4. 見えないもの しかし存在するもの

「あそこ、あの森にそびえ立てる多くの木が見えるでしょう?

あれらはすべてラウペイの背中で育ってる木なんだってさ。

あの木にどんな特性があるのか調べる為、倒した後にちょっとしたカケラでも持ち帰りたいの」


バーバラは変な乗り物に座って自信満々に話していた。


「あなたが乗っているのもゴーレムなの?」


バーバラは私を見て言った。


「ゴーレム?ちょっと違うけどね。

そうだね。私は歩くのが、好きじゃないの。

研究室にいる時も、この子たちに助けてもらってるよ」


私は腕をふにゃふにゃさせて横に広げながら言った。


「面白いね。あなたが《土だんご》を地面に投げた瞬間、

こんなに大きくなって動き始めたよね。これも魔法なの?」


バーバラは嬉しそうに笑いながらクマのぬいぐるみをぎゅっと抱いて言った。


「フフ、すごいでしょ?

《ナンナの魔法石》を使って私が作った魔法だよ。

植物の成長させたり、植物を自分の意志で動かしたりできるの。

知ってる? 植物も自分の意志があるのよ。

少し助けをしてあげると、こうして私たちの力になってくれるの。

一部の魔法使いは植物の意志ではなく、精霊の働きだと話をするが、私は認めないよ。

私は魔法の粉と魔法石を通じて私の考えを植物に伝えてるの。

それには特別に作られた土壌が必要で、そこから植物を育てているんだよ」


ヘルが言った。

「精霊は存在する。エルフたちは精霊たちと対話し、その力を借りることができる」


太陽が昇って輝いている森を見ながら、私は言った。


「うんー、よくわからないけど、魔法の植物を作ったの?

すごいね!私も精霊の話は聞いたことがないな。

精霊って何?ヨツンとは違うの?ヘルは精霊たちと言ったこと、ある?」


私たちの話を聞いていたバグナが言った。


「精霊は存在しますよ。そうですね、ローズル地域で精霊の話は聞きにくいですよね。

古い話がたくさん残っているへーニルでは、幼い子供たちも精霊の話を聞いて育ちます。

もちろんエルフの話もあります。しかし、精霊とエルフを混同する人もいますね」


バーバラはヘルと私を見て言った。


「見ることができない精霊の存在ね。どう確認すれば、いいんだろうね?

ふーん、それより《魔法植物》と呼んだ方がいいね。これからはそう呼ぶよ」


バグナは私たちに自分が知っている精霊に関する歌や話を話し続けた。

私は精霊の話に少し興奮したが、あの先に見える森に近づくほど不安になり、精霊の話はもう耳に入らなかった。


前方の冒険家たちが手を振って道を避け、反対側から馬車が通り過ぎた。


「この道、本当に馬車がたくさん通るね。全部商人ギルドの馬車なんだよね?」


バグナは私に言った。


「はい、あの馬車は商人ギルドの馬車ですね。

シードホートに品物を運ぶにあたって、この道ほど重要なものもないですね。

ハーグビルクから繋がるこの広い道も、商人ギルドが作りました。


そろそろですね。森が近くなりましたね。


どうですか?


遠くからこうして問題が見えると、いろいろ考えてしまいますよね。


しかし問題の真ん中に入ってできることは、

苦しみながら両腕を振り回して体を動かすだけです。


それを続ける人が生き残るでしょうね。

止まったその瞬間、闇に捕まって去ってしまいます」


私は急に気になってバグナに聞いた。


「あの巨大なヨツンを道の方に誘引することはできないの?

そうすると、もう少し戦いやすいと思うんだけど」


バーバラが言った。


「それは無理だよ。ラウペイはほとんど動かないと知られている。

ある瞬間、森に現れ、通りすがりの人や動物を攻撃するの」


バグナが言った。

「木こりたちに伝われてる話では、森の神が怒って送った伝令がラウペイたと言いますね」


バーバラが言った。


「ふん、神なんて信じない私たちにその話は何の意味も持たないものだね。

実際、ラウペイはヨツンだからね。

いつ、ラウペイが現れたのか、人は知ることができない。

自分らが知らないことを神や精霊、目に見えないものを作って、

それに頼りきって、真実について自分で考えようとはしないの」


バーバラと一緒に来た魔法使いが言った。


「あの森は冬の狩りといろんなものを採集していた場所でしだが、

ラウペイが現れてからは現在、誰も入らなくなりましたね。

そういえば、今になってあの森にどんな新しい植物が生えているのかも気になりますね。

あ、もう森に着きましたね」


ゴーレムが森の入口に立っている多くの木を倒しながら進んだ。


「うわ、すごい。あのゴーレムたちも戦うの?」


バーバラが言った。


「できないね。あのゴーレムたちは力はあるけど、他はダメなのよ」


「あ、ゴーレムたちが止まった」


バグナが言った。


「ここで一回休みを取りますね」


木が倒れて作られた大きな広場で私たちは休息と簡単な食事をした。


私は魔法使いたちが用意してくれた干し肉の切れ端を食べながら言った。

「強そうな冒険家も多いな」


バグナが言った。


「そうですね。ほとんど、魔法使いギルドの依頼でよく働く者たちです。

それ以外は、私のように今回の依頼に対する噂を聞いて集まった人たちですね」


私はバグナに聞いた。


「ところで、なぜ今さらラウペイを倒そうとしてるの?

もちろん、私たちはヘルの剣の材料を集める為だけどね。

今まで放置してたのに、なんで?」


バーバラは言った。


「頃合いが良かったのよ」


バグナが言った。


「そうですね。しかし、準備ができている者だけがその機会を捉えることができます。

私がここにいるようにですね。 ハハハ」


私たちの隣で静かにしていた初めて見る鍛冶屋が言った。


「ラウペイの長い脚は他の木と同じように見えますが、もっと硬いです。

強度が非常に高いため、魔法の武器の取っ手や、それ自体を使って武器を作ったりもしますね。

また、火にも強い耐性を持っているので、特別な門を作ることができます。

そして、それは高く売れますね。しかし、手入れするのはとても大変です。

魔法の力が込められた斧や道具でなければ切れませんし。

私たちも在庫がもうないので、本当に良い機会です」


「へぇ、じゃあ魔法の力が込められた武器で脚を切ればいいんじゃないの?

ここに魔法の武器を持っている人はいない?」


バグナが言った。


「残念ながら、魔法の武器はそんな簡単に手に入るものではありませんね。

ここに集まってる冒険家たちでもね」


見習い鍛冶屋も言った。


「素材を手に入れるのが大変ですからね。

鍛冶屋にある魔法の斧を持ってきましたが、伐るには時間がかかります。

それだけで、あのヨツンを倒すのは難しいでしょう」


変わった形の大剣を持って兜をかぶっている冒険家をヘルが凝視していた。


「ヘル、あの人知ってる人なの?」


「いや、でもあの人は強い」


「みんな」


魔法使いギルド員が私たちを呼んだ。

その声に笑って雑談を交わしていた冒険家たちも固い表情になって自分の武器を持って立ち上がった。

最前列の冒険家たちは志願して前に進んだ。彼らは自信満々で経験豊富に見えた。

バグナの話によると、その後に従う人たちはほとんど準備ができていない人たちだということだった。

彼らはあたりを見回しながら森の中に入り、時間が経つほど恐れているのが見えた。


一番前にいた冒険家の一人がヨツンの脚を見つけて叫んだ。

後を追っていた他の冒険家たちも大声を上げながらそこに向かって走り出した。

その時、彼らのうちの一人が太い幹に当たって空中に吹き飛ばされるのが見えた。


バグナはあたりを見回して言った。


「これはあまりよくないですね」


バグナは演奏を始めた。

静かに始まった演奏は徐々に森を響き始めた。

私を含め、今起こったことで驚いて止まっていた冒険家たちも再び動き始めた。


私は周りを見ながら言った。


「あ、歌じゃないんだ」


バグナは私を見て笑いながら言った。


「私が歌い出したら、みんなその音にはまって、戦えないでしょう」


私は自分の手と体を見ながら言った。


「やっぱり。この輝くのはシャーリンの魔法なんだよね?

以前も私が丈夫だったからではなく、この魔法のおかげであまり怪我をしなかったんだよね」


シャーリンは微笑みながら答えた。


「すべての人に加護を」


バーバラは冒険家たちの後を追って言った。


「こんな植物が私たちを攻撃するなんて、理解できないね。 このヨツンも植物なのか?」


バーバラに土だんごをもらった冒険家たちがヨツンの脚の方に投げ、それを見たバーバラが叫んだ。


「グレプニール」


巨大な植物の幹が地面から伸びてヨツンの片脚をつかんだ。

それに合わせて他の魔法使いたちも呪文を唱えた。


「ん?呪文がバーバラのより長いな」


「フフ、私のは私が作った呪文だからね」


バーバラの茎に比べると細い茎が現れ、それがバーバラの茎を包み込み、脚を動かせないようにした。

木で隠れて見えない空の方からは小さいけど気持ち悪い鳴き声が聞こえて来た。


「頭の上を気を付けろう!」


どこからか警告の声と悲鳴が聞こえてきた。


私はバグナの隣に立って言った。


「ヨツンがたくさん現れるって言ってたけど、思ったより簡単に終わるのかな?」


バグナは演奏を続けながら私に言った。


「もうそろそろ始まるでしょうね。

私が聞いたところによると、空から針のようなヨツンが現れるらしいです。

このことを知っている冒険家と魔法使いはすでに準備を整えています」


周りを見回すと、脚を叩いている冒険家たちの中にも周囲を警戒している者がいた。

魔法使いや彼らを守る冒険家たちも警戒を緩めずにあちこちを眺めていた。

時々、太い植物の幹が木の上から出てきて攻撃を仕掛けてきたが、魔法使いたちの攻撃で苦しそうに上がって消えていった。


バグナは私を見て言った。


「どこでどのように攻撃してくるかわかりません。

今は見えませんが、彼らはすぐに現れます。

心の準備をしてくださいね。

これまでの経験と自分を信じて進むしかありません。

恐れると動きが鈍くなります」


その時、空から鋭い音と共に巨大な針のようなものが落ちてきて、私のすぐそばの地面に突き刺さった。


「うわぁ!何だよ!」


私は剣で針のようなヨツンを斬りつけた。

半分に割れたヨツンは黒いほこりとなって消えていった。


「倒した?意外と弱いの?」


空から落ちてきたヨツンは、針のような体から長い脚を伸ばした。

動き始めたヨツンは冒険家たちを攻撃し始めた。

そして、空から落ちてくるヨツンを避けきれずに刺されて怪我をする冒険家たちが現れ、あちこちから悲鳴が聞こえてきた。

針のヨツンたちはクモのように素早く、軽い動きで鋭い脚を使って攻撃を仕掛けてきた。

ラウペイの脚を攻撃していた冒険家たちの中には、

この状況にどう対処すればいいのか分からず、武器を捨てて逃げる者も出てきた。


私はバグナを守りながら、私たちの方に向かってくるヨツンたちを斬りつけつつ言った。


「本当に数が多いな。これいつまで続くんだ?」


「急ごう!」


バーバラは私の方を通り過ぎた。その後を他の魔法使いたちと冒険家たちが追った。

ヘルはバーバラの前方に現れるヨツンたちを斬りながら道を切り開いていた。

シャーリンは私たちとラウペイの脚の間に立ち、両手を合わせて立っていた。

そして、彼女を攻撃した針のヨツンたちは全て黒いほこりとなって消えていった。


大盾で空から落ちてくるヨツンを防いでいる冒険家が言った。


「ぐぬっ、あれらは全部ヨツンの腹の下から落ちてくるようだな。

ふん、それにしても凄いな。あのバルダーの使者は一体何者だ?

あんなのは初めて見る。

あのお嬢さんは私たちの助けは必要ないね。ハハ」


「うるさい。集中しろ」


大剣を振り回すと、ヨツンたちは黒いほこりになって消えていった。


「ちっ、本当に数が多い」


大剣を持った冒険家と他の冒険家たちは、ラウペイの脚を攻撃する仲間を針のヨツンから守っていた。


私はしばらくよそ見をしながら言った。


「ちょっと疲れたけど、思ったより簡単かも?

あぁ!バグナ、大丈夫?」


その瞬間、隣から飛び出したヨツンが私を飛び越えてバグナを攻撃した。


しかし、バグナは簡単に踊るように避けながら言った。


「ハハハ、これくらいなら避けられますが、もっと多くなると難しくなります。

フレア、集中してくださいね。 しかし、みんなも集中が切れてますね」


私は冷や汗を流しながら言った。


「ごめん!」


バグナはこれまでとは違う雰囲気の音楽を演奏し始めた。

そして、後ろの脚の片方もバーバラと魔法使いたちが動きを止めた時、ラウペイは咆哮を上げた。

その音と共に空から数え切れない針のヨツンが降りてきた。

大盾を持った冒険家が空から落ちてくるヨツンたちを押しのけながら叫んだ。


「まだか!どうしてこんなに時間がかかるんだ!これじゃこちらも限界だよ!」


数の多さに押され、疲れた冒険家たちが針のヨツンに倒れ始めた。


脚を攻撃していた彼らも疲れ切って言った。


「この怪物みたいなもの、俺たちの力じゃ全然動かせないよ!」


「魔法使いを呼べ。魔法で解決するしかない。こんなやり方、上手くいかないよ!」


『くっ、誰なよ!こんなアホな作戦を考えたのは!」


シャーリンは倒れた冒険家を治療する途中で彼の棍棒を手に取り、立ち上がって走り出した。


「あっ!シャーリン! 危ない!」


ラウペイの脚に向かって走るシャーリンに、ヨツンの攻撃が飛んできて頬に傷をつけた。

しかし、彼女は止まることなく走り続けた。

姿勢を変えて再びシャーリンを攻撃しようとするヨツンを、大盾を持った冒険家が跳ね飛ばした。


シャーリンは気合を入れてラウペイの脚を棍棒で打った。

シャーリンの攻撃に森が響く低い悲鳴とともに、山が崩れるような音が聞こえてきた。

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