7. 白銀の魔法使いが贈る特別な贈り物

黒い影が黒いマントと黒い帽子をかぶり、帽子の下から白く光る目(目だよな?)が私たちを見ていた。


ローレンが手を振りながら肩から降りて言った。


「この人はボーだよ。人前に立つのが恥ずかしくて、自分が作った魔法で姿を消そうとしたけど、この様なの。

でも、それで前よりは話せるようになっているよ。フフ、面白いでしょう?触ってみてもいいよ」


黒い影が言った。


「やめろよ。ローレン」


ローレンは笑いながら言った。


「ごめんね、ボー!トニーおじいさんはどこ?」


黒い影は肩に乗りながら言った。


「奥にいるよ。君たちを待っていたんだ。ふぁー、本当にエルフだな…」


私は周りを見ながら言った。


「ここからは階段もあるね」


「うん、あの上はトニーおじいさんの部屋だよ。

昔はここにいろんな研究室があったけど、今はトニーおじいさんの研究室しかないの。

だから全部広くして、あの上の部屋だけ残してるんだ」


「ボー、これもお願いぃー。あぁー、行っちゃった?

ローレン、来たね。ウフフ」


研究室からいろいろな物を持って出てきた人を見て、ローレンが言った。


「フローラ、おはよう。トニーおじいさんは?」


「先生は中にいるよ。ふーん、ボー、行っちゃったな。

へへ、上がってきたらまた行ってもらおう!えへへへ」


私たちはローレンについて研究室に入った。

そこは天井が高く、とても広くて、様々な物があちこちに転がっていた。

物に隠れて奥は見えなかったが、ローレンの言うとおり、甘い匂いといい香りがしていた。

ローレンについて中に進むと、そこには大きいテーブルにいろんな石が置いてあった。


「トニーおじいさん!来たよ!」


「おお、来たね、ローレン」


「朝から何してるの?」


白髪の魔法使いは石を持って言った。


「君がこの前に持ってきたものを使って試作品を作っているんだ。

ふふ、しかし以前これを君が持ってきた時は驚いたよ」


「へへ、あの森でトニーおじいさんの依頼品を見つけた時は私も驚いたよ。で、何を作ってるの?」


「君が持ってきたこの石はね、遺跡の建物の床の破片なんだ。

古代の技術だと思うけど、この石には魔法の力が込められている。

現在、私たちが魔法の粉を使うのと似ってるものだと思うね。

簡単に言うと、この石を使って空を飛べるものが作れるんだ。

プレキ、ハティ」


白髪の魔法使いの手にあった石はその瞬間、粉々になってしまった。


「どこまで小さくなってもいいか試してみたんだ。こうやって粒子が小さくなっても使用可能そうだ。

そこは魔法の粉とちょっと違うんだよ。魔法石か破片に近いかもね。

今後いろんな所で使えるように研究しなきゃね。ハハ、やることが多いよ。

しかし、今日君たちを呼んだのはこれを見せるためではないんだ。

君たちにあげたいものがあるんだ。

ココさん、お願いね」


ローレンが緊張して気まずそうに言った。


「うっ、ココさん。おはようございます」


「おはよう、ローレン」


ココと呼ばれる人は静かにローレンのところに来て、ローレンの服の乱れを直してくれた。

そして、大きなカバンをローレンに渡した。


ローレンは嬉しそうに言った。


「うわ、このカバン、軽い!ありがとう、ココさん」


白髪の魔法使いは、後ろに山積みになっている物の中から何かを探して持ってきて言った。


「本格的に冒険をするには必要だろうな。

ココさんがローレンのために作ったんだ。

今持っているカバンと比べても、いい品だと思うよ。

そしてこちらは私があなた、若いバルダーの使者に贈るものだ。

これからの旅に役立ててほしいね」


シャーリンは重そうな四角いカバンを受け取りながら言った。


「ありがとうございます。これは?」


「それには私が作った香辛料と調理器具が入っている。

長い冒険において、食べ物ほど重要なものはないからね」


シャーリンは嬉しそうに言った。


「あ、すごい。これを有効に使わせていただきます」


白髪の魔法使いは私をみて言った。


「ふむ、あなたは魔法使いの間でもう有名になっているね。魔法を使う剣士だと」


「えへへ、そうなの?」


「君が使ってる魔法石を少し見せてもらえるかな?」


「あ、いいよ。えーと、これ」


「ほう、これは魔法石ではないな」


「え?本当に?知らなかった。じゃあ、何なの?偽物なの?」

「ふふ、違うね。もっとすごいよ。これは破片だ。しかもきれいに加工されている。

魔法石と破片について深い理解がない魔法使いや商人が見ても、魔法石だと勘違いするだろうね。

ふーん、こんなのをどうやって手に入れたんだろう。

あ、話したくないことは話さなくていいんだ。

これを剣に付けて使うんだろうね。

君の剣も見せてもらえるかな?」


「もちろん!この剣は自分で作ったんだよ!どう?」


「ほう、そうなのか?大変な才能を持っているんだね。

このように破片を使う武器はヘーニルの魔法使いがよく使うね。

決められた呪文を使用して武器を強化して戦う。かなり古い方法だ。


ふむ、剣の材料は普通の金属かな。

しかし、この金属は破片に反応して変化をしてるな。

この武器の寿命は長くない。決めた。

この剣と破片をちょっと借りてもいいか?剣士よ」


「あ、あの、私の剣はどうなるの?」


「ヨツンから出た金属だね。まあ、有名なのは《ホドビトゥン》かな。

遺跡で発見される金属だ。

昔、ヘーニルの魔法使いはその金属を使って武器を作ったと聞いた。

しかし、君の剣はそんな武器とは違って、魔法を使うたびに影響を受けて変化してしまう。

それで、この武器の寿命はヨツンから出た金属を使った武器よりも長くないんだ。

そして使い方も違っている。それがさらにこの剣の寿命を短くしているんだ。それを少し私が延ばしてあげるよ」


ローレンが興奮して言った。


「トニーおじいさんはね、すごいよ。普通、魔法石にも寿命があるの。

でもトニーおじいさんが作った魔法石はまだ壊れてないの。

フレア、この剣をトニーおじいさんに見てもらうのは本当にすごいことだよ!」


「まあ、そんなことないな。ローレン。私が作った魔法石もいつかは壊れる。

ただ、壊れるのが遅くなっているだけだね。フレアと言ったね?

心配しないで、明日までには返すよ。じゃあ、次は…」


白髪の魔法使いはヘルをじっと見た。


「エルフよ、あなたに何がいいかな?

君より若い私が、何か役に立つものをあげる栄光を与えてほしいね」


ヘルは魔法使いの後ろに行き、山積みになっている物の中から腕輪を取り出して言った。


「これを貰ってもいいか?」


「おお、そうだね。あれに目が行ったのか?

見た目は綺麗な腕輪だが、普通の物ではないと思って保管していた。

何か魔法の力がありそうで、いろいろ試してはみたね。

しかし、分からなかった。集中すると何かの音が聞こえるが、何を言っているのかはよく分からないものでな」


ローレンはヘルが持っている腕輪を見ながら言った。


「ふん、風の音かな?なんだろう。ヘルはこれが何なのか知っているの?」


ヘルが腕輪を腕に付けながら言った。


「我々エルフも魔法の武器を持っているが、人間のものとは違う。

最初のエルフの中で一人が四つの武器を作った。


《エイクスュルニル》、すべてを突き破る、鹿の角のような槍。

《ヘイズルーン》、その音に疲れも死も目覚めさせると言われている鐘。

《ヴェズルフェルニル》、鷹の羽のように軽い羽衣。

《ラタトスク》、二つの刃が絡まっている剣。


これは彼がその後に作った武器の一つ、フレスベルグ」


その瞬間、腕輪は形を変え、弓になってヘルの手に握られた。


「うわ!なに!」


ローレンと私は驚いて叫んだ。


「ほぉー、これは凄いものを見せてもらったな。

やっぱり、使われている金属も何か違うんだ。

これと似た物を作るために私はいろいろ試してきた。

これはどんなヨツンから出たものから作られたのか、あんたは知っているのか?」


「これはヨツンから出たもので作られてない。

彼が作った武器は聖なる材料で作られたと知られている。

どこかに旅に出て、その材料で武器を作ってきたと言われているんだ。

彼は最後の旅からは帰ってこなかった。

だからエルフが持っている魔法の武器はかなり少ない。


この武器は怒った波のように多くの敵を飲み込んで血を流させた武器だ。

ラグナロクで使われて、行方不明になっていたものだ」


「若い時には色々旅をしていたな。

それこそ君たちが行こうとしている北南の森、【ナグルファル】と呼ばれる所やヘーニルの遺跡にも行ったね。

私が必要なものを探しに行ったけど、時間がもったいないと思ってね。

それからは冒険者に依頼することにした。

それは最後にヘーニルの遺跡で見つけたものだ。

こうして元の場所に帰るのを見るとは、嬉しいね。」


「あなたの善意をありがたく受ける」


ローレンが言った。


「ヘルの笑顔は初めて見たな。

しかし、この弓を使うには矢も必要だよね。

この後、鍛冶屋に行ってみる?」


ヘルが弓を見ながら言った。


「この弓は矢がいらない。弓を引くと、風の矢が飛んで突き破るんだ」


「うわ!なにそれ!」


「ほう、破片も魔法石も使われていないが、魔法が使えるのか?これは…」


「トニーおじいさん、本当に大丈夫なの?こんなに貴重なものをくれて」


「いいんだ。私にはこれよりもっと貴重なものがあるね。

そして魔法使いたちが知ったら大変なことになる。

多分、【バニソフスタード】の奥にまだ封印されてしまうな。

ここにあるよりはマシだ。さあ、それと君たちにあげようと作ったものがまだあるんだよ」


白髪の魔法使いはテーブルにある袋をローレンに渡した。


「これはなんなの?あ〜〜、甘い香りがする。

はあ、心がほっと落ち着く感じだな。食べ物かな?

え、見たことないな。新しく作ったの?」


「そう。シードホートの西側で発見した実を使って作ったんだ。

薬材として使えるけど、そのままだと味が苦くてね。

甘くしてみたんだ。自慢の香辛料を加えて飲み物にしたものもあるよ。

疲れた時に飲むといい。


【ナグルファル】は私も一度行ったことがあるが、かなり危険な場所だ。

そこには魔法武器を作るのに適した金属がある。

一番有名なのが《デュプブラリス》と《パリル》だ。


特にデュプブラリスは結構な頻度で発見されていて、いろんな武器が作られたと言われるね。

シードホートの鍛冶屋の斧と槌もあのデュプブラリスで作られたものだ。

青みを帯びた透明な金属で、それで武器を作ると綺麗だよ」


「私も本で読んだよ。

だからヘルの武器を作るために行こうと決めたけど、

デュプブラリスが見つかったのもかなり前でしょ?」


「そうだね。残念ながら私も見つけられなかった。

デュプブラリスが発見された当時に行っていた冒険者と魔法使いの武器の話が有名だろう」


「うん、最後に発見した冒険者は剣を作って、魔法使いは槍を作ったらしいよね。

でも、それ以降は誰も見つけてないよね」


私は気になって聞いた。


「他の金属と何が違うの?どうやって探せばいいの?」


白髪の魔法使いが言った。


「ふむ、今回ラウペイを倒した時のように、手強いヨツンを倒すと、その死体から金属が作られると魔法使いたちは考えている。

だから、探す方法は強いヨツンを倒すか、倒されたヨツンが残した痕跡の周りを調べるしかない。

時には古い話が糸口となることもある。ヘーニルの遺跡も、ラグナロクの話からそうしているんだね」


ローレンも楽しいそうに言った。


「そして意外と、その金属は弱くて、簡単に壊せるらしいね。

パリルについては、太陽の光を浴びると黄金色に輝くけど、普段はただの黒い石に見えるらしい。

私もビドルフが書いた本で読んだよ」


白髪の魔法使いは困ったような顔をして言った。


「ふう、そうだね。しかし本物は残っていないね。

話では《ボルバプ》が使ったと言われているけど、シードホートでその存在を知る魔法使いはいないね。

とにかく、【ナグルファル】に行くには熟練した道案内が必要だ。

しかし、この10年間で多くの人が仕事を変えた。残っている道案内は少ないね。

私が知っている道案内はシードホートの町外れにある酒場でよく見かける。

頑固一徹のあいつは未練が残っているようだから、訪ねてみてね」


ローレンは何かを考えるようだった。


「それにしても、トニーおじいさんはシードホートの町外れも行くんだね」


「私の唯一の趣味は、いろんな所を訪ねてそこに美味しいものがあるかどうか調べることなんだよ。

それに、忌まわしい所だとしても時には足を一歩踏み入れないとね。


自分の偏見を信じてばかりでは新しいものは見つけられない。

楽な席から立ち上がって、不便な所に行ってみな。

そこに君たちが望むものがあるかもしれない。


ふむ、あの道案内に、私の話はしないでね」


ローレンは白髪の魔法使いに聞いた。


「よし。分かったよ。その酒場の名前は何なの?どうやって行けばいい?」


白髪の魔法使いは言った。


「【ブレダ カティル】だ。看板に黒い炒め鍋が描かれてるから見つけやすいね。

ローレン、君はここに残って私を手伝って欲しいんだ」

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