第3話:思わぬ落とし穴

 生産ギルド。冒険者ギルドと同じく大抵の街にあって、生産職用のクエスト受注や生産品の買い取り、素材の売買から生産設備の間借りまでとりあえず生産に関わることなら何でも出来ちゃう便利施設だ。

 師匠NPCにスキルを伝授してもらわない場合は、ここでおつかいクエストを幾つかこなしてスキルを手に入れる……って流れらしい。

 ところがですよ、私はついさっきハイスキルを手に入れて、言わばいきなり二次職に就いたようなもの! これなら金策も楽勝でしょ!

 生産職の金策は、もちろん生産品の売却がメイン。

 ギルドやプレイヤーから買ったり自分で集めてきたりした素材でドンドン生産をして、売り払ったお金で更に素材を集める。この循環が生産職の強みだね。

 戦闘職だと序盤は良い装備を整えるのにお金がいるのに、それを集めるにはモンスターを倒す必要があって、それには良い装備が必要……みたいな負の循環もあるし。

 さっき作った銅の短剣は記念にとっておきたいから、まずは生産設備を間借りして売却用の装備を造ろっかな。


「すみませーん。生産設備の貸し出しお願いしまーす」


 ギルドの窓口で美人の受付さんにお願いすると、彼女はこちらをジッと見つめた後、ニコリと笑顔に変わった。


「はい、生産系スキルを確認しました。あら……? 代償鍛冶師、ということはリスキーさんのお弟子さんですか?」


「え?あ、はい」


 攻略掲示板の序盤フローチャートではすぐに間借り部屋への鍵を渡されるって話だったけど……これって称号か関連クエストをクリアしたからかな?


「そうですか……大変かと思いますが、頑張ってくださいね。これはほんの気持ちです」


「えっ、レシピ本!? ありがとうございます!」


 やった! 実は新レシピを買おうか迷ってたけど、タダでレシピ本がもらえるなんて称号さまさまだね!

 その後、普通に鍵を貸し出してもらえて、別の窓口でちょっとずつ魔物素材を購入した私は他の設備間借りの人たちと一緒に奥の扉へ並ぶ。

 前の人が扉に入ったら、扉が閉じてから次の人が入る。

 ちょっと奇妙だけど、これ、同じ部屋に入ってる訳じゃないんだよねぇ。

 この生産ギルドの奥の扉は、受付で鍵をもらって開けばその人の職業に対応した生産設備のある部屋に繋がっている。

 つまり扉は一つだけど、部屋自体は開く人の数だけあるわけ。うーん、ゲームならでは。

 私も扉をくぐると、リスキーさんの鍛冶場とあんまり変わらない部屋になっていた。

 この貸し出し生産設備は無料で利用できるけど設備レベルみたいなのは最低限で、レベルアップにはギルドで受注できるクエストをクリアしたりNPCへの貢献度を貯める必要があるそう。

 それでも別の街で借りるとレベルの上げなおしになっちゃうから、自前の生産設備を転移可能な場所に構える人の方が多いみたいだけど。


「よーし、やりますか!」


 手持ちの金属はログインボーナスでもらった銅のインゴットが3個。

 とりあえずたくさん作りたいから、銅のインゴット1つで作れるレシピで3つ作っちゃおう。

 最初の生地(もうそうとしか思えない)に混ぜるのは動物系素材の《草原兎の毛皮》にした。毛皮なのに薬研みたいな設備でゴリゴリすると綺麗な粉末になるのは本当に謎。まあゲームだし……

 そして出来たのがこちら。


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【銅の短槍(代償)】 耐久:40/40

ATK+6(+3) SPD+6(+2) DEF-5

[説明]

銅でできた短槍。

通常より強力だが、装備者は防御力を代償に支払う。

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 短剣との性能の違いは武器の種類のせいなのかな?

 SPDは攻撃速度に関わる数値らしい。身のこなしとかの素早さはAGIで別枠なんだって。

 基本的に武器に付く方がSPDで防具に付くのがAGI。マイナス修正はどっちにも付くことがあるらしいけど。

 地味に防御力のマイナス修正が小さくなってるのも気になる。

 レシピの標準性能と比べると、短剣の時と違って性能も倍増ってほど強くなってないし、これは混ぜた素材のレアリティが低いせいかも? でもそれだと良い素材を混ぜたらそれだけ代償も激烈になるってことだよね……

 

 次はスライム系素材の《小型スライムの粘液》を混ぜたもの。


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【銅の片手剣(代償)】 耐久:2/2

ATK+10(+6) 

[説明]

銅でできた片手剣。

通常より強力だが、耐久性は代償となった。

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 ……耐久ひっくい! これ実戦で使ったら戦闘中に砕け散るでしょ。硬いモンスターを相手にすると耐久はゴリゴリ減ったりするらしいし、柔らかい急所部位だけ狙えるプレイヤーばっかりじゃないしね。

 武器が壊れる最後の一撃は確定でクリティカルになるらしいけど、これじゃ最初の一撃が最後の攻撃になっちゃうよ。

 街の外のフィールド上で武器を失ったら帰るのも大変だもん、流石にこれは産廃かな。


 最後に混ぜるのは不死者系素材の《ゴーストの涙》。見た目はくすんだ小さな真珠みたい。

 これを混ぜて最後の生地()を捏ねたんだけど、結果は予想外、というか予想以下になってしまった。


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【銅の膝当て(代償)】 耐久:90/90

DEF+2 AGI+1 ATK-12 MaxMP-24  

[説明]

銅でできた膝当て。

装備者は攻撃力と魔力を代償に支払う。

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 レシピの標準性能以下の内容に加えて、MP……は予定通りにしても攻撃力までマイナス修正が入ってる!

 どういうこと!? と思ってよく見たら、《ゴーストの涙》は不死者系素材であると同時に宝石系素材でもあるらしい。

 つまり2つの付与を同時に行った扱いになって、見事に失敗したみたい。リスキーさんも最初はやるなって言ってたものね。

 結局まともにできた品は最初の短槍くらいだけど……まあギルドで売却するから何とかなるかな?

 こういう時に買い渋りされないNPCショップって便利だよね~






「っか、【買い取り不可】ぁ~!?」


 さっき作った生産品をギルド窓口で売却しようとしたら、全部の生産品に【買い取り不可】のタグが付いていて、思わず驚きの声が出る。

 バグじゃないかとも思ったけど、自動で開いたヘルプメッセージで丁寧に否定された。

 生産品は加工工程で明確に手抜きをしたりすると確実にマイナス修正が付く。

 だから『故意に』マイナス修正が付けられた生産品はギルドで買い取りができません……と。

 たしかに代償鍛冶は能動的にマイナス修正を付けるスキルだけど、だからって全部買い取り不可にするのは酷くない!?

 ヘルプにも『故意に失敗した場合と一部スキルによる生産品』って書いてあるけど、まさかその一部のスキルが代償鍛冶だなんて思わないよ!


「そんなぁ~……」


 順調に滑り出したと思ったのに、思わぬところで私のゲームプレイは道から滑り落ちてしまったのだった。

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