ヒーロー戦隊を定年退職したヒーローの日常
南風キル
第1話「ヒーローを定年退職しました。」
「やる事がないなぁ……」
暖かい春の公園のベンチで一人、桜を眺めながら呟いてしまった。
私、青野
誤解なく言うならば、デパートで行われているヒーローショーなどのヒーロー戦隊ではなく本物のヒーロー戦隊だ。
悪の秘密結社と戦い、様々な武器を使いこなし、巨大ロボットに乗る あのヒーロー戦隊を60歳と言う節目で引退をした。
組織や一緒に戦った仲間達から『候補生の教導官になって欲しい』と言われたが丁重に断った。
私としてはやり切った現役としてやり切ったので悔いはなかったからだ。
「さて、どうしようか……」
暇つぶしに散歩がてら街をぶらついて居たのだが、暇の方が勝ってしまっている。
「おや、貴方はブルーの青野さんですかな?」
「え?」
やる事がないので桜を眺めていると突如、声を掛けられる。
振り返って見るとそこには老人と呼べれる程の見た目の男性が居た。
「あの……誰でしょうか?」
恐る恐る訪ねてみると男性の表情は少し悩んだ感じだが思い出したかのようにこう言った。
「あぁ、申し訳ない、この姿ではお会いするのは初めましてでしたなぁ……昔、秘密結社に居た怪人のデストロー男爵です」
デストロー男爵……あぁ、思い出した。30年前に戦った秘密結社の元幹部の……
「あのデストロー男爵さんですか……」
「おや、警戒しなくても……安心してくだされ、もう既に秘密結社から引退しておりますからな」
「はぁ……引退ですか……」
ふと、疑問に思った。怪人となった者は病気にもならない……特に幹部になった者は寿命も何倍も膨れ上がると聞いたのだが……
「デストロー男爵さん、お聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「なんですかね?」
「元とは言え幹部となった貴方なら年齢的にまだ現役なのではないのでしょうか?」
「そうですな……今の結社はそうなってますな」
「でしたら……」
「私が幹部をやってた時とは違いますから それに私は致命的な部分での敗北ですからなぁ……」
そうか、あの時は先々代の総帥との最終決戦の時だったか……しかし、総帥を守るべき幹部が守れなかったら本来なら結社どころかこの世にすら居られないはずだが……?
「あの……一つ疑問があるのですが?」
「なんですかな?」
「あの後も結社に居たんですよね?あの時の結社でしたらその……」
「あぁ、先々代が倒される直前に私は先々代のお孫様……今代の総帥を連れて脱出したのです。先々代の家族を守ったので結果的に降格となっただけですよ 本来だったらこの世には存在出来てませんからな」
こちらが知らなかった重要な事をさらりと喋る。
まさか、今代の総帥が先々代総帥が死ぬ間際に本拠地を爆破した時に居たのだからだ
敵・味方構わず子供が傷つけられたり、犠牲になるのは今も昔も変わらず心苦しい事でしかないからだ。
「それは……知りませんでした……」
「貴方達はあの後すぐに脱出したので知らないはずですな。鳴り響く爆発の中、先々代から私に最期の念話で今代が成長して総帥になるまでは喋るなと言われてましたかな」
「そんな事があったのですね……」
今知った事実とは言え、あまり聞きたくなかった話だ。
「まぁ、その表情ですと明かさなかった方がよかったみたいですな……申し訳ない事をした」
「いえ……気になさらずに……それとこの話は他の人には喋りません」
「過去の事ですから喋っても構いはしませんが……貴方がそう決めるならそうしてくだされ」
「はい……」
「暗い話はここまでにして最近の明るい話でもしませんかね?」
「そうですね、そうしましょう」
その後は他愛もない家族の話などをしていた。ふと気づいて時計を見ると1時間は喋っていた。
「さて、そろそろいい時間なのでお暇しますかな」
「貴重なお話をありがとうございます」
「いやいや、それはこちらも同じ事 特に新婚の話は最高でしたわい」
「今となれば笑い事でしたが昔は修羅場でした」
「それも人生ですな」
「そう言えば、デストロー男爵さんは今のお名前は?」
「あぁ、言ってませんでしたね。今は安久津
「そうなのですか、では安久津さんまたお会いしましょう。これ私の連絡先です。」
「久しぶりに会って一回切りの話ではつまらないですからな 少し待ちなされ……」
デストロー男爵……いや、安久津さんがメモ帳を取り出して書き込んだ後にその紙を破って渡した。
「緋色区ですか……お隣の区ですね」
「偶然とはいえ縁を感じますな」
「ですね……では、またお会いしましょう」
「そうですな、また……」
そうして、安久津さんは片手を上げて公園から去っていった。
帰ったら一応妻に報告をしないと駄目かもしれないな……そう思いながら私も家に帰宅したのであった。
ヒーロー戦隊を定年退職したヒーローの日常 南風キル @kiru00
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