10. 招かれざる客

鳥たちの優しい歌声が静かな森の朝を知らせて私たちは

昨夜の楽しかった痕跡を残して急いで道を出る準備をした。


フレアはまだ夢で迷っているのか、ぼんやりとした顔で

ヘルのそばを歩きながら、たまに何か思い出したようにヘルを見た。


穏やかな日差しが木の間から入り込んで闇が消えていった。


冷たく冷めた森の空気が少しずつ暖かくなってきた。

そして重かった足取りも軽くなっていた。


皆、何の言葉もなくヘルの後について黙々と歩いた。

静かな森には私たちの足音と鳥の声だけが聞こえてた。


果てしなく森が続くかと思ったが

ある瞬間、私の目の前に湖畔が現れていた。


朝の涼しい風が湖を通り過ぎて

湖の上に挟まれた細かい霧が水に浸った黒い木の柱の間を

ぐるぐる回りながら黒い光を帯びた水の上を覆っていた。


私は両腕を高く上げて振り、体をひねりながら話した。


「思ったより早く着いたなーー。 よーーし。

やるべきことは早く終わらせてしまおうー」


フレアは何日間の旅で《依頼》はすっかり忘れてしまったのか、

しばらく考えてる様子で私に聞いて来た。


「あー、私たち【どうして】ここに来たんだっけ?」


シャーリンはあたりを見回しながら答えた。


「魔法使いギルドで話した通り、

《ドラウグ》たちがいるなら《ドラウグ》たちを処理するのです」


私は両手を合わせてから口に当てて離しながら話した。


「そして、【怪しい場所】があったら探してみよう。

捕まった人がいるかもしれないからね」


シャーリンは私を見てうなずいた。

両手を広げると真っ白な羽をはためかせながら蝶が舞い上がった。


フレアは驚いて立ち止まり、すぐに目を輝かせながら

蝶が飛んでいくのを取り憑かれたように眺めていた。


私はフレアの目の前で手を振りながら話した。


「フレア、あの《魔法の蝶》について行ってくれる?

そして、蝶が止まるところに何かあるか確認してね」


フレアはやっと何をすべきかを悟ったかのように驚いて答えた。


「あ!そうだね!私に任して!」


「そうだね。

何が出るか分からないから気をつけてついて行って!」


フレアは嬉しそうに自分の剣を取り出し、

慎重にゆっくりと蝶の後を追って森に入った。


私とシャーリンは湖畔に置いた私たちの荷物を見ていて、

ヘルはフレアの反対方向の森に入った。


しばらくしたらフレアの顔が白くなって走ってきた。


「ローレン!ローレンが話したように蝶について行ったらーー

何か見つけたーーみたいんだけどー」


私とシャーリンはフレアについて森の中に入った。


そこには蝶が消えて残った【虹色の粉】がなびいていた。

そして、その辺りある草むらの間にはカバンがかかっていた。

カバンは破れて汚されてカバンから落とされたような物が散らばっていた。


フレアはおびえた顔をして話した。


「これらの痕跡は鋭いものによって破られたみたいんだけど…

周りには他の動物の足跡もないし、人々の足跡しかないよ。

本当に《ドラウグ》がいるのかな?」


「そうだね。

《ドラウグ》の姿は知られてるのも色々あるからね。

どんな姿をしているのか、私もよく分からないよ。


足跡だけでは判断できないね。

ふむー。

本当に《ドラウグ》があるかどうかは今夜、確認してみよう。

まずはこのカバンから出たものがどんな物なのか

誰のものなのか確認してみたいなーー」


散らばっている物を見ているうちに見慣れた物を見つけた私は驚いて話した。


「これは《魔法使いの依頼書》だよ!」


土で汚されて少し破れるが、魔法がこもった紙とインクで作られてるので文字は消えなかった。依頼が完了すると文字はある魔法道具を使ってギルドで消せる。


依頼を頼んだ魔法使いの名前と仕事を引き受けた冒険家の名前が

《魔法使いの依頼書》にはそのまま残っていた。

汚れた部分を手で拭き取って書かれている文字を読んだ。


「トニー」


私は驚いて話した。


「トニーおじいさんの依頼だよ!

何だ? 私が最後に見た時は【腐った匂いを一瞬で消してくれるもの】を作っていたんだけどな。それに関係あるものかな。ふむーそう見えないけどな。

なんだろ。これはー。今度は何を作ろうとしてるんだ?気になるなーー」


私は《ドラウグ》のことと依頼は一瞬忘れて【トニーおじいさんが何を作ってるのか】が気になってカバンと落ちてるものを確認しながら考えていた。

どれだけ時間が経ったのか、いつの間にかヘルが私たちのところに来て言った。


「この周辺には洞窟や隠れる場所はないみたいだ」


私はいくつかのものを自分のカバンに入れながら話した。


「よし。分かったよ。

ここでこの様にしたのが《ドラウグ》なのか、

暗くなるまで待って確認しようね」


私たちは荷を下ろした湖畔に戻って暗くないうちに軽く食事をすることにした。

昨日食べ残したパンを食べながら私は《ドラウグ》が現れたらどうすればいいかを

頭の中でずっと考えてぼんやりと湖を眺めた。


黒い色の水が徐々に銀色に輝きながら揺れ始めた。

そして冷たい風と共に寒さが押し寄せてきた。

ヘルは自分の剣を磨きながら湖と森を交互に見ていた。

フレアは自分の剣を見ながら何か考えているようだった。

シャーリンは目を閉じて両手を合わせて瞑想に耽っているように見えた。


いつの間にかすべてが闇の中に埋められて

銀色に輝く湖の上に見える黒い木は全ての光を吸い込んだのか

もっと黒く見えて不気味だった。


闇に慣れたるのか、ヘルはカバンと荷物があった森の方を眺めていた。

木と木の間に静かに立っているヘルはまるで木になってるように動きがなかった。

フレアはヘルの後ろに立ってヘルと同じ方向を見たり、私とシャーリンを見ていて不安を隠せなかった。


私たちはいつ現れるかも分からない存在を待ち続けていた。


私はギルドで買った【魔法道具】を取り出してみた。

しかし、銀属の丸い箱の真ん中にある薄い板は何の微動もしなかった。

私はまたカバンに入れた。


(ふんー。こんなもん、信じるものになるのかなーー)


魔法道具で有名な魔法使いは自分の模様や名前を道具に入れる。

買った時も見たが、これはどこにも模様や名前が書いてない。


(有名な魔法使いが作ったものなら信じるけどなーー

あの受付員、信頼できないしなー)


その時、ヘルが剣を持った手を前に向けながら

私たちに手を上げてこちらを見た。


(何?何も見えないけど。音もしないしー本当に来るの?)


フレアは剣を胸に当てて静かに何かをつぶやき始めた。

シャーリンはまだ私の後ろに座って目を閉じたまま両手を合わせていた。


<ガサガサ>


(うん?足音?)


そしてこんな暗い森の中で聴けるとは全く期待もしてなかった音が聞こえて来た。


私は突然の音に驚いて手を前に伸ばして叫んだ。


「誰だ!」


楽器の弦が出す暖かい音が冷たい風の音を突き抜けて近づいてきた。


木の間から人の影がこちらに歩いてきた。

月明かりに映って姿が見えて来た。

その人の片目は【つばの広い帽子】に隠れて見えなかったが違う黒色の片目はこちらを見ながら笑っていた。

派手な服を着て、片手に《琵琶》を持って演奏しながら近づいてくる人は

どう見ても緊張してる私たちを眺めながら歌うように話した。


「私は人々の感情、考え、記憶を収集しながら歌います。

暗い夜空に星が動いていますね。

風はありませんが、星が落ちますね。

あなたたちはどこへ行きますか?」


ヘルが剣を下げながら話した。


「吟遊詩人か?」


私は驚いて言った。


「こんな所に吟遊詩人だと?

どこから来たの? 一人なの?本当に人間?」


吟遊詩人は琵琶の演奏を止めて帽子を脱いで自分の胸に持って笑いながら挨拶した。


「私の名前は《バグナ》と申します。

色んな方向から風のように流れてー

新しい物語りを探しています。

こんな所で皆さんに会ったのは魔法のようなことですね。

そうですねーー。ハハハ。

皆さんに会った夜をお祝いしましょう!

私に北の強いお酒が少し残ってますが、どうですか?」


私はまだ警戒していたので自分を《バグナ》と紹介する《吟遊詩人》を見守っていた。 ヘルはいつの間に吟遊詩人は見ず、森の方を見ていた。

フレアは固まっていた顔が少しは明るくなって話した。


「はぁー。本当にーー。会えて嬉しいよ。

私はフレアだよ。私たちは魔法使いギルドから依頼を受けて、

ここで《ドラウグ》が出てくるのを待っているんだ。

ヘルが私たちに手で合図した時は本当にドラウグが現れたと思って怖かったよ」


私はびっくりしてフレアに言った。


「フレア!あの人が誰なのか分からないのに全部話しちゃうの?」


吟遊詩人は私の言葉を気にせず再び話を始めた。


「おーーー。ドラウグー。ですか?

暗闇の中で煙のように現れて

死を呼ぶ鋭い爪で人を攻撃する

あの《ドラウグ》ですか?

あーー!あーー!

そんな恐ろしい《ヨツン》と戦おうとする

皆さんはどれだけ勇猛なのでしょう!


これこそ私が望む話!


今日の夜、新しい歌が作れそうですね!

私は少し後ろで皆さんの活躍を自分の目で確かめます。

あー。楽想を思い浮かべてもいいでしょうか?


もちろん、私が邪魔になることはありませんよ。

こう見えても自分自身を守ることはできますからね。

フフフー。私の【足が速い】のは多くの人によく知られていますよ。


ガングラード、パルマグド、ボードゲディール、バルタム、フォルニ、ハグビルク、アンドゥーンの酒場で働く人々は私がどれほど素早く逃げるか、よくーー知ってますね。


私の顔を見るだけても捕めようとしますが、決して捕まったことがありませんね。


そういえばー、みなさんー。

こうみると尋常ではない方々ですね」


彼は急に琵琶を弾きながら話した。


「赤い髪、太陽のように輝く。


見る人を幸せにさせて

日が落ちるまで一緒に時を過ごしたくなる

暖かさを持った方。


あなたと一緒に旅をしたら

退屈な時間はないでしょうね。


喧嘩している人たちさえ、

あなたがそこにいれば

みんな、祝杯をあげるでしょう。


暗闇の中でも輝く黄金色の髪の毛は自由になびきますね。

バルダーの使者でありながら、

拘束されていない方ですね。


外は弱そうに見えますが、

心の奥底には消えない火があり、

強い戦士の心をお持ちですね。


優しく柔らかいが、

固い意志を持って、

自分が行こうとする道が

狭くて険しい、

誰も行きたくない道でも

あなたは

その道を黙々と歩くのですね」


彼はヘルを見て微笑んで話した。


「これはー。ハハー。

ずいぶん前に出会った旅の友を思い出させる方ですね。

風の精霊に加護をもらい、天の精霊に愛されるあなた。

あなたの話は後代にも永遠に歌われるでしょう」


彼は私を見て話した。


「そして幼く見えますが、

すでに多くのことを知ってる方。


あなたが受け継いた意志。


好奇心に駆られた足、

永遠に苦しむ魂。

多くの人が望むものを持っている者は逃げるのに忙しいですね」


フレアはいつの間にか吟遊詩人の前に座っていた。

フレアは目を輝かせながら口が開いて、まるで楽しいおとぎ話を聞く子供みたいだった。


私は周囲を警戒しながら話した。


「吟遊詩人なら流れる噂とか、よく知ってるよね?

ガングラードで人々が消えてる話とか、

この森でドラウグが出てくる話とか、何か聞いたことないの?」


吟遊詩人は演奏を止めてこちらにゆっくり来て話した。


「そうですねーー。

人が消える?そんな話は聞いたことはないですね。

ドラウグの話も、そうですね。

北からガングラードに行くために私はこの道を選択しましたがー。

もちろん、この道が危険なのはよく知ってますよ。

しかし、それも私には何の問題にもならないですね。

私は足の速さには自信がありますからね。ハハハ。

そして何日間でも走り続けることができなすよ。


あ、そういえば、私がここに来る時に面白い話を聞きましたよ。

ご存知かどうか分かりませんが、西の方のー」


ヘルはこちらに手を伸ばし静かに話した。


「何かがこっちに来る」

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