11. 古の歌が響く時

ヘルの見てる所を追って暗い森の中を見ても

私の目にやっと見えるのは風に揺れる木の枝だけだった。

落ちる乾いた木の葉の鋭い音が悲鳴のように森の中で広がって聞こえてきた。


風で木から落ちる小さな実の音が耳元から聞こえるように

大きく聞こえて私の心臓の音も大きく聞こえてきた。


(ドラウグにはどんな魔法を使えばいいんだ?)


ドラウグは私がよく見た《ビルメイド》が執筆した《古代王国の伝説》という本にも登場する。あのヨツンは色んな姿で発見されたと書かれてる。しかし同じ特状は黒くて、人の姿をしてそのヨツンを見ると感じられるのは死を感じさせる寒さと恐怖だと書かれていた。ドラウグは自分の親しかった人の姿で現れたり、魔法使いみたいに魔法を使って来たと書かれていた。 墓場や多くの人々が死んだところで見られることが多い、もし出会ったら逃げた方が良いと書かれていた。


(私は何ができる?彼らは寝るのかな? 風で飛ばそうか? 火で燃やせるかな?)


一瞬、私の頭の中には一つの単語が浮かんだ。


<グレムニル>


魔法学校の授業として墓場で行われるの試験で聞いた言葉だ。


『【質問の地】に種を撒けば、帰ってくるのは【質問の実】だけだ。

私たちは正解を知ることができない。

君たちが頭の中で考えるだけでは何の答えにもならない。

光に向かって槍を投げるんだ。 体を動かせ。

その地から出て君たちができることをしなさい』


(いいよ。私が一番得意なことから全部やってみよう)


そう思うと辺りが見えてきた。


フレアはかなり緊張しているように見えたが、

少しずつ姿勢を直しながらヘルの側に立って

ヘルとは別の方向を見ながら自分の剣を向けていた。

シャーリンは私の後ろでまだ両手を合わせて目を閉じていた。


(はぁー)


シャーリンが戦いに役立つとは思ってない。

ただ吟遊詩人のようにもう少し湖畔の方に隠れていた方が良かったと思った。

シャーリンにドラウグたちが近づかないように私が守らなければならないと思いながら森の方を眺めた。


その瞬間、草むらが揺れる音がした。


突然の音に驚いた私はヘルがじっと見つめてる方向を見たが、

草むらが揺れる音が聞こえるだけで闇の中で

どんなものが動いているのか全く分からなかった。


だが、草むらが揺れる音はますます近づいていて、

その音は同時にあちこちから出ていた。


草むらが揺れる音が近づくほど荒々しく息をする音も大きくなり、

風に乗って腐った肉の匂いが振動した。

その瞬間、一番近い草むらが揺れると黒い何かがヘルに向かって飛び込んだ。


跳ね返った黒い何かをヘルは軽く回避しながら剣で攻撃した。

鈍い音とともにその何かが地面に転がった。


ヘルが自分に飛び込んだ【黒い何か】を倒したその瞬間、

また、木の間から【黒い何か】が飛び出して月明かりにその姿を現した。

月明かりにもその姿がよく分からないほど黒い毛を持った【巨大なオオカミ】だった。


(ドラウグじゃないの?)


背中がぞっとする感覚がした。

思いがけない状況に混乱してる頭の中を無視しながら集中しようとした。


(自分自身を信じよう)


私は【山より大きく、天に頭が届く巨人であっても倒す】という強い《意志》でイメージしながら呪文を叫んだ。


スバプニールジャイアントキール!」


その瞬間、私に向かって飛びかかってきた巨大なオオカミは

空中でそのまま首がだらんと垂れて体が丸まったまま、

私を通り過ぎて私の後ろにある木に大きな音を立てながら激しくぶつかって倒れた。

そのオオカミが眠ってるかも確認できず、他のオオカミの方を見た。


そこにはオオカミの攻撃で地面に倒れて顔とオオカミの巨大な歯の間を剣でかろうじて塞いでいるフレアがあった。


<ドーン>


ヘルは自分の剣を体に密着させて速いスピードで、フレアを押していたオオカミの脇腹に強くぶつけた。オオカミは陰惨な悲鳴をあげながら遠くに飛んで倒れた。


私は倒れているフレアに駆け寄って話した。


「フレア、大丈夫?」


フレアはぎこちなく笑いながら答えた。


「大丈夫!こう見えても体は丈夫なんだから!」


私はフレアを見回したが少し擦り傷があるだけで大きな怪我はないようだった。

シャーリンも私たちに走ってきて素早くフレアの傷に手を得て呪文を唱えた。


「はぁーー。シャーリン、ありがどう。助かるよ」


フレアの表情はもう少し柔らかくなってきた。


ヘルは刃についたオオカミの血を拭き取って森の奥を再び眺めた。

しばらくしたら荒い息遣いと草むらが動く音が消えて沈黙が流れた。


フレアは小さな声で言った。


「あのー。オオカミはみんな逃げたのかな?」


その瞬間、陰惨で聞きたくないオオカミの大きな遠吠えする声が聞こえてきた。

フレアは顔が白くなって震えならが剣を手に持って話した。


「ひぃーーえー、どれくらいいるのよ?

しかしなぜドラウグじゃなくてオオカミなの?」


私は横に倒れているオオカミを見ながら話した。


「これは普通のオオカミじゃないね。

《ファントムウルフ》と呼ばれるヨツンだよ」


漆黒の黒い毛に覆われた体は闇に隠れるのに適していて

足跡も残さないし、死の匂いだけを残すことから《ファントムウルフ》と呼ばれる。


「ふーん。冒険家たちを襲ったのもこの《ファントムウルフ》かな」


自分たちが経験したことを《誇張》して話すのはよくあることだ。

わざと誇張をしようとするのではなくても、

《記憶》の中からめちゃくちゃになってる《絵》を

組み合わせることで自分が実際経験した事と全く違う話になったりもする。

人の《記憶》はあまり信用できないものだ。


その存在に会って逃げたにもかかわらず

生きていることが【勇猛なこと】になれる。

自分たちが逃げたことを【正当化】する為に《ドラウグ》の話を持ち出すのは

彼らには納得できる良い考えだっただろう。


もし、彼らが『オオカミから逃げた』と話したなら

彼らの冒険家の名声は地に落ちるだろうな。

そして、この《ファントムウルフ》は人々にあまり知られてないヨツンだ。

その冒険家たちも知らなかったかもしれない。


いつの間にか《ファントムウルフ》の遠吠えする声が私たちの後ろからも聞こえてきた。

私は湖の方を見ながら話した。


「あぁー、どれくらいあるのかな? 私たちを取り巻くつもり?」


フレアは泣きそうな声で言った。


「どうしようーー」


ヘルは私たちを見て話した。


「後ろに回って行ったのはそんな多い数ではないと思う。

私が前から来るものを相手している間にあなたたちは【ガングラード】の方に向かえ。

私もすぐ追いかける」


私は両手を前に出して話した。


「いゃー、ヘル、私は逃げないよ。みんなを寝かせてやる」


両手を合わせたシャーリンが私たちの前に進みながら勇敢な声で話した。


「私も戦います」


その時、湖畔にいた吟遊詩人が身をかがめながら私たちの方に

走ってきて困ったような表情をして話した。


「うぅー、飲み込まれそうな恐怖を感じさせる恐ろしい音ですね。

は本当にーー、嫌いです。 ふぅーー」


吟遊詩人は琵琶を手で強く弾きながら演奏し始めた。


その音は森に響き渡り、《ファントムウルフ》たちの遠吠えする声をしばらく止めた。

しかし、まるで琵琶の音に対抗するように《ファントムウルフ》はさらに大きく遠吠え始めた。


吟遊詩人は湖畔をゆっくり歩きながら歌い始めた。

彼の声は話す時とは違ってとても太く、力強さが感じられた。


「山の根から女のヒゲが生えてきて、

黄金色に輝く絹のひもがほどける。

鳥のよだれが高い空から落ちてくるね。

猫の足音のように、かすかなささやきのように。


静かに、静かに

ゆっくり、ゆっくり


熊の筋で僕らの歌が響き渡り、

魚の息吹で深い水が揺れる。

風と共に私たちの賛歌が響き渡り、

ピンク色の花島で、オオカミ、お前は逃げないといけない。


静かに 静かに

ゆっくり、ゆっくり


息がついているとき、まだ走れるとき」


ある瞬間から《ファントムウルフ》たちの声が聞こえなくなった。

そして吟遊詩人の声も子守唄を歌う声みたいにだんだん小さくなって来た。

楽器の音も消えて森の中には冷たい風の音だけが聞こえてきた。


ヘルは慎重に剣を下げながら話した。


「ファントムウルフたちが我々から遠ざかっていく」


私はバグナに聞いた。


「吟遊詩人の歌が魔法のように人々に力を与える話は聞いたことがあるけど、

これは一体どんな魔法なの?」


バグナは手を振りながら話した。


「魔法だなんて。ハハハー

もちろん、魔法のようにオオカミはいなくなりましたが、

あなたが思っている魔法ではありません。

別の意味では魔法かもしれませんが。

巨大なオオカミの子孫たちはこの古い歌を怖がります。

私がこの歌を覚えていたことは皆さんと私にとって良いことになりましたね。

私は色んな戦いを見てきましたが、皆さんの戦いも素晴らしかったですよ。

特に、一気にオオカミの息の根を止めたあなたの魔法はとても印象的でした。

あ!みんな素晴らしかったです」


その話に驚いた私は、もしかしてと思い魔法で眠られた《ファントムウルフ》の方へ走って行った。

木の下には鋭い爪が出たまま前足を空の方を向かって固まってる《ファントムウルフ》が倒れていた。顔は変な角度に曲がっていて口が開いて【腐ったニオイ】がしたが、初めて嗅いだ匂いよりは弱くなっていた。


ヘルが来て話した。


「先、来てみたけどもう死んでいた」


死んでいる《ファントムウルフ》を後にしてフレアに行った。


フレアは気が緩んだのか座り込んでしまい、シャーリンは彼女のところに来て祈った。

フレアはしばらく目を閉じて深呼吸をした後に起きた。

ヘルがいつの間にか《ファントムウルフ》の死体を片方に集めて私たちのところに戻ってきた。


バグナは私たちを見て両手を広げて話した。


「あーー、そういえば、先はどこまで話しました?

北からここに来る森の道の途中にある古い木こりの廃家の話はしました?

冒険家たちがしばらく休憩するために立ち寄ることもあります。

しかし盗賊たちはそのような冒険家を狙ってます。

楽を求めると安を失うことでしょね。

若かったり、経験の浅い冒険家たちがするしくじりです。

むしろそういうところより、この湖畔の方が安全ですよね」


私は驚いて聞いた。


「木こりの廃家?そこはここからどのくらいかかるの?」


バグナは座り込んで話した。


「そうですね。

そこまでは私がご案内しましょう。

しかし、今はとても暗くなりました。

皆さんも今日の冒険で疲れていませんか?

もちろん、夢の中でもまた冒険に出なければならないので、

今日は本当に忙しい一日になりますね。

はぁーーー。早く寝ないといけません。

また新しい冒険が待っていますから」


そのようにマントで自分の体を覆ったバグナはやっと静かになって眠りについた。

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