第4話 ドッペルゲンガー
その黒い先輩は
棗先輩が出した瞳達が入部するための条件――
思ったよりも簡単そうな課題に瞳は『はて?』と首を傾げた。
まぁ、確かにこの暗そうな(色んな意味で)先輩と二人っきりの部活となれば尻込みするのも無理はないが、今回は自動で
「厳しい課題だね」
部室を出た後早紀が呟いた。
どうやら瞳とは反対意見のようだ。
「だって、二年生ってことは既に他の部活に入ってるって事でしょ。一年間続けた部活を辞めて他の部活にって中々決心がいる事だよ」
「なるほど」
部活に思い入れのない瞳には目から鱗の言葉だった。
日向先輩がどんな人かは知らないが、もしバリバリの運動でインターハイ目指してます! や、文化部でコンクールで賞狙ってます! などの人種の人ならこのタイミングで転部はまずしないだろう。
ましてや転部先はあの【怪異考察部】――一体何をする部活なのかもよく分からない……。
「――ん? そう言えば【怪異考察部】って何する部活なの?」
今更ながらの疑問に突き当たった。
「はぁぁぁ。アンタ今更何言ってんの。どんだけ部活に興味がないのよぉ」
深い溜息をつかれてしまった。
「まぁ、私も詳しくは知らないんだけど、七不思議を作るのが【怪異考察部】の活動内容らしいよ」
「え、それって何か変じゃない?」
怪談を作るなら分かる。しかし、七不思議を作るとはどういう事だろうか。
怪談と七不思議。両者は似ているようで非なるものである。
七不思議とは、読んで文字の通り七つの不思議な話の集合体である。
属に学校の七不思議といわれ、不思議な話というよりも怪談に傾倒する話が多い。
大体学校の七不思議として語られる話は六つだ。
残り一つは、知ってはいけない話として実際には存在していない事が多い。
実際類似する怪談は多く、トイレの花子さんなどはその最たるものだろう。
話を戻そう。
七不思議についてだ。
七不思議が、長い歴史上変遷することは珍しくない。
親世代とその子供世代では同じ学校でも内容が微妙に変わっていたり、まったく別の話に入れ替わっている事も珍しくはない。
それは七不思議が口伝のみで伝えられるものであるための弊害と言える。
中には七不思議から派生し、別の怪談として語られる話もある。
しかし、その話が七不思議として数えられることはまずない。
七不思議はそれ以上存在してはいけないのだ。
「あれ、瞳は知らない? この学校の七不思議は変わるんだよ」
瞳の疑問にあっけらかんと答える早紀。
一方瞳の頭上には『?』マークが乱舞していた。
よく分からないが、早紀自身もそれは同じな様子。
まぁ、活動内容はあの黒い先輩は――棗先輩に聞くのが一番だろう。
そういうことで、本日はお開き。帰宅することとなった。
とはいっても、電車は一時間に一本しかない。
スマホで時刻を確認すると次の電車が来るまで四十分ある。学校から駅までは歩いて十分ちょっと。急いで帰っても結局電車を待つ羽目になる。
「お腹空いたし、マックでも寄って行こうか」
「おっ、いいねぇ」
何せ瞳達の地元にはマックはおろか、スーパーもない。最寄りのコンビニは三キロ先。
こんな環境で育ったため飢えているのだ。
何に?
そう、娯楽に、だ。
テレビを付ければ、やれちょいマックだ。やれカラオケだ。買い物だetc。
同じ日本なのか、そこは?
まぁ、そんな具合で中心部にある高校に通う事は娯楽の幅が広がることに繋がる訳で、つまり、
「ひゃっほ~~」
学校帰りに買い食いするなんて、何だか大人になった気分だ。
ドキドキしながら買った照り焼きバーバーとシェイクを飲みながら、瞳と早紀は駅に向かった。
時間があるとはいえはしゃぎ過ぎたようだ。スマホで時刻を確認する。少し急がないと電車に乗り遅れてしまう。
瞳は気持ち足を速めた。
「あれ?」
そこで、いつもなら瞳の斜め前を先導して歩いてくれる早紀が視界にいないことに気が付いた。
振り返ってみると、早紀は立ち止まって、どこか一点を見つめている。ストローを咥えていた口もポカンっと開いている。
「お~い。何してんの? 早くしないと電車乗り遅れるよ」
「え、あ、うん」
瞳に呼ばれて、何かを振り払うように首を振った早紀はこちらに駆け寄ってきた。
瞳に追い付いた早紀は、その顔をじーっと見つめてきた。
「まさか、ね」
「どったの?」
「うんん。何でもない」
何がまさかなのだろう。まぁ、早紀の中で自己解決した様なのでこれ以上は聞くまい。電車の時間もあるしね。
「ほら、急ご。電車乗り遅れたらまた一時間待たなくちゃだよ」
「早紀がボーっとしてたんでしょぉ」
「あはは、ゴメンって」
電車には無事乗れた。
自宅の最寄り駅からは、自転車で緩やかな坂道を登っていく。マックパワーで何とか家まで辿り着いた。
「ただいまぁ」
出かけた時と同様、無人の家に帰宅を告げる。
寄り道したとはいえまだ午後六時。
瞳の声が空しく家に吸い込まれていった。
着替えや片付けもそこそこに自室に上がった瞳はテレビの電源を入れた。高校受験を頑張ったご褒美に買ってもらった五十インチの大画面であれる。テレビ台に置かれたプレステ4の電源も入れる。
明日から一限から七限までみっちり授業がある為、こんな風にゲームが出来るのは今日だけなのだが。そんな事は頭の中から消え失せている瞳なのであった。
「やるのはもちろん三大RPGに数えられる名作。テ〇ルズシリーズ。中でも名作と名高いエク〇リア!」
それからみっちり三時間、寝食を忘れてゲームに没頭した。
流石にお腹が減ったため、適当に晩御飯を食べ(半独り暮らし状態なので料理は出来る)、一番風呂を頂き、寝る準備を整え自室に行く。
「じゃ、おやすみ」
律義に無人のリビングに挨拶をする。
さぁ、パーティーの始まりだ!
スパッン‼
「痛っ」
あれ? また頭が痛い。最近よく傷むなぁ。
寝ぼけた頭でそう思いながら自分の頭を優しくなでる。よしよし、痛いの痛いの飛んでいけ~。
「バカやってないササっと起きなさい。電車遅れるわよ」
「電車ぁ?」
何のことだ? さっき布団に入ったばっかりなのに、もう朝の訳がない。ゴソゴソと枕元のスマホを確認する。
午前六時五十分。
「何故に⁉」
「何故にじゃない。一体何時までゲームしてたのよ、まったく」
さぁ? 一体何時までしていたのだろう。三時ごろトイレに行くついでに歯を磨いたところまでは覚えているが……。
まぁ、でも今はそれよりも―――。
「電車に乗り遅れるっ!」
「だから、さっきからそういってるじゃない」
二日続けて母親の顔を見るなどいつ振りか分からないが、それどころではない。
ものの五分で用意を済ませ家を後にする。
普段であれば漕がなくても進んで行く道だが、今日は朝から自分の足を酷使する。
「ま、間に合った…」
そして、どうにか昨日と同じ電子に乗ることが出来た。
「おーおー。朝だってのに死にそうだね。おはよ、瞳。大丈夫?」
「はよ~。これが大丈夫そうにみえる?」
瞳は幸い座ることの出来た座席で、試合後のボクサーのように灰になっていた。
そんな瞳が電車に滑り込むところを見ていたのだろう、早紀が近づいて声を掛けてきた。
「おいおい、昨日あれだけ人をバカにしたくせに自分が寝坊かよ」
「……健」
当然、早紀に見えていたという事はコイツにも見えていたと言う訳で。
「煩い。そうだよ、寝坊だよ。私はアンタみたいに変ないい訳とかしないから」
「はぁ? 嘘じゃねーし。昨日見たのは絶対お前だったし」
「はっ。嘘がバレたのに引くに引けなくなった小学生かよ」
「おまっ―――」
「まぁまぁお二人さんお静かに。一応公共機関の中ですよ」
ヒートアップしてきた瞳たちを早紀が『どうどう』と納める。
「う、悪い」
「私はコイツみたいに大きい声出してないし」
「このっ」
「こら、瞳も煽らないの」
「あ痛」
コツンっと早紀に叩かれてしまった。少し調子に乗り過ぎたようだ。
「でも、昨日も思ったんだけど、健やけにそのコンビニで見た瞳? に拘るんだね?」
確かにそうだ。
他人の空似なんて良くある話だ。それに世界には自分のそっくりさんが三人はいるって言うし。見間違いなんて別にそんなに否定することないのに。
「いや、それは……」
「どうした、やっぱり嘘か?」
「違うわっ。ただ、どうい言っていいか分からなくて」
「はぁ、どういう事?」
健にしては歯切れの悪い事だ。
早紀も同じように感じたようで困惑した顔をしている。
「何ていうか。俺たち幼稚園から一緒じゃん」
「そだね」
何当たり前のこと言ってるんだ、コイツ。
「もう、瞳はいちいちちゃちゃ入れないの。話が進まないでしょ。それで、それがどうかしたの?」
また怒られてしまった。私だって他の人相手ならこんなに茶々を入れ足りない。というか、喋らない。だが、どうも健には茶々を入れないと気が済まないというか、物足りないと言うか……、ん~、兎に角口が滑ってしまうのだ。
「はいはい。分かった分かった。取り敢えず瞳は人見知りモードに入ってなさい」
ひ、酷い。
一向に話が進まない原因である瞳を早紀が話の蚊帳の外に放置したことを確認し、健が話し始めた。
「どうしたっていうか、体つきや顔なんかじゃなくて雰囲気? みたいなヤツ。遠目に見てもそんなのが何となく分かることないか?」
「あぁ、あるね。顔とか見えないけどあの感じは瞳だなぁって思う事。たまに違う事もあるけど、確かに瞳と健は間違えたことないかも」
「うん。それなんだよ」
「ん? つまり?」
「だから、昨日コンビニで見かけた瞳に、普段瞳から感じるのと同じ雰囲気があったんだよ」
「それって……」
何やら早紀が驚いた様子だ。何で? そういうのも含めて他人の空似なんじゃないの?
結局モヤモヤした感じが晴れないまま、その日の放課後となった。
早紀もどこか変な感じで、授業中も上の空で何か考え込んでいる様だった。しかし、そうかと思えば休み時間になると知らない間に姿が消えていて、結局今日はまだまともに話せていない。
「じゃ、俺部活行くから」
「頑張ってね」
「うぃ~」
事の発端のヤツは能天気なようで、楽しそうに仲間と教室を出て行った。
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