6. シードホートの魔法使いギルド

ヘルは手を下ろして言った。


「黒い門の跡だ」


私は闇の森で見た門の跡を思い出しながら答えた。


「うん、確かにそうだね。

門だね」


黒い煙は腐った肉のにおいがしながら段々消えていた。

シャーリンの後ろに隠れていた子供たちは鼻をふさいでゆっくり壁の近くに行った。

子供たちは煙が出たところに行って壁を触ってみたり、

ヘルの真似をしながら腕を上げて大声で叫びながら笑って騒いだ。


シャーリンは私に向かって話した。


「これは一体どんな魔法ですか?

門の跡?

何か分かることはありますか?

ヒルダはどこに連れて行かれたんですか?」


私は鼻をふさいでシャーリンに話した。


「これがどんな魔法で、この門を通ってどこに行くのか分からないの。

まあー、確かなことはこの魔法の扉を使ってた人たちは私が知ってるシードホートの魔法使いではなかったよ。黒い門を通って出た奴らは戦士みたいな人たちだったよ。

以前も彼らが門に逃げると門はなくなったの。


ヘルの腕輪はこの門の跡に反応して音を出すんだ。

だから門の跡を見つけることはできるが、門を開けることはできなかったんだ。

以前、私たちも試してみたが、門の跡では何もできなかったよ。

門の跡は再び現れるとこのひどい匂いを出しながら消えてしまうんだ」


あまり表情に変化がないシャーリンとは正反対のフレアが話した。


「よし。じゃあーー、これからどうするの?

どこから探せばいいのかな?」


私は急いで歩きながら話した。


「もっと情報が必要よ。 行くところがあるんだ」


私たちは来た道を通り抜けてオードの家の隣の道を出た。


フレアが人々を見て叫んだ。


「うわー、人多いな」


私たちがオードの家を出た時より人がより一層多くなって市場はもっと混雑だった。

私は先の店を思い出した。


(ふん、あそこは通りたくないな。違う道はないかな)


私はあたりを見回してから話した。


「この道は通りたくないな。別の道で行くよ」


フレアは私の後をついてきて言った。


「ローレンはガングラードに来てから長いの?

道をよく知っているみたいね。 俺はまだ道に迷うことが多いんだ」


私はフレアを見ながら話した。


「んー、今回でガングラードは2回目だよ。

普通一度行った道は頭の中にあるの。みんなそうじゃないの?」


フレアは首を横に振りながら話した。


「え?私は行ったことがある道も暗くなると新しい道みたいで迷うんだよね。

シャーリンは?

ガングラードの道は難しくないの?」


シャーリンは子供たちに手を振りながら話した。


「私はいつも神殿と決まった場所だけ通っているので、

そんな経験はないですね」


私は初めて見る狭い路地に入りながら話した。


「よしーこの道には何があるかな」


このように新しい道を行くと予想ができなかったことと会うこともある。

しかし、それはそれなりに楽しいんだ。

新しく、予想できないものはワクワクして面白い。

それらにどう向き合うかを考えることが好きだ。


どんな場面が出てくるかドキドキしながら少し急な道に入るとおいしい匂いが私の鼻を刺激した。


(これは当たりかな?)


フレアが話した。


「おー美味しい匂いがするよ」


色んな料理を出す食堂が狭い道路の両側に立ち並んでいた。

くつろいだ表情でお店の前にある小さなテーブルに座った人々は静かに談笑しながら食事を楽しんていた。


フレアはきょろきょろしながら話した。


「うわぁ、こんな道は来たこともない。美味しそうー」


その路地を曲がって進むとうるさく笑って騒いでいる子供たちが見えた。

その笑い声はオードの家で聞いた不気味な笑い声によく似ていた。


フレアは子供たちに向かって叫んだ。


「おい!お前たち何してるんだ!」


子供たちは座り込んでいる子供を囲んで足で踏んだり、拳で殴っていた。


私は自分の手を子供たちの頭に向けて親指と人差し指で円を作った。


その瞬間、子どもたちの頭上に水が降り注いでいった。

突然のことに驚いた子供はその場に座り込んで泣き、ある子供は怖くて悲鳴を上げて逃げた。


シャーリンは殴られていた子供に近付いて両手を合わせて話した。


「もう大丈夫です」


光が子供を包み込むと子供の傷が癒えて、表情も明るくなった。


フレアは驚いた顔で私を見て話した。


「ん?魔法は呪文を唱えなければならないんじゃないの?

ローレン、今のは何? 魔法だよね?」


私は少し驚いた顔でフレアに話した。


「半分は合ってるけど、半分は違うよ」


私の答えが理解できないような顔をしてるフレアに向かって

両腕を伸ばして円を作りながらフレアに話した。


「呪文は《言語》を使って自分が何がしたいか、

頭の中に持ってる絵を説明することなの。

そして言語は【話すこと】だけじゃないの。

魔法使いたちが呪文を使う理由はあの【闇の時代】に英雄たちがそうしたからさ。

《言葉》だけ使えという法律はどこにもないわげ」


もちろん、これも私の師匠ノーブルが私にしてくれた話だ。


彼は【闇の時代】以来使われてきた《呪文》に疑問を持った。


これまで誰もしなかった魔法と呪文の関係を研究して

《呪文》に代わって【手の動作】で魔法を使うことができると信じた。


そして、彼は実際にいくつかの魔法を呪文の代わりに手の動きに変えて使用できるようにした。


『魔法の威力が何とか』という同僚魔法使いたちもいたし、

手の動作だけで行う魔法自体を信じられず


『ノーブル奴、きっと私たちが聞けないように口を閉じて呪文を唱えている。

それとも後ろで誰かが代わりに呪文を唱える方法を使っただろう』

と疑う魔法使いもいた。


このように使うことができてすべて教えてくれるのになぜ疑うだけで

直接やってみようとしないのか私には理解できない。


フレアは私の話を考えているのか、ぼんやりとした顔でついてきた。


日が西に落ちて空が少しずつ赤く染まるのを見て私は話した。


「それよりこの道は間違った選択だったのかな。

彼らが使う《門の魔法》があればもっと早く行けるのに。

一体どんな魔法なんだろうな」


フレアは私に近付いて話した。


「ところでー、どこに行くの? ここは本当に初めて来てる」


オードの家の方から塔の先は見えたので方向は分かっていた。

しかし、時間が経っても塔の先に近づいている感じがしなく、ちょっと不安だった。


路地を抜け出すと少しは冷たい風が吹いてきて、私の心の不安感も風に洗い流されるようだった。


私は目に入ってきた黒いレンガと木でできた高い塔を手で指差しながら話した。


「ここだよ。ここに用事がある。魔法使いギルドだよ」


フレアは驚いて震える声で話した。


「うわぁ!魔法使いギルド?

シードホートの魔法使いギルドがガングラードにもあったんだ」


シャーリンは落ち着いた声でフレアに話した。


「アルダフォードにはないですが、他のところにはほとんどシードホートの魔法使いギルドがあると聞きましたね」


私は今は自信を持って歩きながら話した。


「そうだね。いろんなところにはあるけどアルダフォードとは仲が悪いからね」


シードホートが作られた切っ掛けはアルダフォードが魔法を研究できなくしたことにあった。不満を抱いた魔法使いたちはアルダフォードを離れてアルダフォードの西に移住した。そこに塔を作って魔法の研究を始めた。

以後、魔法使いたちは魔法研究に必要なものをもっと簡単に手に入れるためにあちこちに魔法使いギルドを建てた。


私たちは塔の前に着いたが私は入るのをしばらくためらっていた。

ためらう私を一度見たフレアは扉の取っ手をつかもうとした。


それを見た私は驚いて叫んだ。


「フレア!掴んだらダメだよ!」


黒い木の扉についていた尻尾を噛んでいるドラゴンの形をした

取っ手が赤く輝き始めて黄色い目を上げて熱い熱を全身から噴き出した。


フレアは驚いて急いで手を片付けた。


「うわぁ!!私の手が溶けそうになった」


私は扉に手を伸ばして話した。


「知恵と知識は違う。 頭は冷たく胸は熱く」


赤く輝いていたドラゴンの取っ手は徐々に青みを帯びて冷めてドラゴンが目を閉じて扉が開いた。私は開いた扉から先に入って話した。


「誰でも入られないように作られた魔法だよ。

シードホートの魔法使いやギルドから許可もらった人だけがこの呪文を知っている」


ギルドの中に入るとある声が中から聞こえてきた。


「いらっしゃいませ。

あなたは風が暖かかった季節にここを訪れた方ですね。

あなたのご希望のものは見つかりましたか?

それとも迷宮入りでもしましたか?」


私たちを迎えてくれたのはここガングラードギルドの受付員で、

初めて会った時と同じようにすべてを知っているかのように私を見つめながら微笑んでいた。


ギルドの中は暖かかったが古い物から出る匂いと土の匂いが混ざっていた。

受付員が立っているテーブルの後ろには高い陳列台に不明な物がぎっしり詰まっていてたまに変な音がした。

門のそばには小さな椅子がいくつか置かれていたがあそこにはあまり抱きたくないほど古くてほこりが積もっていた。


受付の人と目を合わせたくなかった私は周りを見回して話した。


「はいー、迷宮入りしたようです」


受付員は私の前に黄金の皿を差し出した。

私はその皿にカバンから《金貨》を出して置いた。


受付員は私の金貨を持って自分の左目の近くに持って見た後、

自分の後ろにある古い陳列台の引き出しに入れながら話した。


「ありがとうございます。

今回もあなたが望む情報を提供できればと思います。

もちろん情報というものが真実ではないかもしれない

ということはご存知ですよね?

事実は真実ではないですからね」


私はどこから話せばいいのか分からなかったがまず最近のことから話し始めた。


「魔法に才能のある子供を連れて行った人たちに関する情報が必要です。

彼らは私が闇の森で見た魔法の門を使っているようです。

そんな魔法の門は初めて見ました。

もしかしてシードホートの魔法使いの中で忘れられた魔法でー

うーうん!」


私の話を聞いていた受付員は振り向いて私に何かを投げた。

それは飛んできて私の口を塞いでしまった。


「ああ、 それ以上の話は他の方がいる所でするのは良くない考えのようですね。

ローレン」


私の口にくっついたのはムササビの形をした薄い紙だった。

金色に輝く紙を力を入れて剥がそうとしたが私の口だけ痛くて落ちなかった。


「うん、うん」


受付員は何事もなかったかのように再び受付を探しながら話した。


「そうですね。 こうしましょう。

人々が拉致されて消えるのは昨日今日のことではありません。

でも最近、ガングラードの北の森で《ドラウグ》たちが

よく出没するという話は聞いたことがありますね。

そして、その《ドラウグ》たちのせいでギルドが依頼を任せた冒険家たちに

問題が少し生じました。

何度も依頼した品物を持って来られずにいて少し困りました。

そのことをまず解決してほしいです」


シャーリンは怒って前に出て話した。


「私の世話になってる神殿の子供がいなくなりました。

何かが起こる前に子供を見つけたいです」


受付員は誰かがいたことに今になって気づいたように

首を回してシャーリンを見て気持ち悪い笑みを浮かべながら話した。


「あら、すみません。

バルダーの魔法使いですね。

子供がいなくなったのは残念ですが、その子が今も安全とは思いませんね。

それよりも大事なことがー」


シャーリンは受付員の言葉を遮り、両手でテーブルをたたいて話した。


「バルダーの使者です!」


私は急いで手を上げて振った。

その瞬間、私の口を塞いでいた紙が力なく口から落ちた。


「はい、はい、分かりました。

その仕事を先にします。

シャーリン、《ドラウグ》たちは死の匂いが

するところに現れると知られたヨツンたちだよ。

もしかしたら人が消えたことと関連があるかもしれない。

その《ドラウグ》たちが現れる場所は正確にどこですか?」


受付員は私を見つめて手に持った何かを小さな布で拭きながら話した。


「いい考えですね。 ローレン。

北の森の奥深くにある《月光の湖》と呼ばれる場所です。

北からガングラードに来る有能な冒険家にとって

良い憩いの場として知られています」


受付員は布切れで拭いていた金属の箱を私に差し出しながら話した。


「何もなしに行くのはよくないですね。

闇の力に反応する魔法道具です。

《ドラウグ》たちが現れると筒の中の小さな金属板が揺れるでしょう。

あ、もちろん無料ではありません」

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