第99話 ダビン港町攻防戦

ダビン港町は一旦、エーデルトに任せて私は、宿舎で遠見を使って包囲を行っている王国軍の食料庫を探す。周囲の公国軍陣地を俯瞰して見てみると、ここの王国軍は主戦力が奴隷だった。

正規兵は督戦を主な仕事としている様で、反抗的な態度を取ると自爆部隊に廻されるようだ。

そして、王国軍がこちらの攻撃用に作った砦は最早もはや、町の様で土壁で覆われて石造りの住宅がいくつもあり、木造の倉庫が10棟建てられていてそこには食料が保管されている様だ。奴隷兵士達は檻の様な建物に収容されている。自爆部隊はどうやら、大きな穴を開けてそこに閉じ込めて居るようだ。


「見付けた!ダドリオ。今晩、敵の食料を奪いに行く。今の内に寝ておいてくれ」


「了解です。ヴァルグード様は、どうなさいますか?」


「僕は、少し仕掛けを施してから寝るよ」


私は、レッドドレイクの魔石を取り出し魔法陣二重丸に三角を刻んで輪間に〝魔法攻撃無効〟〝物理攻撃無効〟〝精神攻撃無効〟〝内部浸透〟と刻む。これで外に攻撃が出来るはず。

三角の底辺に2行の文字列〝発動キー(結界)直径4km✕高さ15mドーム〟〝停止キー(終了)魔力遮断〟と刻む。

更に、反対の部分に彫刻針で魔法陣を刻む。輪間に〝魔素吸収〟〝魔力変換〟〝魔力補填〟〝魔力供給〟と刻んで、街の中央にある代官館の屋上に転移して、結界術式を刻んだ魔石を発動させる。

ダビン港町が海の一部までも含めて、すっぽりと結界に覆われた。

私は、方面長と打ち合わせしているエーデルトの元に行き、


「エーデルト、今晩敵の砦に襲撃を掛けるから、それと、ドレイクの魔石で結界の魔道具を作って起動させたから外に出ない様に気を付けて」


「あのドレイクの魔石で結界の魔道具ですか!それであれば、既にここの防衛は完璧ではありませんか!方面長と対応策を考えていたのに……。」


「まあ、良いじゃない。これで、負けは無くなったんだから」


「はい」


こうして、宿舎に戻り仮眠を取った。


真夜中となり、私とダドリオは起き出して敵の砦へと転移をする。場所は石造りの住宅屋上。

転移をすると、倉庫には奴隷兵と正規兵が見張りを行っていたが、


「ダドリオ。僕は倉庫の中に転移するから、ここで待ってて」


「了解です」


ダドリオを屋上に待機させて、屋上から透視をして倉庫の中に転移する。

倉庫には麻袋が山の様に積み上がっていた。

それを全てインベントリに収納して、隣の倉庫へと転移する。

こうして次々と倉庫の物資をインベントリに収めながら10棟全ての物資をいただいて、ダドリオの待っている屋上へと戻った。


「全ての物資を頂いて来たから、帰ろう」


「えっ。もう終わったんですか?」


「うん」


そう返事して、ダドリオの肩に手を添えて、


「転移」


でダビン港町に帰った。

翌朝、王国軍は攻撃して来なかった。

物資が全て無くなっているのだから攻撃どころでは無い。私は宿舎にある方面長の執務室を訪ねて、


「物資は何処に置けば良いですか?昨日の深夜に敵の物資を奪って来ましたのでお渡しします」


「本当か!助かる。ありがとう。ありがとう。直ぐに案内させる。ありがとう。デリック、ヴァルグード君を倉庫に案内してくれ」


「畏まりました。ヴァルグード様、こちらになります」


方面長の従僕が扉を開けて退出を促す。それに従ってついて行く。宿舎の隣には大きな倉庫が設置されていた。中に入ると、麻袋が20体しか無かった。俺は奪って来た麻袋をどんどんインベントリから取り出して、積み上げて行く。

倉庫の6割を小麦の入った麻袋で埋めると、次に、野菜、飲料水、酒、調味料の入った木箱をどんどん積み上げる。

倉庫が一杯となり物資を出す事を止めた。

出した物資は奪った物資の3割程度残りは様子を見ながら出す事にする。従僕のデリックは物資を見て、涙を流しながら、


「これで、空腹を我慢すること無く全力を出せます。ありがとうございます」


「籠城は大変だけど。僕がいる限り、この先腹を空かせる事は無いから安心して!夜中に働いたから、今から宿舎の戻って少し寝ます。」


倉庫に物資を補充した私は、宿舎に戻って眠った。


〈ドッカ〜ン〉〈ドッ゙カ〜ン〉〈ドッカ〜ン〉


連続する爆発音に驚いて目を覚ます。宿舎を一緒に休んでいたダドリオと飛び出し、城門の上にあがった。周囲はすっかり真夜中の時間帯。そこから外を注意深く眺めると、


〈ドッカ〜ン〉


と爆発音と火柱が上がるが結界の膜はビクともしなかった。

城門の上には次々と宿舎から出て来た、騎士たちが集まって外の様子を眺めている。

後ろから肩を叩かれて振り向くと、エーデルトと方面長が立っていた。口を開いたのは方面長だった。


「ヴァルグード君、この結界は何時まで持つものなのかね」


「ドーム内の魔素が尽きるまでですね。尽きても一度解除して外気を入れ替えすれればまた直ぐに起動できます」


「と云う事は、3秒ほどの切り替え時間が必要なだけと言う事だな。使用期間はどのぐらいの期間使えるのかね?」


「物理攻撃で壊さない限り、永久ですね」


「それって、国宝級の結界魔道具なのではないか?」


「方面長、ヴァルグード様のお作りになる物はそう云う物と受け入れてください。材料さえあれば何でも作ってしまう方ですから」


エーデルトの失礼な発言に私は、


「エーデルトは今後僕の作る魔道具は要らない様だね。ダドリオ今後は君に護衛をお願いするよ」


それを聞いたエーデルトが慌てて、


「いや、褒め言葉ですよ。ヴァルグード様しか作れない素晴らしい魔道具です。嫌だなぁ」


そんな会話をしている間も、


〈ドッカ〜ン〉〈ドッ゙カ〜ン〉〈ドッカ〜ン〉


と自爆攻撃は続いた。








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