3. 小さいもの、偉大なもの、準備されていない者

「ああ、ローレンがあんな感じに連れて行かれるなんて。 イタイッ!」


「フレア、集中しろ」


ヘルが振り回した木刀に当たって倒れた私は起きながら言った。


「朝からひどいね。 今日は重要な依頼もあるし、これくらいにしてはだめなの?」


ヘルは剣を私に向けながら言った。


「一連の小さな水流が一つに集まり、巨大な川を作り出す」


「え?何それ」


「毎日の小さな努力が積み重なって成し遂げたことがどれほど偉大かを語る、エルフの古い話だ。

剣で成功すると言ってなかった?」


その瞬間、私はヘルに飛びかかったが、あまりにも簡単に塞がれ、また転んだ。


「イッ!」


「君は剣を振り回すのではなく、斧を振り回すみたいだ。

そして、戦いで感情に振り回されると、君の命も消えかねない。

忘れるな」


「その通りです。

ああ、私が話すタイミングじゃなかったんですかね?」


「あれ、バグナ?」


ヘルは私を起こしながら言った。


「もう時間になったのか?」


「はい、皆さん久しぶりですね。 今回の依頼にまたご一緒できて光栄です。

他の方々はすでに魔法使いギルドに集まっています。

皆さんをお迎えしに来ました。 ローレンとシャーリンはどこにいますか?」


私はお尻をとんとんと叩きながら言った。


「ローレンは今朝、塔の試練のために行ったよ。

シャーリンは朝祈祷中だと思う。

私が呼んで来るね!」


私たちはバグナを追って魔法使いギルドに向かった。


「今回の依頼はなかなか経験できない大きな冒険です。

私はとても興奮していますが、皆さんはいかがですか?」


私はヘルを一度見て言った。


「んー、私はよく分からないな。 何がそんなにすごいの?

私たちはヘルの剣を作るのに必要な材料だとローレンから聞いて参加するんだ」


「おやおや!

《ラウペイ》はドラゴンほど強いものではないですが、

だからといって、それより劣るわけでもありませんよ。

数多くの人々が力を合わせて倒さなければなりません。

小さな力が集まって大きい力に立ち向かって戦います。

なんて素敵な話なんでしょう」


シャーリンが言った。


「小さい頃、ラウペイの話はバルダーの神殿で聞いたことがあります。

バルダーの王が先頭に立って、バルダーの騎士と使者が力を合わせて、アルダフォードの北の森で戦った話でした。

しかし、多くの人が犠牲になったと聞いてます」


私は驚いて言った。


「えっー、そんなに強いヨツンなの?

ヘル、あなたは戦ったことあるの?」


ヘルは私たちを見向きもせずに言った。


「聞いたこともないヨツンだ」


バグナが言った。


「確かに。私が聞いた限りでは、へーニル地域でラウペイを知っている人はおらず、

昔話にも出てこないのを見ると、ローズル地域だけに現れるヨツンのようです。


皆さん、そろそろですね。

あー!広場に集まった多くの冒険家と魔法使いを見ると、本当に感じますね。

今回の冒険は素晴らしい冒険になるはずですよ。 ハハハ

じゃあー、皆さんも行きましょうね」


広場に集まっている人々の間を素早く通り抜けるバグナを追いながら私は言った。


「わぁーー、こんなにたくさん行くの?

シードホートに来てこんなたくさんの魔法使いが集まっているのは初めて見たよ」


「はい、魔法使いが欠かせませんね。

ああー、ローレンさんが一緒だったら、もっと簡単に終わったかもしれませんね。

しかし、それもまた物語の興味深い点です。

容易ではないものを勝ち取ったとき、私たちはより強いものを得ることになりますからね。

さあ、皆さん。 こちらでお待ちいただければと思います」


私はバグナの後ろに立って、数多くの人の間からギルドの方を見ながら言った。


「そうだね、ローレンの魔法なら、ラウペイを一発で眠らせてすぐ終わったと思うんだけどねー」


「ローレンのそんな魔法ではラウペイは倒せないよ」


初めて聞く声が私の後ろから聞こえてきた。


後ろを振り返った瞬間、ギルドの方から大きな音が鳴って、私は思わず前に視線を戻しながら叫んでしまった。


「うわ!びっくりした!」


ギルドの前に立っていた魔法使いの手が空に向かっていて、空からは煙が出ていた。


大声を上げた私を見ていた人々は嘲笑したが、魔法使いの言葉が始まったのでみんな彼を注目した。


「今回の依頼は皆さんもよくご存知のように、ラウペイを倒すことです。

シードホートではラウペイを倒すのは今回で5回目ですが、

いつものように慎重に、そして確実にしなければなりません。


一瞬の油断で自分の役目を怠った場合、

私たち全員が危険に陥る可能性があることを心に留めておいてください。


ラウペイを倒したという栄誉のために、準備もなくここに来たのなら、

あなたの居場所はここにはありません。


もう一度、話します。


準備ができていない者は、今からでもこの依頼をあきらめなさい。

それが私たち、皆のためです。


冒険家の皆さんの中にはすでにご存知の方もいると思いますが、

皆さんの任務は魔法使いを守ることと、ラウペイの均衡を崩すことに分かれます。


自分がどのような役割により適しているかを考えて動いてください」


私は前にいたバグナに言った。


「自分で役割を決めるのか!それなら私は均衡を崩す方がいいなー。それがやりたいね!」


ヘルは私を見ながら言った。


「どうして『いい』と言った?」


「ん?ただ? いやではないから?」


「理由を考えて」


「ふむふむ、考え?理由ね。考える。んー、 あぅー!知らないよ!

何を考えればいいか分からないよ。このままじゃだめなの?」


バグナは笑いながら言った。


「ハハハ、多くの冒険者は前に進むことを好みます。

しかし、準備が整っていないと命を落とすこともありますよ。


フレアさんは私の護衛役をお願いします。

シャーリンさんは私たちと他の冒険者の間で倒れた人々を治療してください。


そして、ヘルさんは魔法使いを守る役割です。

ギルドの人からヘルさんにはすでにこの話を伝えてありますね?」


ヘルは振り向いて、私たちの後ろにいる魔法使いを見ながら言った。


「ああ、そうだ。 お前か?」


「そう、よろしくお願いね。 エルフさん」


私たちの後ろにいた魔法使いの言葉に、周りの人々がヘルを見てざわめいた。

そして、その魔法使いの隣にいたもう一人の魔法使いが言った。


「バーバラ様、本当にこの方はエルフですか?

私たちの知っているエルフとはずいぶん違いますね」


「アリエル、なんの意味のない文字が集まって、意味を持つ物語を作り出すの。

そして、それを読む時には惑わされてはいけないと言ったでしょう?


魔法の呪文のように物語を読んでいると、

死んでいたものが生き返るような錯覚を受けて、 その話が真実だと思い込んでしまう。


でも、ほとんどの話は、

小さな出来事を大きく膨らませただけなの。

自分の目で確かめるまでは、どんな話も信じてはいけないのよ」


私はバーバラという魔法使いが話している間ずっと彼女の手に握られているのを見ていた。


「うわぁ、かわいい。クマだよね?

クマのぬいぐるみ、かわいい。あ、目の色が違うよ。すごくきれいー」


バーバラはうれしそうにクマのぬいぐるみを私に近づけて言った。


「ふふ、そうでしょ?これは全部魔法石だよ。それに、この鼻も魔法石なんだよ」


私は驚いて目を輝かせながら言った。


「ん?ええっ!!魔法石?あなたはクマのぬいぐるみで戦うの?」


「エイディー、この子にはちゃんとした名前があるの。

クマのぬいぐるみなんて呼び方はやめて」


バグナは笑いながら言った。


「こんなところでお目にかかるとは!

シードホートの偉大な魔法使いの一人、バーバラ様ではありませんか。

ハハハ、今回の冒険はきっと素晴らしいものになるでしょうね」


バーバラが言った。


「率直に言って、私はこうしたことよりも研究室で研究している方が性に合っています。

でも、今回の依頼で私が研究してきた成果がどれほどのものか確認するのが楽しみです。

ラウペイがどれほど強いのか、私の子供たちがそれを上回るのか、試してみたいですね」


「ん?あれは何だ?」


魔法使いギルドの裏側から、何か分からない巨大なものが大きな音を立てながらゆっくりとこちらに向かってきた。


人々はそれが近づくと道を開けて横に退き、それに続いて徐々にシードホートを出て行った。

私はその光景に驚いてぼんやりと見ていた。

巨大なものが私のそばをゆっくりと通り過ぎると、思わず驚きの声を上げた。


「ああっ、熱い。近くに行ってはいけないね」


バグナが言った。


「あれはゴーレムですね。今回のヨツンは巨大ですからね。

荷車や武器、そしてゴーレムはすべて魔法使ギルドが用意しました。

しかし、シードホートの肉祭りに比べると規模は小さいほうですよ。

冬前に行われる狩り祭りでは、これよりもっとたくさんのゴーレムや人々が参加するらしいです。

魔法使いたちは料理を作るのが面倒で、一度に大量の保存食を作っています。

ハハハ、最近は毎年開催されていないそうですが、

また祭りがあれば私も参加してみんなの活躍をこの目で観たいです」


現実を知って少し怖くなった私は、バグナの後を追いながら周囲を見渡した。


「鈍器を持っている人がたくさんいる」


バグナは興奮気味に言った。


「彼らはラウペイの足を攻撃する役目です。

魔法使いギルドの人たちが必要最低限の人員を確保しておきましたね」


「剣と盾を持っている人たちは魔法使いを守るの?」


「はい、彼らも魔法使いギルドの人たちが手配した人たちです」


バグナは静かに私に言った。


「準備ができていない人たちにはあえて戦い方を教えていないんです。

彼らの多くは今回の戦いで命を落とすでしょう。

魔法使いたちは彼らがいなくなっても戦いに負けない策をすでに講じています」


私は呆然として言った。


「そんな先のことまで考えてるの?私にはとても真似できない」


大きな盾を持っていた冒険者が私を押しのけながら通り過ぎて言った。


「ハハ、怖がってるのか? 若造?」


「えっ!何だよ! 目がないの? どうしてぶつかってくるんだ!」


「ほうほう、それでも口は生きているな。 ふん!」


ヘルが突然剣を振り上げ、私を押した者に攻撃したが、彼は大きな盾でそれを防いだ。

行列は突然立ち止まり、この騒ぎに興奮してみんな叫び始めた。


剣が詰まると、飛び上がって盾を両足で蹴って男を押し出したヘルが言った。


「人間の子よ、かかってこい。 誰が若造なのか教えてやる」


突然、私たちの後ろから大きな声が響いた。

大きな剣を持つ女戦士が私たちに近づいて言った。


「フリム、この愚か者!」


盾を持っていた男は姿勢を立て直して言った。


「モード隊長、お恥ずかしい限りです」


ある魔法使いが私たちの方に来て言った。


「モード、あなたたちの役割は重要です。

ここで問題を起こしたら、これ以上ギルドの仕事は難しいですぞ」


モード》と呼ばれる女戦士は、《フリム》と呼ばれる男の首を押さえつけ、男は盾を落として膝をついた。


モードはヘルと私を見た後、魔法使いに向かって言った。


「このバカがこうしてひざまずいたんだから、許してやってください」


再び人々は静かにゴーレムと荷車について行った。


ヘルは先に歩きながら言った。


「今回の戦いでは魔法石に頼らず、戦ってみろ。自分の力を信じるんだ。

私はあなたの力を信じてる」


シャーリンは私の肩に手を置いて言った。


「フレアさん、大丈夫ですか?」


「あ、あぁー, 大丈夫だよ」


バーバラと呼ばれた魔法使いと彼女について来た魔法使いも私を見て私を通り過ぎた。


バグナが私の方に来て言った。


「みんな私と同じように興奮しているようですね。

もちろん、その興奮をどう表現するかはそれぞれ違いますが。 ハハハ」


先に行くヘルとシャーリンを見て呆然としながらバグナに言った。


「バグナ、私の役割って何だけ?」


バグナは笑いながら言った。


「私が演奏をする間、私を守ってくだされば良いです」


「えぇー、それだけ?」


「そして、周りをよく見てくださいね。

ラウペイを攻撃すると、周りから多くのヨツンが現れると聞いてます。

私は皆さんが恐怖で後ろに下がらないように少し手助けするだけです。

しかし、その小さな違いが大きな違いを生むでしょう」

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