第101話 王国軍砦の崩壊

目を覚ますと敷物が敷かれた床に、毛布を掛けられて寝かされた様だった。

天幕内は騎士達が慌ただしく動き回り、撤収の準備をしている様だ。私は、起き上がり騎士に指示を出している父ティモンに声を掛ける。


「父上、おはようございます」


「おはよう。朝早く、辺境伯と相談して移動を開始する事になった。今日にはダビン港町の近くまで行けるからそのまま戦闘になる可能性もあるが、ここまで戦闘もしないで村を放棄しているからには何処かで王国軍は待ち伏せしている筈、俺達は先行してそれを叩く。お前もそこにあるパンとスープを食べてしまえ。支度したらすぐに出発するぞ」


「分かりました。すぐ支度します。」


私は、置いてあったパンとスープを無理やり口に詰め込んで咀嚼しながら飲み込む。

食事を終わらせると〝洗浄〟を唱えて全身を綺麗にして、


「父上、準備が出来ました」


「それでは、外で待っておれ」


「はい」


父の言葉を受けて外に出る。

昨日は夜で転移して来ていた為分からなかったが、ここは村の外れで村には、領主連合軍が駐屯していて、今は移動の為にそこら中が準備で慌ただしくなっている。

うちの騎士団長が、


「ほらほら急げよ。リートゥス領軍が遅いから移動出来ないなどと他領の奴らに言わすんじゃないぞ、急げ!急げ!」


と領兵に発破をかけている。私は、自爆装置の事を思い出し、父ティモンの元へと戻ると、


「父上、敵の兵器の無力化工作に動きたいと思うのですが、ここに居ても他領の人間に見つかるのは後々、不都合が生じると思うのですが」


「そうだな、6歳のお前がチョロチョロしていては、何かと不都合か…。分かった、行って来い」


「では、ちょっと行って来ます。ダドリオ」


「はっ。お供します」


父ティモンに断りを入れてダドリオと一緒に街道を歩いて進みながらダビン港町を包囲している王国軍の砦を確認する。すると、周辺村々の早期撤退は私が砦の食料を奪った事で、村々の食料をこの砦に集めている。その為、戦闘の維持が出来ずに村を放棄し逃げている様子だった。


「ダドリオ、もう一度、王国軍の砦に行くよ」


「急にどうしました?自爆装置の撤去なら待ち伏せしているであろう陣地から始めた方が良いと思いますが」


「村々の王国軍がすぐ撤退するのは、僕達が砦の物資を回収した為に、村々の食料を砦に集めているんだ。それで戦闘維持が出来ない村々は帝国軍の監視役のみとしている様だから戦わずに逃げているんだ。その砦の物資を奪いに行くよ」


「了解です」


王国軍の砦にある木造の倉庫内に〝転移〟をして侵入すると、倉庫内にある物資を全てインベントリに収納した。そして10棟ある倉庫の中身を全てインベントリに収めて、倉庫内に留まり、ロデムラート砦の周辺を〝遠視〟で見ていると昨日の攻撃で川にクレーターが出来た為、川の水位が下がって上流に、人が渡れる浅瀬の箇所が出来ていた。


「ダドリオ、ロデムラート砦の上流に王国から渡れる浅瀬がある。それを潰しに行くよ」


「ヴァルグード様、それを潰してしまっては逆侵攻が出来なくなってしまいますし、退却出来ないと王国軍は死兵となって捨て身の攻撃をする様になってしまいますよ」


「王国軍がいくら死んでも良いけど、帝国軍の被害が大きくなるのは不味いね」


「そうだ!この際だからこの砦を燃やして王国軍を動揺させよう。自爆装置もここにあるかもしれないから全部燃やしてしまうのが一番だね ダドリオ俺につかまって 〝転移〟」


砦の裏手に転移して、


「インフェルノ」


「ボワッ」と町のような砦内、隅々に行き渡る火炎の海が燃え上がっていく。魔力を止めずに魔法ヘ供給する。炎は大きく長時間燃え続ける。すると、砦内から、


「ドッカーン!」「ドッカーン!」

「ドッカーン!」「ドッカーン!」


複数の爆発音が鳴り響く。

それを聞いて、魔力供給を止めて、魔法を解除するが火は建物に燃え移って火災の炎は魔法並みに燃え上がった。また、


「ドッカーン!」「ドッカーン!」


と爆発音が聞こえて来たので、危なくなりその場から逃げ出した。砦から街道に出ようとすると、王国軍がこちらに来ているので草叢に身を隠して息をひそめていると、王国軍の騎士50名程と兵士100名以上が徒歩で砦に向っている様だった。先頭を歩いていた騎士が、


〈燃えてる、燃えてるぞ!砦が燃えてるぞ〜〉


〈本当だ!砦が焼けている〉


〈皆んな急げ!火を消さないと寝るとこも食料も全て無くなってしまうぞ〉


彼らは慌てて走り出し砦に向かって行った。

彼らが通過した後、暫くして獣道に戻って、街道を目指し移動を始める。

背後では、爆発音と男達の叫ぶ声が響いていた。3時間ほど道なりに歩いていると街道に出たと同時に、軍隊と遭遇したが、


「ヴァルグード様!ご無事でしたか!」


と先頭の騎乗している騎士が声を掛けてきた。良く見るとうちの騎士団長だった。


「騎士団長!無事だよ!また、物資を奪って来たんだ!ついでに王国の拠点燃やして来たよ」


「おぉ。それは重畳ちょうじょう、お疲れ様でしたな〜!ご領主様もお喜びでしょう。後ろにいらっしゃいますから行ってあげて下さい」


騎士団長に礼をして、軍を逆走すると、騎乗した父ティモンが見えたので、


「父上、戻りました」


「ヴァルグード、さっき大きな爆発音がしたがお前の仕業か?」


「結果的にはそうなります。敵の侵攻拠点である砦の物資を根こそぎ奪って、広域火魔法を放って砦の建物を全て焼き払いました。後は、食料を持たない王国軍の討伐をすればダビン港町は解放されます」


「そうかぁ。後はダビン港町で対峙している王国軍を殲滅すればここの戦いは終了か」


「そうなりますね。私は一歩引いて観戦させて頂きます。ご武運をお祈り致します」


「そうは言っても。お前一人で殆ど終わらせているがな」


そう言って、父ティモンは先に進んだ。

私とダドリオは領兵の最後尾の後ろに付いて歩いた。

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