12. ドッカニン、探すよ。長い廊下の扉

朝早くから鳥の鳴き声じゃなくバグナの話で目を覚めた。

彼は私たちを廃家まで案内する為、先頭に立って歩きながら色んな話をした。

北の方であったことや昨日あった戦いの話、自分が夢で作った歌について語った。

フレアは幸せな表情でバグナの横で歩いた。


バグナは手で指しながら話しました。


「あーもう着きましたね。あそこに廃家があります。

やはり最近は誰も使っていないのか、草が生い茂っていますね」


つるが小屋の屋根まで覆っており、緑色で覆われた廃家は森と共に年を取って森の一部のように見えた。

その存在を知ってる人じゃないと探すのは難しそうだった。


(よくもこんな所にあるな。かなり古いかな)


もちろんエルフであるヘルにとっては森で人が作った粗末な小屋を探すのは

幼い子供たちが隠した宝物を探すように簡単なことだろう。

廃屋に近づくにつれて、かつて草が倒れてできた道も再び草が生い茂り、今ではその跡だけがかろうじて残っていることが分かった。


ヘルは前に進みながら話した。


「周辺と小屋の中には人がいない」


ヘルが先頭に立って小屋に向かって私たちは静かに彼の後を追った。


木が割れて隙間が見える扉を押すと悲鳴のような音を立てながらゆっくりと開かれた。疲れ果てた足を引きずってこの小屋を訪れた冒険家が無防備にこの扉を開けたとすれば、この音に驚いて逃げるのを想像した。


扉が開かれて中からカビの匂いと土の匂いが濃く漂ってきた。


倒れている椅子に壊れたテーブル、あちこちにクモの巣がいっぱいで、

以前に誰かが壊れたテーブルの一部を燃やしたのか、

硬い土の底のあちこちには黒い灰があった。


フレアはあたりを見回して話した。


「長い間、冒険家たちが使っていなかったみたいな。

ここには誰が住んでいたのだろうね?」


バグナは琵琶を取り出し、突然弾き語りを始めた。


「ずいぶん前に木こりが住んでいたという話がありましたね。

彼は森で薪を掘って天から降りてきた火に当たって死んだという

悲しい話があります。その後、この家には…」


バグナの話を聞きながらもう少し中に入るとヘルの腕輪が音を立てた。


<チリンチリン>


私たちを追いかけなくぼんやりとバグナの話を聞いていたフレアは驚いて尻もちをついてヘルを見ながら話した。


「うわぁー、びっくりした。ここに何かあるの?」


驚いたバグナが演奏を止めて話した。


「この美しい音は何でしょう?

昨日から皆さんのおかげで、たくさんの歌のひらめきが浮かんでいます。

ハハハ。これからはまた何が起こるか気になりますね」


ヘルは腕を伸ばして静かに呪文を唱えた。

ヘルが腕を伸ばした方向の壁から風が起こって黒い煙が立ち上った。

低い悲鳴のような音とともに煙が渦巻いて大きくなると目の前には【至極色の扉】が現れた。


扉からは黒い煙が早く出てきて再び扉に吸い込まれていて、

すべてを吸い込むような風の音と不気味で気味の悪い音がしていた。


バグナは帽子を脱いてゆっくりと扉に近づきながら話した。


「これは陰気だけど謎めいた魔法ですね」


ヘルは黒い扉に近づいて話した。


「門の形跡ではなく、門が開いているのを見るのは私も初めた」


私は気をつけて門の横に歩いて行き、門の側面を眺めた。

横から見た門は、たくさんの細い黒い糸が空中に浮かんで揺れているように見えた。

門に手を近づくと煙が私の手を覆い、吸い込もうとするようだった。


(冷たいな。これはどんな魔法なんだろう。

本当に見れば見るほど知りたいけど。分からないな。

ノーブルならわかるかな。シードホートにある本をもっと探してみたい)


ヘルは自分の装備を確認しながら剣を手に持って話した。


「門に入ったら、何が待っているのか誰も分からない。

準備ができていなければ、私一人でも行く」


私はその時やっと気がついてみんなを見ながら話した。


「そうだね。無理にみんな入らなくてもいいよ。

私とヘルが行ってくるから、フレアはバグナとシャーリンを連れて

ガングラードにーー、あー」


私の言葉が終わる前にシャーリンは急いで門に飛び込んだ。


黒い煙がシャーリンを覆い、私の前から消えた。


フレアは驚いて手を伸ばして話した。


「おぁー、ちょっと待って! 心の準備ができていないよ!」


ヘルが急いでシャーリンの後に門に入った。

フレアも怖い顔だったが、目を閉じて門に飛び込んだ。

まるでロープで皆の体が縛られているように次々ついていくのを見て、

魔法にかかったように私の体が勝手に黒い門に飛び込んだ。


冷たい黒い霧が私の体を覆い、意味不明な音が耳元に聞こえてきた瞬間、

私はできるのは息を止めて目を閉じることだけだった。


恐ろしい悲鳴とざわめきが背後から聞こえ、遠ざかっていった。


寒さで体をうずくめ、《死》というのはこういうものなのかと考えた。

その考えが意識の中で響き渡る中、体が徐々に固まっていくのを感じ、苦しみ始めた。大きな苦痛が全身に広がり、体が前に跳ね返り、冷たくて硬いものにぶつかり転がった。


重くなったまぶたを動かして目を開けると、

暖かい光が私を照らしていて、ぼんやりとしているが黒い影が私を取り囲んでいた。


「ローレン、大丈夫ですか」


芳しいパンの匂いのような声を聞いて、

私は悪夢から覚めたように叫んだ。


「シャーリン!大丈夫?」


周りを見回すと、シャーリンとフレアが心配そうに私を眺めていた。


フレアが話した。


「ローレン、あなたも同じだったと思うけど、本当にひどい経験だった。

あんな経験は二度としたくないね」


ヘルは暗いところから出てきて話した。


「どうやらここは、長い間使われていないどこかの部屋のようだ。

扉があるが、外から鍵がかかっている」


フレアは周囲を見回して、不安そうに話した。


「小屋からこんなところにつながっているなんて、ここはどこなんだろう?

この部屋は何もないね。そして黒い門もないよ。私たちはどうやって帰るの?」


私は長い間、門を通り抜けたような気分だった。

恐ろしい悪夢を見たかのように、まだ気持ちが落ち着かなかった。


優しく輝く首飾りを私の目の前に差し出しながら私を見つめるシャーリンが話した。


「闇は過ぎ去りました。もう大丈夫です」


その言葉に暗かった私の心が明るくなり、ズキズキとする体の痛みも消えていった。

私は起き上がりながら話した。


「ありがとう。シャーリン」


しばらくして、金属が動く音が向こうから聞こえ、暗闇の中で光が見えた。

光が地面から長く伸びて私たちの方まで届いた。


「あーー、開いたよ」


光が入ってくるところにはフレアが扉の取っ手を手に持ってぎこちない笑みを浮かべて話した。


「普通の扉の取っ手だから簡単に分離できちゃった。

少し触ってみたんだけどー、こうなった」


ヘルは話した。


「壊すことは考えなかったな」


「フレア、ここがどこかも分からないのに、こんな風にむやみに動くのはもっと危険になるかもしれないよ。先に考えよう!」


「ごめん」


ヘルが私を見ながら話した。


「この部屋にいても、これ以上できることはない。

むしろ危険でももっと多くの情報が必要だ。動こう」


シャーリンも話した。


「ローレン、そうしましょう。

ここのどこかにヒルダがいるかもしれないです」


私はためらいながら話した。


「ここがどこかは分からないけど、

黒い門から出入りする人たちと関連があるのは間違いない。

ヘル、あなたは相手したことがあるから分かると思うけど、

もしあの人たちが現れたら私たちで勝てると思う?」


シャーリンは強硬な口調で話しながら扉を開け部屋から出た。


「ローレン、心配しないでください。

彼らが現れたら、私は放っておかないですよ」


ヘルは私を通って行きながら話した。


「自分を信じろう。あなたは強い」


フレアは扉の取っ手を捨てながら話した。


「へえー、扉が本当に多いね。 ここはどこかな?」


私はフレアの後から部屋から出だ。

そこには、粗い石でできた壁にはたいまつが明るく燃えており、長い廊下に沿って左右にたくさんの扉が並んでいた。

私はフレアに静かにするよう合図をした。


(それにしてもここは本当にどこだ?)


私たちはヘルの後をついて廊下を歩き始めた。

いくつかの閉まっている扉を通るとヘルは私たちを止めた。

その前には少し開いている扉があった。

ヘルは慎重に扉に近づいて、部屋の中を確認してから私たちについてくるように手招きした。

ヘルについて入った部屋は狭かった。

木で作られてる寝台と側にはテーブルが置かれていた。

小さなテーブルには消えたろうそくが置かれていた。


フレアは部屋を見回して話した。


「ここ、人が使ってたのかな?

ふぃー、ちょっと寒くないー、この部屋。

それに、窓が一つもないよ。

私はこんな部屋は嫌だな。息苦しいのよ」


シャーリンは寝台の上に置かれてる服を触りながら話した。


「ここは一体何でしょね。まるで私が昔、居た神殿の部屋みたいですね。

もしかしてここのどこかにヒルダもいるんでしょうか」


私は扉の方を見ながら話した。


「分からないね。ここにある扉の向こうは全部こんな部屋なのかな。

どうする?全部見てみる?」


私たちは小さな部屋を出て、別れて他の扉も開けて中を確認することにした。


(ふむ。全く同じ形をしてる部屋か。私が居たシードホードの部屋はこれよりは大きかったけどな。

これじゃ本当に一人しか入らないだろうな。ここはなんだ?)


みんな同じテーブルに、同じ方向に並べられた同じ寝台が置かれていた。

違いがあるとすれば、寝台の上に古い服が畳まれて置かれているものと、そうでないものだった。


特別な情報を見つけられず、皆んなが廊下に出てきた時、

遠くから小さくて震える赤い光が少しずつ近づいていた。


私たちは静かに一番近い部屋に忍び込んだ。


(やっぱり、人がいるね。どうする)


来ているのが一人なら、この部屋を通りかかった時に私の魔法で何とかなると思った。


(複数人だったら…、どうしよう。

廊下に出て戦うのがいいんじゃないのかな、うんー、どうしようー。

ふむ、まずはヘルに任せるか)


ヘルは扉の横で剣を持って立っていた。

私はヘルを見て手招きしながら小さく言った。


「どうする?ここから出て戦う?」


ヘルは首を横に振りながら待つように手で合図した。


(やっぱり、一人かな)


フレアはどうすればいいのか分からず、

私の方とヘルを見てヘルの後ろに立っていた。

シャーリンは両手を合わせて私の前に立ていた。


(うー、シャーリンは私の後ろでもいいのに)


彼女の目は戦う覚悟ができているように見えた。


赤い灯は徐々に大きくなり、変な形をした影が長く伸びながら私たちが隠れている部屋まで入った。

そして柔らかい足音が聞こえて来て、草の匂いが広がってきた。


(今だ!ん?)


部屋に影が入って来てもっと長く伸びた瞬間、部屋の中に灯が広がった。

そして【未知の生命体】が私たちの真ん中に立っていた。

その生命体の全身は灰色の毛で覆われていた。

大きな耳は垂れていて、すべてを吸い込むかのような黒い宝石みたいな目をして、

少し開いた口には白く輝く歯が見えていた。

あごの下の毛はくねくねしていて、頭の上の毛は突き出ていた。


ヘルを眺めながら鼻を持ち上げ、匂いを嗅いだその生命体は口を開いた。


「ドッカニン、臭うよ。 忘れてしまった友達」


私は驚いて叫んだ。


「ドー、ドワーフ?! 話をするの?」


フレアは震えながら剣を前に向けて話した。


「違う!私が知っているドワーフはーー、あーー、あんな姿じゃないよ」


ヘルは剣を相手に突きつけながら、落ち着いて話した。


「敵意が感じられない。

汝は精霊か?もし汝が精霊ならば、その名を私に告げなさい。

私は【ニフの門】を守護するエルフ、ヘルであり、精霊の友としてこれを願う」


その生命体はヘルを眺めて、片手に持っていた灯りを地面に置きながら話した。


「ドッカニン、呼ふよ。魔法使い」


私はヘルに聞いた。


「魔法使う?魔法使いと言ったよね?

ドッカニン?名前かな?

精霊?精霊って本当にあるの?

ヨツンではないの?

ドッカニンって初めて聞いたよ。

本でも見た記憶はないな。

エルフたちは長生きしてるでしょう。 何か知らないの?」


ヘルはドッカニンと言う生命体を警戒しながら話した。


「エルフは多くのことを知らない。

知っているのは限られたことだけだ。

そして、ほとんどのエルフは我々の義務に関係のないことには興味もない」


<ダダダダッ>


《ドッカニン》は一瞬両手を伸ばして素早く振り、口に持って行って自分の耳を手でなでた。


その瞬間、金属が石にぶつかる音がして、突然、灯りがふわっと空中に浮かんでゆっくりと部屋の扉を出ていった。


私は驚いて言った。


「え?魔法?」


《ドッカニン》はもう私たちのことを気にしていないようで、灯りについてゆっくりと部屋を出た。


私は気を取り直して、皆に話した。


「ドッカニンについて行ってみよう。

さっき魔法使いだと話したよ。

ついて行ったら、どんな魔法使いと関係あるか分かるかも」


みんな慎重に扉を出て《ドッカニン》の後を追った。

《ドッカニン》はしばらく立ち止まって私たちを見たが、また振り向いてゆっくり歩きながら話した。


「ドッカニン、去るよ。みんな」


《ドッカニン》について辿り着いた所は、血なまぐさい広い広場だった。

石でできた床はあちこちが崩れていて、気をつけて歩かないと転びそうだった。


私は《ドッカニン》に聞いた。


「ここは何をする場所なの?」


《ドッカニン》は足を止めてゆっくり後ろを見て話した。


「ドッカニン、来るよ。後に、寝るよ。みんな」

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