第114話 戦況報告と対策会議

父ティモンのいるダビン港町の兵舎に転移する。


「父上、捕虜の件はどうなりました?」


後ろから声を掛けると、父ティモンの身体がビキッと固まり、


「だから、近くに現れんじゃねえぇ~!心臓が止まってしまうだろうが!」


そう言って、私の頭に拳骨を食らわす。


「ゴンッ」


頭に激痛が走り、目からキラキラ星が飛ぶ。


「痛っあぁ~!本気で殴らないで下さいよ。馬鹿になったらどうするんですか!」


「貴様は、このぐらいどうって事は無いだろう!結界が使えるのだから。捕虜の件だったな。まだ結論は出ていない。ここいらの住民もいる訳だしな。捕虜達がどうしたいか。聞き取りしているからまだ待て。」


「不意を突かれたらマトモに食らいますよ。痛かった〜。そうですか捕虜はまあ良いでしょう。そんな事より戦況の話です。領都を攻撃している帝国軍が不利な戦いになっています。特に北門を攻撃している領主連合軍が危険かもしれません。北側にある街が今日で陥落するかもしれませんから。北の街が落ちるとその軍勢が領都に戻って来る筈です」


私は、遠視を使って北の街の戦況を確認すると、既に王国軍は街へなだれ込んでいた。


「あぁ〜。あと数時間持つかってところですね」


「そうか。トモルデンの街も陥落するか。あそこから領都までは馬車で5日掛かるから、王国軍が休養を取ってくれれば7日は猶予があるな」


「それは、こちらに都合の良い希望的猶予ですね。多分、あちらには2万程王国軍がいますよ。それに僕達がここで蹴散らした王国軍も南側に集結しつつあります。南門を攻撃している領主連合軍が背後から攻撃される事態になるやもしれません」


「不味いな。ラウジッツ卿と相談してくる」


父ティモンは室内を移動して部屋の扉を開けて、廊下にいる護衛騎士に、


「悪いが、騎士団長を呼んできてくれ」


「畏まりました」


騎士が騎士団長を呼びにその場を去るのを見届けた父ティモンは、


「ヴァルグード、両隣の部屋もうちの割当で借りている。何かするつもりならエーデルトを呼んで来い」


「分かりました。エーデルト達を連れて来ます」


私は、父ティモンに断りを入れてエーデルト達が待機しているガルチ村の自室へと転移し、


「皆、父上の許可が出たから、ダビン港町に移動するよ」


「「「了解です」」」


エーデルト達と父ティモンのいた部屋へと〝転移〟して戻ってみると、父ティモンの姿は無かった。


「取り敢えず、父上が帰って来るのを持つとして、そうだ!レッドドレイクの鱗剥がしをして待とう」


「……!ちょっと!」


そう言って、レッドドレイクの外皮を出してみると部屋より大きく取り出しきれなかったので、インベントリに戻す。


「危ない。危ない。部屋壊すところだったよ」


「ヴァルグード様、少し考えればわかるでしょう!前は外でやっていた鱗剥がしをこんな部屋で出来る訳ありませんよ!」


エーデルトに怒られて仕方無く、身体金剛のペンダントトップとそれを吊るすチェーンの作成をしていると暫くして扉が開き、


「ヴァルグード様、居られましたか。ご領主様がお呼びです。私が先導しますので後を付いて来て下さい」


扉から姿を現したのはイメディング騎士団長だった。


「3人はどうすれば良い?」


と騎士団長に尋ねると、


「エーデルトは、ヴァルグード様と一緒に、ウェルウィンとムスカーノは待機でお願いします」


「だそうだ。エーデルト付いて来て。2人はここで待ってて」


「畏まりました」


「「了解です」」


騎士団長と父ティモンの部屋を後にして、別棟の建物へと移動する。その建物の2階にある。部屋へと到着すると、騎士団長が扉を


「コン。コン」


とノックすると、中に居た騎士が扉を開けてくれたので騎士団長の後に付いてその部屋へと入る。エーデルトは私の後ろから入って来た。


中に入ると、長テーブルに全身金属鎧を着た男達が着席してこちらに視線を送って来た。騎士団長が、


「ヴァルグード様をお連れ致しました」


私は短手の下座に立ち、


「リートゥス伯爵が次男のヴァルグードと申します。以後お見知り置き下さい」


と右手を胸に当て立礼すると上座に座っているラウジッツ辺境伯から、


「顔を上げなさい。リートゥス卿から君の事は聞いている。それと、アルヴレ方面長からもね。このダビン港町防衛に尽力したそうじゃないか。かなりの特殊スキルと習得しているそうだね。おっと、自己紹介をしなければ失礼だな、私はシャインツ・モナレ・ラウジッツ辺境伯だ。この領主連合軍の盟主兼指揮官をしている。右からリートゥス卿の横にヴァイマル伯爵。その横にいるのはヴュルテンベルク子爵。

左のアルヴレ方面長の横にいるのはシェーンブルク伯爵。その横はノルトハイム子爵でその横がホーエンローエ子爵だ。見知り置いてくれ。

それでだ、君の特殊スキルで領都の戦況が思わしくないと聞いている。その証拠を示せるか」


「う〜ん。父上、皆さんに打ち明けても良いですか?」


「おまっ!。ヴァルグード、何をするつもりだ!」


「いえ。このまま領都にお連れしてしまおうかと」


「まさかっ。転移スキルを使うのか!」


エーデルトが横から耳に顔を近付け小声で、


「ヴァルグード様、それはいささか危険ではありませんか?」


と言ってきたが、私は、


「大丈夫です。結界を張りますし、直ぐにこちらへ戻ってきますから。どうでしょう皆さん」


それを聞いた辺境伯が、


「面白い。皆、伝説の転移魔法をこの身に体験出来るのだ!私は是非体験したいと思うが、どうか?」


それを聞いた帝国軍のアルヴレ方面長も、


「是非、私も行ってみたいですな」


それを聞いた後ろに居る、副官のハーミル・バロレ・セギュールが、


「これが本当の話なら何処からでも反撃が出来ます。私も是非体験したい」


それを聞いた参加している領主達からも


〈そうだな。結界で攻撃が防げるなら。体験したいものです〉


〈いや〜瞬時に戦場に行き、物見遊山で帰ってくれるならば是非に〉


〈転移スキル、体験したいものですなぁ〉


好意的な意見が大勢を占めているので、私は、


「それでは、先ず皆さんに身体金剛という身体に結界の様なものを張れるペンダントをお渡しします」


俺は肩掛けカバン経由でいくつか作り置きしておいた、身体金剛のペンダントを取り出し、エーデルトに渡して各領主とその護衛や副官に配ってもらう。行き届いたのを見届けると、


「皆さん、そのペンダントトップ魔石部分にに魔力を流して下さい。流し終えたら首に掛けて、ペンダントトップが肌に触れるようにしまって下さい。それで、魔法攻撃や物理攻撃から守られます」


「なんと!」


「そんな物が」


「これがあれば、戦況など直ぐにひっくり返せるぞ!」


皆が、ペンダントトップに魔力を流して首に掛けると鎧の中へとペンダントトップを仕舞う。そして、護衛や副官達が領主に、顔を殴らせている。


「全然、痛みがありません。衝撃は感じますがそれだけです」


アルヴレ方面長はナイフを抜き副官に袖を捲らせると腕を斬り付けるが何も起きない。それを見た諸氏達は、声を揃えて


「「「「「「おっおう!」」」」」」


と唸り声を上げる。それを見た辺境伯が、


「ヴァルグード君。これは凄い。この素材は何なのだ!増産出来ないかね?」


「辺境伯様、そちらの素材はレッドドレイクの鱗です。今手持ちの素材分は増産出来ますが、それが無くなればいつ入荷できるか分かりません」


「レッドドレイクだと!竜種ではないか!何処でそんな魔物と……。」


素材の話を聞いて一同言葉を失った。静まりかえった部屋で、


「それでは、皆さんテーブルに手を付いて下さい。護衛の方もお願いします。良いですか?領都の領主城へ〝転移〟します」


こうして、皆がテーブルに手を付いたのを確認すると、魔力をテーブルに流して領都にある領主城の屋上へと転移した。

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