、ボクは侍になっていたんだ――

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