8. 残した最後の一口

「しかし、こんなものも持っていく必要があるのかな?」


「何があるか分からないからだ」


「うわ、それは嫌だな。何もなければいいけど。

ふーん、この剣、ちょっと変わってるな。

試しに作ったものと言ったけど、よくできているね。

ほら、私の剣と同じくらいの大きさなのにもっと軽いよ。

何で作られているんだろう。よく見ると光っている粒子が見えるけどね」


ヘルが私に言った。


「フレア、こんな所でその剣を出すのは人の注目を集めて危ない」


私は周りを見ながら剣を鞘に納めながら言った。


「あ、そうだ。あのトニーさんが言った酒場の名前はなんだっけ?ブレダ、ダニル?」


シャーリンが笑いながら言った。


「ブレダ カティルと言ってましたね。

それにしてもこちらから美味しそうな匂いがしてますね」


「ふーん、本当だ。なんかいい匂いがしてる。

それに思ったより暗くないね。賑やかだよ、ここ」


「そうですね。市場もあるし、何が暗いんでしょうね」


「ここかな。ブラダン がニル。看板のあの黒い円、合ってるでしょ。

へえ、美味しそうな匂いがするよ。早く入ってみよう」


美味しい匂いで気分が良くなった私は、酒場の門を強く開けてしまった。


派手な登場に人々の視線を感じた。


「うわー」


ヘルは先に立って中に入った。しかし、険しい顔をした男がヘルを遮って話しかけた。


「見慣れない顔だな。お前ら、ここになんの用だ」


ヘルが酒場の中を見回しながら言った。


「道案内のグレンを探している」


「道案内?お前ら魔法使いの手先か!」


いきなりヘルに殴りかかった男は、一瞬で後ろにあったテーブルに飛んで倒れた。

こちらを見ていた他の連中も立ち上がり、ヘルに飛びかかり、修羅場となった。

その時、黒い何かが飛んできて、人々とヘルの間に落ちた。


「もう辞めないか!」


「ヒールド。こいつらは魔法使いの手先だぜ」


台所から出てきた人は、デカい黒い炒め鍋を持って言った。


「そんなの構わん!うちで喧嘩する奴は全部出てけ!」


その言葉で群れはみんな元の位置に戻った。


シャーリンはヘルに喧嘩を売って怪我した男の傷を治してくれた。


「バルダーの使者だぞ!シードホートにバルダーの使者がいるとは」


「何が起きてる?まさか噂の話は本当なのかな」


「そしたらあの人達はバルダーの騎士か?!」


「私?ふふ、そう思うのか?どうだろうね」


ヒールドとよばれた人が叫んだ。


「グレン!あんたのお客だよ。あんたが片付けして!

さもなければ、今後私の店には入れないからな」


「ふん!美味しい食事が台無しだな」


ヘルが奥のテーブルに座っているおじさんのところに行って言った。


「あなたがグレンか」


「私になんの用だ」


「【ナグルファル】の道を案内してくれる人を探している」


「ハ、ハハ。ナグルファルだと?そう簡単に言うな」


「へ、ヘルの剣を作る為にあそこに行く必要があるんだよ。

珍しい金属を探したいんだ。え、名前が何だったけ?」


グレンはパンを黒い炒め鍋に残っているソースに付けて一口食べながら言った。


「フハハ、笑わせるな。珍しい金属?《ファルパーティ》でも探してるのか?

お前らみたいな青二才が?そんなの幻いだ。探せないよ」


「探すのは私だちがやる。あなたは私たちをナグルファルまで連れて行ってくれればいい」


「ふん、荷物運びはご免だ」


「あなたは道案内が仕事だろう。依頼を引き受けない理由でもあるのか」


グレンはヘルを見て残ったパンを食べてから言った。


「祖父の時から道案内の仕事を見てこの街で育った。幼い頃から魔法使いとの冒険に憧れてたんだ。

私は魔法使いにはなれないけど、道案内になって色んな冒険をしようと、そう思ってた。

そして、お父さんからもおじさんからも道案内の仕事を少しずつ学んできた。

一人前の道案内になった時は嬉しかったよ。

嫌なやつもいたし、大変なこともあったけど、楽しかったよ。

でも、ある時から冒険じゃなくなって、ただの荷物運びになってしまった。


荷物だけ運ぶ道案内にはなりたくないね。


そして10年前に出たヨツンの影響で、みんな怖がって行かなくなった。

他の道案内たちは商人ギルドで荷物を運ぶ仕事に移ったよ。


荷物運びは嫌だよ。


私は荷物を運びたくて道案内になったわけじゃないんだ。

私もこんな歳だ。最後になるかもしれない旅にお前らがふさわしいのか?

ふん!私は慎重なだけだ」


「はぁー、私たちは、ん、多分、楽しい旅になると思うよ」


「お前ら、魔法使いには見えないが、魔法使いなしで行くつもりなのか?

本当に探せるのか?」


ヘルが答えた。


「自分を信じている。私は探して自分の剣を作る」


「やっぱり、お前、エルフだろう?話で聞いていた姿とはずいぶん違う見た目だな」


「いや、うちの魔法使いはローレンで、明日一緒に来るよ。今日は忙しいんだ」


「ローレン?!あの有名な若い魔法使いか?」


「え、知ってるの?」


「もちろんだ。シードホートでは有名人だろう。

彼女がどんなものを作ったのか知らんけどな、最短ではないが、最年少で魔法学校を卒業したことで有名だね。

彼女の師匠ノーブルも有名人だ。彼がシードホート歴史の中で一番短い期間で卒業し、いろんな魔法を作ったと聞いている。

ハハ、ノーブルの弟子はどんな魔法が得意なんだろうな。この目で見るのは楽しみたな」


「え、そしたらナグルバグルまで案内してくれるの?」


「面白い連中じゃないか。エルフに、最年少の魔法学校卒業者とバルダーの使者、そしてあんたはバルダーの騎士だろう?」


「ふふん、まぁ、それは…」


「我々が準備するものは何かあるか?」


「食事の準備はどうしましょうか?聞いたところでは、魔法ギルドからもらえるみたいです」


グレンは最後のパンを残っているソースにたっぷり付けて食べながら言った。


「ふん!食えるか!そんなもん。あれはダメだ。魔法ギルドの乾燥食品、そんなの食べ物じゃない。

シードホートの魔法使いが作った食べ物は本当にひどい味だ」


「た、確かし、私もそう思うよ。毎回食べるの大変だよな」


「ふん!何を考えて作ってるのか知りたいね。

食事を用意するのも道案内の仕事だ。私に任せろ」


道案内の話で安心した私たちは、軽い気持ちで帰り道に魔法使いギルドに立ち寄った。

必要な物品を受け取り、食事はいらないと話した。がっかりするギルドの人を後にして、ローレンが待っている食堂に戻った。


「ローレンが一緒だったらもっと簡単に話ができたと思うよ。まぁー、でもなんとかなったな」


ローレンは大きな肉団子を口に入れ、食べながら言った。


「む、うわー、シャーリンが作ったこれ美味しいよ。

そうだね。あんな群れは私の魔法で眠らせれば、簡単だったろうね。

それにしても、あんなところにも魔法使い好きな人がいるんだ。

確かに魔法使い好きな人たちは学校で何が起きてるかすごく気にしてるとは聞いてる。

まあ、よかったね。あ、そう、フレア、明日の朝にトニーおじいさんのところに行ってあんたの剣をもらうよ」


私は肉団子を全部食べて、残ったソースを指でちゅっとなめながら言った。


「あっ、そうだった!私の剣!どうなった?」


「ふふ、どうかな?」


「え?なに?うわ。気になるよ。どうなったの?教えて」


ローレンはソーダを飲んで言った。


「ふふ、明日になればわかるよ。

それにしてもフレアが持っている破片は滅多に目にできないものだよ。

シードホートにもあるけど、使う魔法使いは見たことはないな。

《フレイの破片》でしょう?昔、ドワーフが使ったとは言われているんだよな」


「あっ!あぁー、そうなのかな!へえー、知らなかったな」


「え?知らないの?自分のものなのに?」


「ふーん、父から受け取ったんだけど、魔法石だと思っていたし、

どんなものなのか詳しく聞いてないんだ」


「ハハハ、話は全部!全部、聞きましたよ!

もちろん、皆さんが行こうとしている【ナグルファル】も私は知ってます!」


「うわ!びっくりした!」


ローレンは驚いて言った。


「バグナ?急に入るなよ!驚いたよ!あ、団子落ちたな」


バグナがいつの間にか私たちのテーブルに来て言った。


「これはぜひ、私も同行しなければなりませんね。今回の旅は歴史に残る話になります!

私が確信しますよ。物語の神様がいるなら、きっと喜んでついて行くでしょう。

ハハハ、あ、落とした団子はいただきますね。あぁー、うまいー」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ほう?ふむ、ん?」


私は歩きながら剣の変わった部分を確かめるためにじっくり見ていた。

ローレンが言った。


「ずっと破片を付けているのがいいんだって。破片を固定しているのは魔法の粉が入った金属だよ。

あ、そう、昨日貸していた剣もこのような金属で作られているんだ」


私は剣を振りながら言った。


「なんか軽くなったような…」


「まさかね。その金属には軽くする効果はないはずだけどな。

混ぜる金属によって効果が変わるの。それは耐久性と力を増幅させるんだって。

多分、もっと強くなったよ」


「えへへ、軽くなったのは気分だけかな」


私たちは話しながらグレンと会う約束をした西の門の方に向かった。


荷物を運んでいるグレンが私たちを見て言った。


「遅いぞ。そしてこのやかましいやつはなんだ。聞いてないぞ」


私は手を振って言った。


「やぁー、バグナ、早いね」


バグナは荷車に荷物を運びながら言った。


「ハハハ、皆さん、おはようございます。いい天気ですよね。

本当に昨日はワクワクして寝れませんでした」


「ふん、確かにお前らは運がいいね。この時期が一番いいんだ」


私はバグナを手伝って壺を運びながら聞いた。


「へぇー、このつぼは何なの?」


バグナが荷車に乗りながら言った。


「道案内はみんな自家製の手料理を持って旅に出たと聞きました。

人気のある道案内は早く、安全に道を案内するのも大切ですが、その料理が人気の秘訣の一つだったと言われていましたね」


グレンは濡れた布に包まれているものを指しながら言った。


「ふん、よくも知ってるね。そうだ、これが私の自慢の料理だ」


ローレンが言った。


「あれは馬ではないな?なんと呼ぶ動物なの?」


「お前がローレンか?思ったより小さいな」


「はぁ?なに?」


「ふん、この子たちは《タースケロン》だ。

暑いだろうが、寒いだろうが、どんな環境でも耐えられる強い生き物だ。

力も強いし、意外と速いんだ。そして賢いんだ。言うことを聞かない子より話がよく通じるだ。いい子だぞ」


私はその動物の背中を触りながら言った。


「毛が長いね」


「気をつけろ。普段はおとなしいが、怒ると恐ろしいぞ」


私は触っていた手を急いで離しながら言った。


「た、確かに、あの大きなツノで攻撃されたらただではすまないね」


荷車に乗っているローレンが言った。


「フレア、早く座って、行こうよ」


私たちは初めて見る動物が引く荷車に乗って出発した。

シードホートの西の門を出ると、南とは違う風景が広がった。


「うわ、ここからは山しか見えないな」


「それより私については誰から聞いたんだ?」


「トニーさんだよ」


「フレア、その話、トニーおじいさんがしないでって言ったよね」


「あっ、ごめん」


「はぁ?トニー?あのクソ、トニー?あの怒りっぽの魔法使いのことか?

ちぇ、聞きたくない名前を聞いちゃったな」


「トニーおじいさんはそんなおこりんぼじゃないよ」


「ふん。知るか!私は会ったトニーと呼ばれた魔法使いは最悪なやつだったよ」


バグナが言った。


「魔法使いトニー、若い頃には【血染めの銀の爪】、【銀の野人】と呼ばれていましたね。

今は白銀の偉大な魔法使い、【灰色の賢者】と呼ばれていますけどね」


「はぁ!そんな奴が賢者だと!シードホートにも人材がいないんだね!

確かに魔法の腕はいいが、人使いが荒いやつだった。

ふん、自信満々に《デュプブラリス》を見つけると言っていた魔法使いも、結局何も発見できなかった。

今、お前らが行く【ナグルファル】はそんな場所だ。

ここから北に行って橋を渡り、ずっと西に進むと赤褐色の高い岩壁が連なる峡谷が出てくる。そこを通るのが【ナグルファル】に行く最初の関門だ。

そして、この先の橋の付近には、昔は盗賊がよく現れていたけれど、今はさすがにいないと思うな。

ただし、警戒は怠らない方がいいぞ」


ローレンが言った。


「ふふ、いいよ。全部、新しい魔法の試しにしてやるよ」


「うわ!そういえば、以前完成したと言ったよね。早く見たいな」


「ふふ、待ってよ。ヨツンとか盗賊が出たら見せるよ。

あぁ、さすがに盗賊に使うのはやりすぎかな…」


私は横を走っている動物を見てグレンに聞いた。


「それにしてもあの子はなぜ連れて来たの?」


「道を教えないとな。今この子も歳を取ってるんだ。この子の次を考えて連れて来てるね」


「へえ、それにしても人も乗せるんだね」


「ふん、普通は無理だよ。あれはエルフだからかな。私もはじめてみるな」


ヘルはいつものような表情だったけど、少し楽しそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る