第4話:方針転換
ギルドで代償鍛冶の生産品が買い取ってもらえないという思わぬ落とし穴はあったものの、へこんでばかりもいられない。
とりあえず製作した品の中で一番マトモな『銅の短槍』はわずかばかりの希望に賭けて《ワールドマーケット》へ流す。
普通は露店を開いたり固定店舗を借りて販売するものなんだけど、ワールドマーケットなら余計な費用をかけずに全プレイヤーを対象にした販売ができる。
じゃあなんで店を構えるのかって話だけど、手数料もなく気軽に市場に出品できる関係上、ものすごく品数が多くて混沌としてるんだよね。
いろんなソートやフィルターも掛けられるから検索は割とスムーズだけど、品数や品質も安定していないから結局店舗販売の方がマシ、ってことになっちゃうんだ。
そんな玉石混交なワールドマーケットなら、代償鍛冶の生産品もワンチャン売れないかな……ダメ? たしかに玉と石で言えば、結構石よりかなぁとは思うけども。
それと合わせて、売れ行き商品のリサーチをする。
私のできる3種の付与、【防御代償】・【耐久代償】・【魔力代償】。そのうち【魔力代償】は《ゴーストの涙》で失敗だったから、【防御代償】と【耐久代償】で作れるものと似てる売れ行きのいい商品を参考にするんだ!
とにかくプレイヤーに買ってもらえる物を作らないとお金にならないもんね。
……うーん、防御力が下がる装備は普通はないんだね。まあ防御力が下がる防具とか意味分からないし、武器でも持つと防御力が下がるって序盤だと嬉しくない仕様だもの。
装備すると外せなくなる『呪いの装備』とかだとそういうこともあるみたいだけど、人気があるかと言われれば……ねぇ?
でも、耐久が低くて売れ行きのいい商品は意外なことに結構な種類があった。
矢とかダーツとか苦無とか……消耗品の遠距離武器はむしろ耐久力が低い方が人気みたい! いちいち回収するのが面倒くさいし、壊れた時の確定クリティカルが出た方が効率が良いかららしい。
矢……は矢じりしか作れないよね。たしか作るのに矢羽根とか木材も要るレシピだったはず。ダーツも苦無もレシピを知らないし。
そういえば、受付の人からもらった【初級鍛冶レシピ(選択)】なら投げナイフのレシピを覚えられるんじゃないかな。
ハッ、まさかあのイベントって……救済措置?
と、とにかく、方針も固まったし、今度は投げナイフを作って金策のやり直しだー!
再度借りた生産設備で、失敗した作品2つを炉に放り込む。
生産系職業の裏ワザとして、自分の作った生産品は設備を使って素材に戻すことができるのだ。
まあ戻ってくる素材は半分くらいなんだけどね。
で、でも、さっきの2つを素材に戻せば銅のインゴット1つ分になるし、これでレシピ本で覚えた『投げナイフ』を試作できるよ!
鍛冶場の炉がゴーゴー火の粉を上げると、ガチャンと音を立ててインゴットが吐き出される。うーん、ゲームだなぁ。
これと《小型スライムの粘液》を使って作ったものがこちら。
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【銅の投げナイフ(代償)】 耐久:2/2
ATK+5(+4) SPD+4(+1) RNG+3(+2)
[説明]
銅でできた投げナイフ。
通常より強力だが、耐久性は代償となった。
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このレシピはインゴット1つで投げナイフが5つもできるんだね。ちょっとお得。
消耗品の遠距離武器は基本的に一度に複数の生産品ができあがるレシピみたい。たくさん使うの前提なところあるからそういう仕様なのかな。
RNG……っていうのは、たしか射程距離補正だったかな? 高いほどブレずに遠くまで飛ぶんだとか。
普通の投げナイフは本当に牽制程度の威力しかないみたいだけど、この数値を見るに短槍より強いんじゃない……?
というか、確実に【耐久代償】の基本性能の増幅率が他の付与より高めだよね。さっき溶かしちゃった片手剣も妙にATKが高かったし。
でもこれ、本当に売れるかなぁ? マーケットで売られてるアイテムも、【耐久:20/20】で十分低いみたいな評価だったけど。
なんなら耐久力を見極めて【耐久:5/20】みたいに調整してから売り出すダメージ加工を売りにしてるプレイヤーもいるみたいで、駆け出しの私のアイテムが市場に入っていけるか不安。
……うん。ちょっとお財布事情には優しくないけど、街の市場で露店を借りてみよう。
ここは最初期ホームの街だし、マーケットよりは初心者とか目の肥えていないお客さんもいるはずだ。
いや、別に騙そうってつもりはないよ? ただ、慣れたプレイヤーさんの傑作と比べられるのがちょっと嫌なだけで……。
それに、私の生産品は結局プレイヤーにしか売れないんだから、固定客とかを早めに見つけていかないとね!
流石に投げナイフ5本だけじゃちょっと寂しいから、ギルドでインゴットを買い足してもうちょっと作っておこう。これは先行投資、先行投資だから……。
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