代償鍛冶師のキワモノ装備製作記

@woodenface

プロローグ:キャラメイク

 VRMMO。それは昔、ゲーマーたちの憧れた夢であり、専用端子の埋め込みインプラント技術と思考補助ナノマシンの普及によって実現した新世代のゲーム。

 全身のナノマシンと神経系に埋め込んだ接続端子で精神だけを電子ネットワーク上のゲーム世界に入れて遊ぶ仮想体感型ゲームだ。

 ……しかし、ゲームの進化に対し、関連法の整備は間に合っていなかった。

 結果として、現実リアルとほとんど変わらないアバターでプレイして個人情報を特定され事件に巻き込まれる事例など多数の事案が発生し、自由度の低い一部ゲームを除いて長い間VRMMOの開発はゲーム界で自粛されていた。


 だが、その長い空白期間の間に数多の規約、法整備、対策が講じられ、ついに満を持して自由度の高い新作VRMMOゲーム『NEW FRONTIER』が発売された。

 それを心待ちにしていたのは旧VRMMOプレイヤー全て……そしてその1人の志位しい 敦子あつこも同様である。





「やったー!ついに私も『NEW FRONTIER』デビュー!」


 仕事から帰ってきた私……敦子は、部屋でついに届いた外箱を抱えて歓喜の踊りしていた。

 αテスト、βテスト、発売当初の抽選販売、と全て抽選漏れで涙を飲んだけれど、ようやく、待ちに待った到着!

 これで有志が作った攻略掲示板を眺めながら口惜しい気分になる必要もなくなる!

 ……まあ、それならそもそも見なければいい話というのは別として。


 外箱を開けると厳重に梱包されたケースの中にカード状の金属板が収められていて、表面に『NEW FRONTIER』の刻印がされている。

 ドキドキしながら説明書通りに金属板を掌で挟むと、視界にAR拡張現実ディスプレイが開きデータのダウンロードが始まったことが分かった。


「人体の塩分を伝導体にして血中ナノマシンにデータをダウンロードするんだっけ?便利だねぇ」


 しかも一度ダウンロードすれば該当人物のナノマシンナンバーが登録されて、盗難されても他人には使えない、プレイヤー限定イベントなどの参加証にもなるハイテクアイテムなのだ。

 従来のダウンロード用ナノマシンを注入するのよりずっと便利で、注射が嫌いな私にはとても助かる。


「さってさて~、『NEW FRONTIER』~♪『NEW FRONTIER』~♪」


 ウキウキしながらうなじに埋め込まれた接続端子に回線ケーブルを接続し、視界のARディスプレイで『NEW FRONTIER』の実行を選ぶと、視界や体の感覚が遮断され、私の精神はゲームの中へと旅立っていった。






「さぁ!キャラメイク始めますかー!」


 とはいっても、『NEW FRONTIER』のキャラメイクはステータスと見た目の調整、初期アイテムを選ぶくらいだけどね。

 職業はゲーム内で【スキル】を習得していくことで分化する仕様らしく、新規プレイヤーは全員職業が【新参者ノービス】で固定されているそうだ。

 やろうと思えば生産と戦闘、魔法と近接攻撃などの両立も可能な夢のある設計だそうだけど、手を広げすぎれば器用貧乏になってしまう。

 ステータスも初期で振れるポイントで大きな差が生まれるほどじゃないから、これからの成長の方向性へ足掛かりを作ってね♪って感じかな。

 ……つまりは、見た目の調整こそがキャラメイクの主題!


「ん~、こう?こうかな? これでどうだっ!」


《スキャンされた現実の体形データとの相似率が70%を超えています。このアバターを使用することは推奨されません。規約により、このアバターを使う場合は同意書にサインを行ってください》


「あ゛ーまたダメかー」


 個人情報の保護のために、髪の色や老け具合を多少変えた程度のアバターを使いたいなら規約の同意書に『不利益を被っても文句を言いません』と一筆入れないといけない。

 なんとかちょいちょいアバターのパーツを変えてはいるけど、素体にスキャンした元の身体を使ったせいか相似率がなかなか下がってくれない。

 そろそろ面倒になってきたし、一気に相似率が下がる最後の手段を使うことにしよう。


「まあ、生産職にするつもりだし……いいよね?」


 最終手段、それは『ドワーフ』への種族変更。

 種族特性で身長が大幅に低くなるし、足の長さも大きく変わる。

 肉付きも全体的に良い……というか太いから、相似率は一気に下がるでしょ。

 リアルでは童顔がコンプレックスだから『背の高い大人びたお姉さん』にしたかったんだけど、まあ、この『小さな定食屋の女将さん』みたいなアバターも可愛いと言えば可愛いし、いい加減早くゲームしたいし、妥協しちゃおう。


「プレイヤー名は【ジュール】っと……」


 敦子あつこあつあつ→ジュールという単純な連想。大体のゲームで共通して使っているお馴染みの名前だ。

 志位敦子、あらためプレイヤー・ジュールはとうとう『NEW FRONTIER』の世界へと飛び込む。

 これからの私の冒険がどうなるか、私自身、全く想像がついていなかった。

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