見世物小屋には蛇女がいた(激セマ昭和メモリーズ#13)

真留女

激セマ昭和メモリーズ#13より改作

私が通っていた都内の区立中学には地域のAとB二つの小学校から生徒が

入学してきていた Aは住宅街 Bは個人商店が軒を連ねる店屋街で

 私はBの出身であった 我が家は商家ではなかったが小学校で馴染んだ

仲間と比べて 最初Aの連中は少々気取っているように感じられた


とはいえ〝たけくらべ〟のように取っ組み合いのけんかに発展する事もなく

一年の一学期は穏やかに終わり さらに夏休みがおわると

 秋祭りのシーズンが始まる 商店街には店名を書いた提灯が張り巡らされ

空き地には丸太を組んだお神酒所が建てられ 法被姿の親父たちが

集まっては酒を飲み 町はどんどん活気づいていく


AとBの氏神様は違う


Aには かん虫封じと一陽来復で都内でも有名な八幡神社があった 

暮れと節分の〝年越し〟には一陽来復のお札を求めて都内だけでなく

近県からも人が来て長蛇の列ができる

かん虫封じ というのは古来 キ~ッキ~ッと泣き止まない赤ん坊には

〝かんの虫〟が付いているといわれていて お祓いをしてもらうのだ

近所の婆さんたちは「お祓いが進むと 赤ん坊の爪の間から白い糸のような

〝かんの虫〟が出てくるんだ」と言い 神社には爪の間からまさに今

出てきているかんの虫を写した写真がある とも言っていた

もちろん 私は見た事はない


Bにあるのは 全国津々浦々にある諏訪神社である あまりパッとしない

しかし (おそらく道路計画でああなったのだろうが)本宮がポツンと

あるだけの八幡神社とは違い お諏訪様は境内が広い 

子供にとって祭りの最大の魅力である 様々な屋台が何列も並んで建てられる

氏子も 勤め人主体の八幡神社と違って 商店街こぞって盛り上げるから

活気が全くちがう 


ここで BはAに「お前ら 祭りに来さしてやってもい~ぞ」と胸を張るのである


さて 見上げる高さまで丸太を組んで荒縄でしばり むしろや帆布をぶらさげた

大仕掛けな屋台といえば まずはお化け屋敷


昭和の時代は ゾッとして涼しくなりましょう と夏場の興行が多かった

のだが 最近は一年中常設の建物で人気のアトラクションになっていて 

複雑な物語設定や仕掛けもあるようだ 一方 昭和のかけ小屋では

薄暗い内部は諸々を隠すためか生の笹が一杯でその間から 生身のお化けが

飛び出して脅かす 終わってみれば笹の匂いだけが記憶に残っている


さて お化け屋敷と並んで大がかりな作りだった見世物小屋のお話にいこう

     ここには障がいのある人が出演していたりするものも

     多くあったようで  そんな事もあってか

     隆盛のお化け屋敷とは違い 今はほぼ絶滅しているようだ


おどろおどろしい絵看板が並ぶ表の中央一段段高いところが

丁度 番台のようになっていて呼び込みのお兄さんが

寅さん的 名調子で手に持った細い棒を講釈師のように叩きながら 

蛇女やら怪力無双男やら二つ頭の羊やらの話で気を引いている

背後には布が下がっていて それを 手に持った棒でヒョイと持ち上げ

ぼさぼさ髪の蛇女?の後ろ姿をチラリと見せてはすぐ隠す…


私は 見世物小屋・お化け屋敷・サーカス系は基本的に苦手だから

ずっと入った事はなかったのだが

その時は 友人に引っ張られ 人生一度だけ入場してみた

入り口のお兄さんにお金を払って 中に入ると床は神社の境内の土のまま


入り口近くで 爺さん寄りのおじさんが岩を頭の上まで持ち上げて見せる

筋肉の薄い骨ばった腕の持ち上げているのは明らかに作り物の岩

重そうに見せる演技が実に下手っぴな怪力無双男であった


先に進むと 表の兄さんと背中合わせの中央一段高いところに 

長い髪を振り乱したおばさんがしどけない着物姿で立膝で座って 

客を睨んだり吠えたりしている

これが 蛇女か… と客が集まったところで

袋から大蛇(は看板の絵)ならぬ小指程の太さの蛇?

をつまみ出して 色々やった(忘れたけど)後

ナント食いちぎった!!

絶句する私に友達が「ゴムだよ」 と言った


後ろをみると スチール製の机があって

その上に 薄汚れた白い毛皮が投げ出すように置いてある

これが二つ頭の子羊…   らしい 

二つ目の首を縫い付けてるタコ糸が はっきり見えている


その先は さらに謎?? しみのある大きな板??

     ここで分かる人 いますか? 

どっかのおじさんが 教えてくれました

「こりゃあ オオイタチ(大板血)だろうよ」って

落語カイ!!


生きてる子牛がつないであったのは?? のまま  

振り返ったら 蛇女が 当時大はやりだった

粉末を水に溶いて作るワタナベのメロンソーダを作って飲んでた

    それ見た時に さっきの蛇はやっぱり本物だったのカモ!

    と一番ゾッっとしたよ


出口じゃ みんな笑ってて「くっだらねえ!」とは言ってるけど

祭りのご座興 怒ったりしてなかったなあ

コンプライアンスとか不当表示とか言わないで

インチキっぷりを 楽しんで笑ってた


なにより たった一度の経験がこんなに記憶に

残るんだから 木戸銭は高くなかったよなあ

でももう 絶対あの時代は戻らないんだよなあ

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見世物小屋には蛇女がいた(激セマ昭和メモリーズ#13) 真留女 @matome_05

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