第95話 父と合流

スクリーンを出して遠見で確認していると、王国軍は領都を陥落させダビン港町を包囲していた。

そこに信じられない光景が、…石輪の大きなモノを首につけて手に鎖の繋がった手錠を嵌めた獣人族がストーンウォールに走って行き自爆テロを仕掛けていた。

私は、何処か戦争という物を軽く考えていた。前世で、スクリーンの先には実際の人が死ぬ、殺し殺される風景を見ることは無い。

実際の戦争動画は殺害風景を移さないし、殺し殺される映像は作り物。それを理解して見ているから戦場と云う物は、何処か他人事だった。それが、

今見せられているそれは、殺意が溢れ、獣人族が壁に向かって縋りつき自爆する。

壁は崩れ、肉片が飛び散り、躊躇している獣人族を魔法で追い立てて壁に行くことを強要する。人族至上主義の王国ならではの残酷さだった。


「エーデルト、王国軍のやり口が判ったよ。

奴隷や捕虜に爆発する魔道具を首にはめて、自爆させて城門を破壊している。

人道にもとる、非道な行為だ。

これを指導立案している者を許すことが出来ない。」


「なんと言う事を!酷すぎる。自国の国民以外は人は思っていない!許せん!」


「もうすぐ、日が暮れる。夕食を食べたら出発しよう。」


「畏まりました。」


2人厳しい顔をして食堂に向かう。

子供達とダンジョンに行っていたウェルウィンとムスカーノが帰ってきた。

私とエーデルトの深刻な表情を見て、子供達を別のテーブルに座らせて、こちらにやって来て席に座る。ウェルウィンが、


「かなり深刻な表情ですがなにかありましたか?」


「ヴァルグード様が魔術で戦場を確認された。辺境伯領都が陥落しているそうだ。」


「なっ!」


「なんですと!」


「それで、エーデルトを連れて、僕が転移を使って、父上に知らせに行こうと思ってる。二人は、子供達の世話をお願いしたい。」


「それは!」


「畏まりました。」


ムスカーノは一緒に行きたい様だが、ウェルウィンの返事で、諦めたようだ。


食事を済ませて、子供達に出かける事を告げて、部屋に戻る。


「それじゃあ、行って来る子供達をお願いね。 エーデルト、手を」


「「畏まりました」」


そして、父ティモンのいる天幕へと転移する、


「ヒュン」


父ティモンと騎士団長、騎士2名が天幕で話し込んでいる横にエーデルトと転移すると、


「ゥ゙おっ」

「おっ!」


「ヴァルグード、お前どっから来た!」


「しっ!声がでかいです、父上。」


「おっ、おぅ、すまん。で、どうやってここに来たんだ。」


「実は、E級冒険者になって、ちょっとダンジョンに行った時にエンシェントホーリードラゴンのダンジョンマスターと出会いまして、そのドラゴンさんに転移のスキルを伝授していただいて出来るようになりましたので、ここまで転移して来ました。」


「なんか色々、端折り過ぎて良くわからんが、転移スキルを習得したのだな!おめでとう。」


「「「おめでとうございます。」」」


「父上、皆んなありがとう。それで別に転移を自慢しに来た訳ではなく、他にも習得したスキルで遠見というモノが有るのですが、それを使って、辺境伯領都を見たところ領都は、王国軍によって陥落していました。

それを伝える為に、こちらに参りました。」


「領都が陥落していると……。騎士団長なにか聞いているか?」


「何も聞いておりません。」


「いけませんね。情報を疎かにしては勝てる戦も勝てませんよ。多分ですが、王国軍は情報を漏らさない様に、周囲の村々を片付けてから領都を急襲したのでしょう。外に情報が漏れない様に。」


「ヴァルグード様が仰るようにしていたとしても、周囲の領主も援軍にかけつけています。その領主達からの伝令が来ないのはどうした事でしょう。」


「ヴァルグード、どう思う。」


「僕がやるとすれば。急襲した時点で村々の住民は兵士に入れ替えますね。援軍で立ち寄った領主部隊には毒を飲ませて処分、または下剤などを食べ物に仕込んで、戦力にならない様にします。そして領都から各地に向かう街道を封鎖して、行き交う者がいれば始末します。」


「成程、領都が攻められている情報は流し、それで駆け付ける援軍を集合する前に、村々の住民を兵士をすり替えて待機させ、その者たちで援軍に駆け付ける領主部隊を個別に殲滅する。そして領都からの伝令は街道を封鎖して情報が出ない様にしていたのだな。」


「その情報が流れない事で帝国全域からの援軍が遅れ、更に、ダビン港町にいる帝国軍に辺境伯からの援軍が来ない事が伝わっていないと思います。

帝国軍首脳達は自分達が〟逃げ込んだダビン港町が主戦場になると考えて籠城していると思いますが、王国軍はその思惑をかわして領都攻略したのだと思います。

先にダビン港町を攻めれば、辺境伯領軍に背後から攻められますから。

今は王国軍に包囲され苦戦していますが、持ち堪えています。

最後に、そのダビン港町を攻撃するのに奴隷や捕虜に爆発する魔道具を首にはめて、自爆させて城門前にあるストーンウォールを破壊しようとしている最中です。」


「まさかそんな事に。」


「と云う事は、領軍は全滅……。」


「それで、このままノコノコと辺境伯領都に向かったら、罠に嵌まる寸法か。

もう目の前は辺境伯領ではなく、王国領と考えて対策しないと行けない訳だな。」


「父上、ですがこの情報、誰に、どの様に、伝えるか。そしてどうやって知り得たかを考えませんと。臆病風に吹かれて戯言いっていると云われても不思議ではありませんよ。」


「隠密スキルを持っている騎士がいる。

騎士団長、ソイルを呼んで来てくれ。」


「畏まりました。」


騎士団長が隠密スキル持ちを呼びに出る。


「危険だが。ソイルに今から辺境伯領の偵察に行って貰う。そこで証拠になる物が出れば尚良しだが出なくても、見聞きしたことにすれば、信頼性も増す。そうしてラウジッツ辺境伯にこの話を持ち込んでから、辺境伯と一緒に将軍に話を持ち込む。」


「それと、身を守る魔法具をつくってきました。身体金剛というスキルを習得したのですがそれと同じ効果があります。

その効果は、表皮が金剛石の様に硬くなる効果になります。

注意事項として、魔石が壊れて仕舞うと半日で効果を失います。魔石が壊れなければ効果は長い年月続きます。

次にこのペンダントトップが肌に触れていないと効果が出ませんので肌に触れるように掛けて下さい。

うちの全員の分ありますので配ってください。」


そう伝えてペンダント400個を父ティモンと騎士2人に渡した。

父ティモンと騎士2人は自分の分を取って首に掛けた。


「それに魔力を流して下さい。起動するはずです。」


「「「おぉ〜。」」」


騎士2人が殴り合うがなんとも無い。

そんな事をしていると、騎士団長と男が天幕にやって来た。


「騎士団長ご苦労。それと、これをヴァルグードからのだ。ペンダントトップに魔力を流しては首にかけろ。

ソイル、お前もこれに魔力を流して、首にかけろ。ペンダントトップが肌に触れる様に服の奥に仕舞ってみろ。」


「「おぉ〜。」」


「これで無敵になるそうだ。騎士団長。」


と声を掛けて父ティモンが騎士団長の顔面を殴るがなんとも無い。


「「「「おぉ~。」」」」


大の大人がはしゃいでいる。


「お遊びはここまでにして、ソイル、隠密を使って辺境伯領を探って来てくれ。どうも

領都が陥落しているそうだ。周囲の村々も落ちているフシがある。気を付けて探って来て欲しい。」


「畏まりました。このペンダントが有れば、問題ありませんよ。行って来ます。」


そうして、ソイルが出て行き戻りを待つ事になった。

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