13. 死の神殿と隠された門
《ドッカニン》は広場を横切って隅にあった階段を降りた。
私たちはお互いを見てうなずき、気をつけながら階段を降りていった。
荒い石で作られた階段を降りてきたところは上の階より多いたいまつが壁にあってもっと明るかった。
たいまつの燃える音が充満した空間に鼻を刺激する食べ物の匂いがした。
フレアは目を閉じて鼻をひくひくさせて匂いを嗅ぎながら、顔を匂いのする方向に向けて話した。
「んー、おいしそうな匂いがするよ」
《ドッカニン》は少し止まって後ろを振り向いた後、再び歩きながら話した。
「ドッカニン、あるよ。やること」
中から光が漏れていた扉に《ドッカニン》が近づくと扉が開いた。
(どんな魔法なんだ。今扉が自動で開いたよ。ふむ。ここはどんな部屋だ?)
部屋に入る《ドッカニン》は、少し元気がなさそうな声で話した。
「ドッカニン、いないよ。 みんな」
《ドッカニン》が入ったところには長い木のテーブルが整然と並べられて、
その上にはたった今作られたような食べ物が置かれていた。
(ここは食堂かな)
《ドッカニン》はテーブルを通りながら話した。
「ドッカニン、準備するよ。 みんな」
《ドッカニン》が向かうところには火鉢があった。
その上には黒い色の大きな鍋が置かれていた。
火鉢には薪が燃えて、鍋から湯気が立ち、おいしそうな匂いが漂っていた。
私はテーブルに置かれた湯気の立つシチューを見ながら話した。
「これをあなた、一人で作ったの?」
<タダダッタダダッ>
《ドッカニン》は手を前に伸ばして素早く動かした後、口に持っていき、両手で耳を撫でながら首を回してこちらを眺めた。
「ドッカニン、学ふよ。魔法使い」
その時、何かが木にぶつかる音が聞こえてきた。
(ん?)
火鉢のそばに置かれていた木べらが空中に浮かび上がった。
木べらはシチューの入った大きな鍋の中にどぶんと落ちて自らシチューをかき混ぜ始めた。
もう一方では包丁がカボチャを決められた大きさに切っていた。
火鉢の火が弱くなったところには火鉢の横に積まれている薪が自ら火鉢に飛んでいった。
《ドッカニン》の行動を注意深く観察したが、どうやって魔法を使うのか分からなかった。
私が知っている魔法の知識では説明できなかった。
自ら動く木べらを手で握って止めようとしたが、動く力が強くて握ることもできなかった。
私は《ドッカニン》を見て話した。
「これらはどうしてるの?
どんな魔法? あなた、魔法石は持ってる?
ここにいた魔法使いから魔法も習ったの?」
《ドッカニン》は私の質問を理解したかどうか分からないが、耳を両手で撫で続けながら話した。
「ドッカニン、覚るよ。魔法使い。作るよ。魔法使いが見せた物」
フレアは唾を飲み込みながら話した。
「ねぇー、ドーガリン。 あのー、これ誰も食べないなら、私たちが食べてもいい?」
《ドッカニン》はしばらく立ち止まってフレアを眺めた。
そして、少し頭を上げて鼻をひくひくさせながら話しました。
「ドッカニン、いいよ。 みんな」
フレアはその言葉を待ってたみたいにテーブルに座り、シチューを食べ始めた。
フレアはシチューを木製のスプーンで口に入れて話した。
「うわーー。ドーガリン。
これ、本当においしいよ!」
いつの間にか静かに席に座ったシャーリンも感謝の祈りをして、
シチューの香りを嗅いでスプーンですくって一口食べた後に話した。
「ドッカニンさん、このシチュー、本当においしいです。
私も習いたいですね。ありがたくいただきます」
私も門をくぐってから体もぞくぞくしてお腹も空いていたので、
急いでフレアのそばに座ってシチューを味わった。
私も門を通り抜けてから体がぞくぞくしたし、お腹も空いていたので、急いでフレアの隣に座ってシチューを食べ始めた。
「ん?このシチュー美味しいね。
ふむ。美味しいと言うか、なんか懐かしいなーー
どこかで食べたことあるかなーー」
私はもう少し食べながら目を閉じて記憶の中にある食べ物のイメージから似たような味を探してみた。
ふと思い出した昔の記憶に私は興奮して話した。
「あ!この味ー、シードホートの学食でいつも出てるシチューの味だよ!」
また一口食べると、学校で生活していた日々を思い出した。
(ふーん、あの頃は毎日シチューを食べるのが本当に嫌だったけどな。
一食はいつもあれだったから、時々こっそり村でパンを買って食べたり、
トニーおじいさんの部屋に行って、おいしいものを食べたりしたんだよね。
しかし、シードホートを離れてから体が寒くて疲れた時には、何故かあのシチューが食べたくなっちゃったりしてなーー)
昔のことを考えながらずっとシチューを食べたら、体が暖かくなって、眠気が押し寄せてくるようだった。
(はぁー、眠いなーー、ん?ちょっと待って、こんなことをしている場合か?)
気を引き締めて周りを見回すと、いつの間にか二杯を空けたフレアは、隣にあったシチューも自分の前に持ってきて食べていた。
(うわ!シャーリン)
シャーリンは四杯目を空にしていた。
ヘルは私たちが食べているのを見ているだけで、自分では口にしていないようだった。
私と目が合ったヘルは、今やっと気がついたかのように話した。
「人間は目先の楽しみで大事なことをすぐに忘れるものだな。
私はここで君たちが腹を満たすのを永遠に待てるが、時間は君たちを待ってくれない」
私はヘルの言葉にハッとして、《ドッカニン》がいた火鉢の方を見た。
火鉢の火は消えて、すべては止まっていた。火がない部屋は暗かった。
私は驚いてヘルに聞いた。
「どれくらい時間が経った? ドッカニンはどこへ行ったの?」
ヘルは私を見ながら話した。
「心配しなくていい。ドッカニンがこの部屋を出たのはつい先のことだ」
ヘルは火鉢のある方の扉を指差して言った。
「後を追って行ってみた。彼はまた他の仕事をしていた」
フレアとシャーリンは急いで自分たちの荷物をまとめ、私は体が温かくなって赤くなった顔で周りをもう一度見回してから、ヘルについて部屋を出た。
<カンカン>
長い廊下に石と金属がぶつかる音が響いた。
壁のたいまつは音がするたびに踊るように揺れた。
<カンカン>
廊下を進むにつれて、音はますます大きくなった。
フレアが話した。
「うわーここは何?」
廊下を通り抜けると、今まで感じたことがないほど開放感がある、天井が高くて広い空間が私たちの目の前に広がった。
四方の壁に囲まれた部屋のそれぞれの壁には、さまざまな彫刻が刻まれていた。
そして、一方の壁には空中に浮かぶ鏨と金槌が動きながら彫刻を作っていた
《ドッカニン》はその壁の前に立ち、自分の耳を両手で撫でていた。
私たちは壁を見回しながら《ドッカニン》に近づいた。
私は壁を触りながら言った。
「これらもドッカニンが作ったの?」
《ドッカニン》は耳を撫でながら話した。
「ドッカニン、覚るよ。魔法使いの話」
フレアはある彫刻を指差して話した。
「あれは何を作ったの?太陽かな?」
《ドッカニン》は首をかしげて話した。
「ドッカニン、知らないよ。たいお」
「あー、太陽は空に浮かんで明るく照らすんだ。
それにー、暖かいよ」
《ドッカニン》は話した。
「ドッカニン、知らないよ。そら、あたかい?」
私は《ドッカニン》に話した。
「もしかしてあなたはここから出たことがないの?」
《ドッカニン》は首をかしげて話した。
「ドッカニン、呼ぶよ。魔法使い」
彫刻を見て回っていた私は驚いて叫んだ。
「ん?これは《スカディ》だよね」
シャーリンも私が見てる彫像を見ながら話した。
「確かに、あの紋章は【スカディの紋章】です」
フレアが彫像をを見ながら私に聞いた。
「スカディーって何?」
「【闇の時代】に活躍した英雄たちが使った《バニールの破片》の中で、神として崇められるようになったバニールがあるの。
アルダフォードでは《バルダー》が【光と正義の神】と呼ばれている。
そして、オードの《フレイヤ》が【火と戦争の神】としてガングラード地域で崇拝されている」
フレアが話した。
「ん、そうは知ってるよ。
《ニョルズ》が【風と海の神】、
《ナンナ》も聞いたことがある。なんだけー。
でも《スカディ》は初めて聞くな。
じゃあ、《スカディ》もバニールなの?」
シャーリンが話した。
「はい、《スカディ》は【恐怖と死の女神】として一部の人から崇められてると聞きました。
アルダフォードでは《スカディ》のことを話すことも《禁止》されています」
フレアは話した。
「禁止?聞いてないなー、知らなかった。そんなこと」
「でもシードホートの魔法使いたちは、バニールを神だと思っていないので、魔法の研究のために使う魔法使いたちもいるよ」
シードホートにある魔法使いの墓に埋められた多くの魔法使いは、《スカディ》を研究していた人たちだ。
彼らは呪い、恐怖、闇、死といったものに魅了されて研究していた。
時にはもっと知りたいという好奇心から、自分たちの体を使って魔法を研究した結果、
魔法使いの墓に入ることになった人がほとんどだ。
私と同じ時期に来たフランキーもそのようにして墓に入った。
フレアはぐるっと回って壁の破片を見ながら話した。
「ふーん、ここはスカディの神殿なの?」
シャーリンは《ドッカニン》に聞いた。
「ドッカニンさん、魔法使いたちと彼らの連れてきた人々はどこへ行きましたか?」
《ドッカニン》は太陽が彫られている壁に向かって話した。
「ドッカニン、去るよ。みんな」
シャーリンは《ドッカニン》が指した壁に向かって走り、私たちはその後を追った。
<ジャリンジャリン>
壁に近づくと、ヘルの腕輪が鳴り始め、今まで聞いたことがないほど大きな音を立てて震え始めた。
《ドッカニン》がその音にびっくりしたのか、大きな目がさらに大きくなって垂れ下がっていた耳がぴんと立った。
そして鏨と金槌が空中から落ちて来た。
私は耳をふさいで話した。
「うぁー、なに?こんなところにも門があるの?」
ヘルが静かに呪文を唱えると、太陽に向かって手を伸ばした数多くの人々の姿が彫刻されている壁面から風が渦巻いて吹き始めた。
黒い煙が壁全体から立ち上り、胃がむかむかするほど腐った肉の匂いが広がった。
フレアは鼻をふさいで話した。
「うーー、わぁー、こんなにたくさんの門があるの?
どこに入ればいい?」
ヘルが話した。
「門ではない。 全部門の跡だ。
でもこんなに多いのは初めてだ」
シャーリンは見回しながら話した。
「そんな!私たちは行けないんですか?」
「ニョルズの息吹よ、天上の風を吹き込み、
塵を解き明かしなさい。 エアレナディール」
私の周りから緑色の風が渦巻いて黒い煙を押し出して、腐った肉の匂いと煙は消えていった。
フレアは大きく息をしながら話した。
「ふぅー、これからどうしよう?
まさか私たちが来るのを知って逃げたの?」
私は話した。
「そんなはずがないよ。
私が知っている彼らなら、私たちのような侵入者は簡単に対処できるはずだよ。
彼らには別の理由があってここから去ったと思う」
シャーリンが私を見て話した。
「彼らは誰ですか?ローレンは知ってるんですよね」
私はヘルを見ると、彼はうなずいていた。
「はぁー、ヘルの村で彼らとヘルが戦っていた。私もその戦いを目撃したの。
詳しいことは話せないけれど、彼らは本当に強かったよ」
《ドッカニン》はまばたきしながら鼻をクンクンと鳴らし、再び両手を前に伸ばして振った後、口に持っていき耳を撫でた。
その瞬間、地面に落ちていた鏨と金槌が空中に浮かび上がり、再び仕事を始めた。
私はみんなに話した。
「ふー、分からないよ。
他の門があるか、他の壁も探してみよう。
このままここで永遠にいるわけにはいかないし」
私たちはヘルについて、門の跡が多かった壁に沿って回り始めた。
正反対側の壁まで歩いた時、ヘルの腕輪が鳴り、多くの墓が描かれている壁の欠片から《黒い門》を発見した。
私たちはお互いを見つめ合い、ヘルが先に門に入った。
その後をシャーリンとフレアが《ドッカニン》に挨拶しながら続いて入った。
私は黒い門に入ろうとしたが、一瞬立ち止まり、《ドッカニン》を見て話した。
「ドッカニン、あなたも一緒に行く?」
《ドッカニン》は耳をなでながらくんくんと音を立て、しばらくためらって話した。
「ドッカニン、さようなら。みんな」
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