第23話 甘党ツンデレ
★シアン・イルアス
シャルマとムクドリは、シアン達と同じ宿で部屋を取った。
シャルマ達が部屋に荷物を置きに行き、ついでに各々部屋に備わったシャワーで身を清める。先ほどまでの戦闘で、皆身体が泥だらけだったからだ。
一息ついたところで、一向は宿の一階に備わった酒場で遅めの昼食を取ることにした。
「改めて、自己紹介といこうか」
ウシ型キメラの肉を使ったステーキを噛みしめつつ、シアンは話す。
「オレは、シアン・イルアス。年は十七、隠れたり奇襲したりすんのが得意だ。心臓に『
「ボクは、ユキア・シャーレイだ。ストレイなので正確な年齢はわからないが、目覚めたのは十年前だな。頑丈な肉体と、身軽な動きが武器と言えるだろう」
「僕は、シャルマ・ジナーです。年は十五で、使用する武器は変形する銃型ストレイ『
「あなたはもう少し自分の性癖を隠しなさい。……サエン・ムクドリよ。刀型ストレイ『
既に知っている情報も含めて、改めて開示する。
サラダを頬張っていたユキアが(ウサギだから野菜が好きなのだろうか)、ムクドリの自己紹介に対して顔を上げる。
「
「私も、慣れるのに少し時間がかかったわ。村にいた
「そっか、親が両方日和出身ってだけだもんな。じゃあ、日和に行ったことはないのか?」
「ええ。一年前までは村を出たことなかったし、その後も近づかないようにしてるわ。み……『民』との戦いが終わる前に行って、もし巻き込ませてしまったら嫌だからね」
『
「そうか。なら、復讐を果たした後は日和に行ってゆっくりするといい。初めて行く場所だとしても、落ち着いて身体を休められるだろう」
「だといいんだけどね。……でも、そんな気が緩みそうな未来の話はやめてほしいわ。私は少しでも強くならないといけないし、精神を休ませる暇なんてないんだから」
素っ気なく言い放つムクドリ。仲間になって少しは話しやすくなったかと思ったが、やはり愛想に乏しいのは変わっていない。これもまた、子供らしい生き方を捨てた結果だろう。
……だが、少し危うさを感じた。
「……ムクドリ。お前、全く精神を休めないまま生活してるのか?」
「当然でしょう。私みたいな未熟な子供が戦っていくなら、一秒だって意識を緩められないわよ」
……確かに、常時気を張り続けるのは大事だ。未成熟な肉体でムクドリほどの戦士になるためには、こうするしかなかったのかもしれない。
ただ、片時も緩めないのも良くない。張り詰めすぎると、精神の糸はいつか切れてしまう。故に、趣味や人付き合いなどで適度に精神を回復させることが重要となってくる。
ムクドリを子供と侮っているわけではない。一人の戦士として認めているからこそ、危うさを正したいのだ。
「あのさ、ムク……」
「お待たせしました。ご注文の『ラピスラズリベリーのホイップクリーム増し増しジャンボパフェチョコレートソースがけ』です」
「……ん?」
店員が、超巨大パフェを持ってきた。
一瞬テーブルを間違えたかと思ったが、ムクドリが平然と受け取って食べ始める。そういえば、注文の最後にメニューを指差して何か頼んでいた気がする。
チョコソースとクリームの甘い匂いが、向かい側に座るシアンにまで漂ってくる。相当なボリュームの甘味の塊を、ムクドリはもしゃもしゃと平らげていく。
と、着物の懐から小瓶を取り出した。中のドロリとした液体を、パフェの上にかけていく。
「蜂蜜持参……!? というか、更に甘みを追加するのか……!?」
匂いだけでちょっとクラクラしそうだったが、ムクドリは涼しい表情で食べ進める。むしろ、スプーンのペースが上がっていた。
……ムクドリは、かなりのレベルの甘党だった。
――なんつうか、精神の回復不足の心配は杞憂だったみたいだな……。
『気を緩める暇などない』と言っていた割に、今のムクドリの表情はだいぶ緩んでいた。食べ過ぎによる体型悪化の不安はあるが、ムクドリのスリムな体を見る限り問題なさそうだ。
「ふぅ……堪能したわ」
すごい速さでパフェを食べ終わり、先ほどのシャルマと同じ台詞を口にする。幼馴染は似るのだろうか。
ムクドリの様子をじっと眺めていたユキアが、止まっていた手の動きをようやく再開させて野菜を口に運ぶ。
「なんというか……君にもスイーツ好きという女の子らしい一面があって少し安心したよ」
一般的な女子の趣味を超過しているような気もするが、安心したのは事実なのでシアンも頷いておく。
が、ムクドリは突然狼狽えだした。
「な、何言ってるのよ!? わ、私はべつにそんなんじゃないわよ!」
「「……ん?」」
顔を赤くして怒り出すムクドリに、シアンとユキアが首を捻る。
ムクドリは食べ終わった縦長の器を遠ざけ、腕を組んでふんと鼻を鳴らす。
「あ、甘い物なんて全然好きじゃないんだからね!」
「よくわからんがそれは好きな人の言動では」
本当によくわからんが、スイーツ好きを認めたくないらしい。
ぷいと顔を背けるムクドリの頭を、シャルマが撫でる。撫でながら、『可愛いでしょう?』という風に目線を送ってきた。
特殊性癖少年シャルマに同調したくない気持ちはあったが、確かにちょっと可愛いと思ったので『『まあ……』』と頷いた。
チラリと、ユキアの方を見る。丁度目が合った。お互い、思っていることを共有する。
『『なんか、個性的なコンビが仲間になったな…………』』
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