第30話:解き放たれた獣
ログイン38日目。今日は雇用NPCの子たちを連れて素材採取に出かけている。
というのも、なんだか急にお店のリクエストボックスにペリアさんに渡したのと同じ【代償:クレジット】の装備の注文がたくさん入ってきて、素材が足りなくなってしまったの。
手に入るまで後回しにするかなー、と思ってたらせかすように注文者と同じ人からお店にチップが! しかも徐々に額が増えてきてる……私の精神衛生のために早めに済ませちゃいたい。
該当素材はワールドマーケットで買うとやたら割高だし、手に入る場所は掲示板で調べたら結構近場だったので、せっかくだから自分で採りに行こう! というわけ。NPCの子たちも放っておいたら育たないもん、ちょくちょく育成していかないとね。
今回素材を採取しに来た場所はいわゆる『ダンジョン』って呼ばれる場所だ。
通常の戦闘フィールドと違ってモンスターだけじゃなく罠や宝箱なんかもある、普段とちょっと違うスキルが必要なところだね。
ちなみにダンジョンには『常設ダンジョン』と『インスタンスダンジョン』の2つがあって、後者はギルドの貸し設備みたいに入ったパーティごとに中身が違う、他の人を気にしないでいい仕様になっている。
私? 私が入るのは常設ダンジョンの方だね。こっちの方は他のプレイヤーも中にいるから、モンスターがその人たちに狩られて遭遇確率が下がって安全なんだって。攻略掲示板にも『インスタンスは効率重視、常設は安全重視』って書いてあったよ。
同じダンジョンいるプレイヤーに邪険にされたりしないのかな? って思ったけど、ダンジョン内のプレイヤーが多いほどモンスターや宝箱の出現率が上がるからむしろ歓迎されるみたい。とはいっても、本格的な狩場になってる常設ダンジョンでは上位プレイヤー以外は戦闘は諦めろって言われるくらい奪い合いになってるらしいけどね。
まあ、私が欲しいのはダンジョン内の採集ポイントで採れる素材アイテムだから、敵が少なくて困る事はないし、なんならダンジョン内のモンスター全部狩りつくしていて欲しいくらいだよ。
そんなに賑わってるダンジョンじゃないらしいから、それは流石に無理だろうけどね。
山岳エリアのダンジョン、【地熱洞窟】。岩肌の陰のあちこちから蒸気が噴き出していて、ゲームじゃなかったら服や髪がじっとりしてしまいそうな場所だ。
存在する罠も人工物系じゃなくて、高温の蒸気が噴き出したり、濡れた苔が足を滑らせにきたり、そういう環境の脅威がここのトラップ。
普通のダンジョンなら【盗賊】系のNPCを雇うところだけど、自然環境が主体のここのダンジョンなら【狩人】系のキースくんのスキルでトラップが探知できる。
弓で戦うにはかなり狭いけど……そこはメインアタッカーのアンヌちゃんが補うから、今回はそっちはお休みかな。採取へのボーナスはキースくんがいるだけで発動するし、十分な働きだね。
なんか敵が全然いないから奥へどんどん進んでるけど、あまり最深部には近寄らないようにしなきゃ。最深部は難易度が跳ね上がり、強力なモンスター……『サラマンダー』が出現し、ダンジョン内の泉で採取できる『冷却水』ってアイテムを使用してないと一定間隔で暑気ダメージを受けてしまう。サラマンダーに襲撃されて大ダメージを受けて、命からがら逃げだしたものの最深部から抜け出す前に暑気ダメージで死に戻り……っていうのが慣れてないプレイヤーのよくやる失敗なんだって。
目的の素材アイテムはもう十分集まったけど、敵も全くいないしもう一か所くらい採取ポイントを周っておきたいかなー。
足元に気を付けながらのろのろ移動する私に、聞き覚えのある声が届いた。
「あれ? ジュールさんですよね、こんにちはー!」
「ペリアさん!? 」
そこに居たのは、この間ちゃんとした武器に更新をした【回収士】のペリアさんだった。防具も別の店で更新したらしく、初期装備に比べて格段に強そうになっている。
「ペリアさんはどうしてここに?」
「ジュールさんに作ってもらった新しい武器が良い感じなので、腕試しに!
ここのダンジョンは宝箱より採取ポイントの方が多いので丁度いいんですよ」
現地で代償用のクレジットを補給しながらぶっ続けでこのダンジョンに潜っているらしい。もしかして、なんかモンスターが全然出なかったのってペリアさんが狩りまくってたから……?
「サラマンダーはドロップの売値もいいし、戦ってて楽しいですね! でも、そろそろ慣れてきたので別のモンスターに挑んでみようと思います。それじゃ、また!」
え……? ペリアさんってあんまり戦闘経験ないって話だったよね? もしかして、もうサラマンダーを倒したの!? しかも、もっと強い敵にも挑む気なんだろうか。
ひえぇ……
本人の才能もあったんだろうし、手段を与えたのは私……でも、なんか選択肢を間違えたような、猛獣の檻を開けてしまったような感じがするよ。
なんだか急に彼女がとても遠い人になってしまったような複雑な気分で、私はソロになって止める人は誰もいない暴走列車と化したペリアさんを見送った。
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