第62話 ロデムラート砦

SIDE:帝国軍西方面長

私は、ノルダン・スヴレ・アルヴレ帝国軍西方面長を拝命している。

ジルファス帝国西の国境にある、ロデムラート砦の責任者だ。

このロデムラート砦は目の前が渓谷となっており、この渓谷が国境になる。

北の奥には大森林があり魔物が跋扈している。

周囲は草原で南は荒野となり、その先は海となる。

荒野は渓谷が深くなって行くので人が渡れるのはこの砦のある草原になる。

草原では、岸から水面まで落差は2mもないが川の流れは早く川幅は20mで水深も深いところでは2mを超えるので渡河は難しい。


ロデムラート砦は草原の真ん中に10mの建物左右に高さ8m奥行き3mの城壁が渓谷に沿って建ててある。

このロデムラート砦には常時1万の兵士が常駐しているが、毎年秋の収穫が終わる頃敵国のサンスクード王国は陸路を使わず船で侵攻してくる。


国境沿岸は切り立った断崖絶壁なので、侵攻先はいつも辺境伯領のダビン港が襲われる。

その為、毎年襲われるダビン港は今や軍港として周囲を城壁で囲み城壁の上にはバリスタが設置されている。

魔道船も200人が乗れる大型船が30艘あり、バリスタを2基積んだ小型魔道駆逐船が50艇が常駐している。

こちらは辺境伯が運用して防衛に当たっている。


船に乗り込み戦闘を担当するのは帝国軍人だが、乗組員や射手は辺境伯軍である。

これは、帝国軍に操船士や射手が居ないためにこのような運用となっている。

いつも帝国軍は砦に常駐する兵士5000名を侵攻の度にダビン港へ派遣していた。


そして今年も相変わらず王国軍の船が国境付近に集まっているとの情報がもたらされたので、兵士5000名をダビン港に向かわせた。

私は、副官のハーミル・バロレ・セギュールに、

「副官、毎年恒例とは云え王国は懲りないな。」

「軍団長、あちらは南の砂漠化が問題となって作物の収穫が減っているのかも知れませんね。」

「その代わり、鉱物資源は豊富と聞いているぞ、それを交易すれば作物など購入できように。」

「鉱物資源は戦略物資ですから、外には出したくないのでしょう。」

「我が帝国はどこの領地も食べるに困らないし、売る程収穫出来る国ではある。

それを奪いたい気持ちは分からんでもないが、失敗すると分かっていて戦う兵士はたまったものではない。」

「仰っしゃる通りですね。」

そんな会話をして、書類に目を通していると、一通の報告書に

〝船種不明の船有り、船底に車輪を幾つも取付て車輪に皮ベルト巻き付けている。

船体上部は平らな鉄板で覆っている。

船の数は5艇。〟

「ハーミル、これを読んでみろ。」

「拝見致します。」

ハーミルがその報告書を読んで、

「何でしょうね。 見たことも聞いたことも無い、船種ですね。」

「船なのに車輪が付いている?外輪船ってことか?」

「外輪船型の戦艦なら、船種が分からないとは書きません。船体上部に鉄板を覆っているなら、バリスタ対策の突撃船では無いですか?」

船種について話していると、ドアがノックされる。

「コン、コン」

「入れ」

「大変です。 対岸の森から王国軍が現れました。」

「数は分かるか!」

副官ハーミルが伝令に尋ねる。

「数は不明ですが続々と森から出ているそうです。」

「軍団長、どうしますか。」

「先ずは、確認に行こう。」

「「はっ。」」

そして、執務室を後にして森側の砦の端にある物見塔に行く。

すると、500m先に王国軍が集まっていた。

「居るが遠いな。何故あんなところから出てきたのだ。」

「解りかねますね。 砦から丸見えになる……何か作っているみたいです。」

「確かに、何か作っているな。

取り敢えず、執務室に戻り伝令を飛ばそう。」

直ぐに事態が変化しないと考えた私は、砦本館に戻り、知らせを送ることにした。

砦本館に戻る前、兵士達に、

「何か変化が有れば逐一伝令を寄越すように、監視を怠るな。」

「「「「はっ」」」」

「では戻るぞ。」

砦本館の執務室に戻ると、帝都、辺境伯領都、ダビン港にサンスクード王国軍の出現の伝令を飛ばした。

「伝令、砦正面に侵攻する王国軍を発見しました。 数は1万以上列を成しこちらに向かって来ます。」

「警報鳴らせ!」

「ジリリリリ〜。」

「副官、魔法師達を上に上げろ!」

「はっ、防壁魔道具は起動させますか?」

「まだ早い、敵が魔法攻撃の有効射程100mに入ったら起動しろ。」

「了解です。」

そんなやり取りをしつつ城壁の上に出る。

対岸を見ると大盾を持ってこちらに向かって来ている王国軍が見える。

200mまで迫って来た王国軍がそこで進軍を停止して、陣を作り始めた。

夕刻が迫っているので、今日は夜営するようだ。

「今日の襲撃は無さそうだな。」

「見張りをおき、兵達を休ませましょう。」

「そうだな、動きがあったら直ぐに知らせろ。」

「「「はっ」」」

こうして、慌ただしい一日が終了した。



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