第65話 王国軍侵攻

SIDE:王国軍

「意外とすんなり砦の奪取に成功しましたね。 もっと抵抗があると思ったのですが。」

従軍技士のクレインが私に話しかける。


「君が作った武器や船は、世に出て居ないものばかりなんだから初見で対処出来るわけ無いだろう。」


そう答える私は、アイザック・M・アスター辺境伯 サンスクード王国のアスター辺境伯当主で今回戦争の総指揮を任されている。


ここに居る兵士は、騎兵の半分は辺境伯騎士団で残りの兵士たちは王国からお預かりしている軍隊だ。

森側に展開した軍は、辺境伯を寄親とする、周辺貴族の領主と騎士団が別働隊として動いていた。


「閣下、砦の奪取が終わりましたので、軍権はこちらに移譲して頂きます。

閣下にはこの後の用水路建設というお仕事で頑張って下さい。

侵攻戦は王国軍が進めていきますので。」


軍権の移譲を持ち掛けたこの男は、王国軍第2軍団長のサイエン・M・ヴェイン 軍家の法衣貴族で爵位は伯爵、この砦が陥落するまでは軍監として、同道していた。


この作戦は元々、私がこの川から水を自領に引き込む為に、軍の侵攻作戦に便乗した。

砦が陥落すれば、軍の手柄、失敗すれば私の責任とすることが決まっていた。

なので、砦が陥落した以上、軍権は軍団長に渡す事も決められていたのだ。

「軍権の移譲には意義を挟まないが、貴族の混成軍はどうするのだ。」

「そちらはご自由に、アスター卿が寄親として集められた混成軍なのです。 私には、権限が有りませんから、用水路建設に使うも周辺の村々を襲うもご自由になさってください。

但し、此処から先の奪い取る領地は王国直轄領となる事を努々ゆめゆめお忘れになりませんように! 王国軍は後続部隊が到着次第侵攻を再開します。」

軍団長の話が終わると従軍技士のクレインが、


「あぁ、そう云えば失敗作ではありますが、

爆裂魔道具を作っておりましてね。

これ、魔力を流すと直ぐに爆発してしまうんです。 

なので改良が必要なのですが材料が無いのですよ。

辺境伯様、ゴブリンのモノでも良いので魔石を融通しては頂けませんか?」


と首輪のような魔道具を取り出してこちらに尋ねてきた。

「ゴブリンの魔石なら直ぐにでも手に入るが幾つ必要なんだ。」


「そうですね。今はこの魔道具3個しかありませんから、6個程頂ければ。

しかし、後続の物資にこの魔道具が100個程ありますので追加で200程必要になります。200は数日後で構いません。

宜しくお願い致します。」


「判った。用意させよう。

それでは、私はこれで失礼する。」


そして、砦を出て船橋を渡り自軍の駐屯地へ向かう。

駐屯地では我が騎士団の者達が寛いでいた。


「御領主様、お話は如何でしたか?」


話しかけてきたのは騎士団長で弟のコルソン・S・アスター子爵だ。


「自由にせよとの事だ。 先ずは、混成軍と合流しよう。」


「畏まりました。 傾注!ここを離れ森側に転進する。 準備せよ。」


『はっ』


「そう云えば、ゴブリンクラスの魔石を持っていないか?」


「どうなさるので?」


「技士のクレイン殿が魔道具の改良に使うそうだ。」


「この間、ダンジョンに潜った連中がいますから、聞いてみましょう。 おい!ダンジョンに潜っていた連中を読んできてくれ。」


「はっ」


側付きの騎士が片付けをしている一団に向かっていった。


「兄上、どんな魔道具の改良なんです?」


「爆裂する魔道具なんだが、首輪のような形をしている。」


「なんだか物騒な魔道具ですね。」


「失敗作と言いながら100個も作って持って来るそうだ、嫌な予感しかしない。」


そんな会話をしていると、騎士の一人がこちらにやって来た。


「御領主様、騎士団長、お呼びと伺いました。」


「貴様、ダンジョンに最近行っていたよな。

小さなモノで良いので魔石を持ってはいないか?」


「少々、お待ち下さい。」

と言って、腰に付けていたマジックポーチを漁る。 すると、直ぐにマジックポーチから、親指程の魔石が10個出てきた。


「こちらで宜しいですか?」


「十分だ。一個銀貨1枚で引き取るから、砦に行って技士のクレインにその魔石を6個渡して来い。」


私はそう言って銀貨6枚を騎士に渡す。

「ぎっ、銀貨6枚。 畏まりました。」

そして銀貨を受け取り、騎士は、砦に向かっていった。


「兄上、大盤振る舞いですな。」


「戦時料金って奴だ。」


騎士が戻ってきて、駐屯地の設備を回収して、準備が整った所で砦を離れ森側の混成軍と合流する為、移動を開始した。


森側の混成軍が集まっている駐屯地に着くと、領主達がこちらに集まってきた。


「騎士団長、ここを駐屯地とするから設営の指揮を頼む。」


「畏まりました。 よおし、ここで駐屯する、設営を始めろ。」

『はっ』


「皆んな、今回は良く働いてくれた感謝する。」


「こちらは、戦闘らしい戦闘は有りませんでしたから働きを感謝と言われますと恐縮してしまいますなぁ。」


と返事を返してきたのは、ジェールズ・M・ウォルポール伯爵、混成軍の纏め役をお願いした人物だ。


「そうですなぁ。森からの魔物退治が一番の戦闘でしたからなぁ。」


そう言ってきたのは、スノード・S・スタンリー子爵、混成軍の調整役を買って出てくれた人物。


「それで、アスター卿。今後の混成軍の役割は何ですかな。」


「自由にせよ。との事だ。帝国の村を襲撃しても良いそうだ。その代わり土地の領有は認められない。」

「アスター卿はどうなさるので?」


「私は、ここから用水路建設に勤しむ。」


「ここは、アスター卿の領地でしたな。ルートをお聞きしても?」


「ウォルポール卿、スタンリー卿そちらにも用水路を持って行きますかな。」


「「おぉ!それは有り難い。」」


「「「「我々の領地にもお願い致します」」」」


「川下の領地には廻せるでしょう。貴殿らにも人手を出して頂ければ、水量はこの通り豊富ですからな。 」


「「「「おぉ!」」」」

「これで作物が……」

「自領の麦を増やせる……」

「まだ、初めてもいないですぞ。 さぁ皆で建設に勤しみましょう。」

「「「「「おう」」」」」」


「我々の領地は川上になってしまう。」


「そうだな。 村の襲撃に向かうか?」

「そうしよう。 収穫した作物がたんまり有るそれを頂こう。 アスター卿。我ら3人は領兵と村の襲撃に向かいます。」


「貴殿らは……そうだなそちらには用水路を作っても川上になってしまうから無理だな。

うちの荷馬車を使ってくれ。返すのはいつでも良いから。」


「ここはお言葉に甘えてお借りしよう。」

こうして、私達は用水路建設する者達と帝国の村々を襲撃する者達と別れて移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る