第1話:まずは弟子入り!
「おお~! これが! 『NEW FRONTIER』!」
ゲームの世界に入った
最初の拠点となる町だけあって、広場はNPCではない他のプレイヤーたちでごった返していた。
「えっと……『帝国の辺境・ブロンディン』、ってことは帝国サーバーかぁ」
視界の隅に表示された現在地名で、私は自分がいるサーバーを確認する。
『NEW FRONTIER』の初期スポーン地点は幾つかあって、それぞれ属するサーバーによって帝国・王国・連合国・共和国などに分かれる仕様だそう。
帝国は鉱石資源が豊富な設定で、ドワーフの初期スポーン地点に選ばれやすいって話だから選出されたんだろうね。
個人的には綺麗な海に面している共和国が良かったんだけど……まあ、
本来はチュートリアル通り、戦闘職希望者は冒険者ギルド、生産職希望者は生産ギルドで自分に合った武器や職業を探すんだけど……私には有志攻略掲示板の情報という強い味方がある。
なんでも、街にいる『師匠NPC』と呼ばれているキャラに弟子入りを頼めば、初期のおつかいクエスト数個をスルーして武器や職業のスキルが手に入るらしいのだ!
どの師匠NPCから何のスキルが伝授されるかは固定なので、目当てのスキルを伝授してくれるNPCを見つけることができれば大幅な時短になる、ってテクニック集に書いてあった。
「ブロンディンの師匠NPCは……生産職だと【鍛冶】を教えてくれるキャラが南区にいる、か。じゃあ目指すは南区!」
そうして私は、帝国辺境の町・ブロンディンの南に広がるスラム街へと向かったのだった。
ブロンディンの南区はさっきまでいた広場と違って閑散としていて、無軌道に建てたようなボロボロの家が密集してとても入り組んでいた。
攻略掲示板からダウンロードしてきた地図通りに進んでいたつもりなのに、どこで間違えたのか、無いはずのところに道があり、続いてるはずの道が行き止まり。
……つまりは完全に迷いました!
周囲の風景は完全にゴーストタウンかお化け屋敷だけど、一応ここも町の中だからセーフエリア、つまり戦闘は起こらないはず。
地図データを右に左に回転させたり上下反転させながら、あっちでもないこっちでもないとうろうろしていたらまた行き止まりに来てしまった。
スポーン地点の更新もしてないし、最終手段で一旦ログアウトして初期スポーン地点に戻ろうかなぁ、そう考えた時だった。
「…………もし、そこな同胞のお方よ」
「へ? わ、私?」
道の端、乱雑に積み上げられたガラクタの山の陰に、ボロボロの布切れに包まった人影があった。
私を『同胞』と呼んだことと立派なヒゲから多分ドワーフなんだろうけど、凄く弱っているのか顔色が悪い。
何かのイベントかな?と近づくと、そのドワーフは咳き込みながら続けた。
「どうかお持ちであれば薬を恵んでくれまいか……ここではなかなか手に入らず……」
「ええ……」
目の前に『どのアイテムを渡しますか?』のウィンドウが出たけど、困る!
どうしよう、助けてあげたいのは山々だけど、私はプレイし始めてそんなに経ってないペーペーで、薬どころかアイテムもほとんど持ってない。
持っているのは譲渡不可の初期装備一式と、初期所持アイテムくらいで……、…………!
「えと、これじゃダメ、ですかね……?」
差し出すアイテムに選んだのは『ドワーフの火酒』。種族:ドワーフの初期所持アイテムの1つであり、飲むと一定時間の攻撃力アップと『酩酊』の状態異常を受けるアイテムである。
病人にこれを渡すのは、なんか末期の患者さんに強い痛み止めを処方するような感じがして凄い嫌なんだけど……
しかし私の葛藤に反して相手の反応は劇的で、そのドワーフは『ドワーフの火酒』の瓶に涙目で頬ずりした後にラッパ飲みをしだした。えええ…………いいの……?
「っプハァッ! いやぁ、酒は百薬の長じゃのう! 助かりましたぞ、同胞の方!」
「えっ、ああ、はい……」
火酒を飲んだら顔色も血の気が戻って、弱々しかった声も張りを取り戻している。
今のこのドワーフの姿を見れば、誰も病人だとは思わないだろうね。
病人じゃなくて、吞んだくれじゃん……心配して損した気分。
「何かお礼をせねばならんな……そうじゃ! 貴方に弟子入りの意思があるのならば、我が鍛冶の技、ハイスキル【代償鍛冶】を伝授して進ぜよう!」
「ハ、ハイスキルっ!?」
す、すごい! この人も師匠NPCだったんだ!
しかもハイスキルは、普通は下位のスキルを育てきってから初めて習得できる上位スキル。それを伝授してくれるなんてラッキーとしか言いようが無いよ!
私はこの良い話に、何も考えずに飛びついた。
「はいっ! 弟子入りお願いします!」
「おお、良い返事じゃ。ではこの”代償鍛冶師リスキー”、一瓶の酒の御恩を返させていただこう!」
……今思えば、聞いたことの無いハイスキルにもうちょっと警戒した方がよかったのかもしれない。
リスキーさんに案内されて寂れた家屋へ入ると、失礼かもしれないけど、思ったよりまともな生産設備が揃っていた。
鍛冶場……なんだよね? 一応金属を溶かす為のものだと思われる炉があるものの、鉄を打つハンマーとかそういうのは置かれてない。
代わりに金属でできたでっかい作業机があって、大小様々な瓶になにかの粉が入れてあった。何に使うんだろう……?
「まずは師匠である儂がお手本を見せよう。最初はこの炉でベースとなる金属を溶かすんじゃ!」
そう言って取り出したのは【銅のインゴット】、入手できる中では最も難易度の低い初心者向けの金属塊だ。
攻略掲示板によると、生産設備に追加燃料を入れなくても加工できる代わりに加工品の性能はそれほどでもなく、まさに序盤金属といった感じらしい。
炉の炎でインゴットは見る見るうちに溶かされ、リスキーさんが炉の下の栓を抜くと液状化した金属がセットされた器に流れ込んでいく。
「少し冷えてきたら、こうじゃ!」
「えぇっ!?」
なんとリスキーさんはまだ赤熱している金属を素手で掴み、作業机の上で捏ね始めた。
ファンタジーすごい……ドワーフは炎熱耐性が高いとは聞いていたけど、こんなことまで出来るんだ!
ハンマーで叩いたりとかできるか不安だったけど、これならパン生地とかをこねる要領で出来そう。
「これが【代償鍛冶】特有の工程、『
「ね、
すごく人聞きの悪い響き……『捏ねて造る』からにしても、もう少し何とかならなかったのかな?
「最も手に入りやすい素材による付与は、動物系素材の『防御代償』、スライム系素材の『耐久代償』、不死者系素材の『魔力代償』じゃ。慣れん内は複数付与するのはやめた方がよい。それ以外は、おいおい自分で見つけていくといいじゃろう」
「『代償』?」
【代償鍛冶】というくらいだから、通常の【鍛冶】スキルとは違うんだろうけど、具体的に何が違うんだろう。結構不穏な感じに聞こえる。
「付与の種類によって、特定の性能が著しく下がったり、装備時にステータスが減少したりするんじゃ。代わりにその他の性能はベースとなった金属より1、2ランクは上のものに匹敵するぞ!」
「すごい!」
つまり、銅製の装備でも、それよりレア度の高い青銅や粗鉄に匹敵するってことじゃない!
これって大当たりなんじゃない!?
「さあ、次は実践じゃ。モノになるまで儂の持ってる素材を好きなだけ使ってよいぞ」
「ありがとうございます、リスキーさん!」
「ガハハ! なになに、受けた恩義に比べればこの程度安いものじゃ!お嬢ちゃんもこれから頑張りな!」
「はい!」
ふふふ、私の『NEW FRONTIER』生活、なかなか順調な滑り出しじゃない?
この調子で序盤はサクサクいくぞー!
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