3. バニールの破片

冷たい空気が充満していたオードの家から抜け出すと、

明るくて暖かい日差しが私たちを迎えた。


真実を話しても信じられない人と対話するのは、

まるで壁に向かって独り言してるようだった。

彼らは真実から背を向け、自分たちが信じたいものだけを見ていた。


「ふん、ちょっと休んで静かにいたかったのにまた変なことに巻き込まれたな…

いや!それよりどうやって私の帽子を見て偽物だと言うの?

本当に見る目がないよね。

目の前で魔法も見せたし、魔法使いの帽子も見せても

私が魔法使いだということを信じないなんて」


私はカバンの中から小さな金属の箱を取り出した。

慣れているように金属の桶の蓋を開けて茶色の玉を

片手に取り除いて口に入れ、ヘルに手を差し伸べながら話した。


「ヘル、あなたも食べる?」


ヘルは私を横目でちらりと見た後、再び前を見ながら話した。


「そんな甘いものは食べたくない」


ヘルの返事が終わる前、すでにヘルにあげようとした飴を口に入れながら話した。


「じゃあ、全部私が食べるねーー」


以前、ヘルは私があげた飴を口に入れてすぐに吐き出した。

その後はこのようにあげると言っても断った。

甘い香りが口の中に広がり、暗く重苦しい気分も幸福に変えてくれる

この飴を食べない理由が私には分からない。


ヘルが断る度に私は二つの飴を一度に口に入れて

ゆっくりと溶かして食べる贅沢をして喜びの時間を過ごしてる。

甘い魔法で足取りはいっそう軽くなり、心も徐徐に平穏を取り戻した。


街を見回すと、多様な服装をした人々が急いで自分の道を進んでいた。

人ごみの通り道、両側には色んな店が立ち並んでいた。

商人たちは忙しく通り越してる人の関心を引くために大声を出したり、

物を持って目の前で振ったりした。


各店からは様々な香りが出てきた。

ずっと嗅ぎ続けると意識を奪われそうな香りが広がっていた。

その香りに引かれて通り過ぎる人が首を振り返って見ることもあった。

そして道を止め、まるで魔法にかかったように必要でもない物を見る人たちで道はもっとごった返した。

いろんな店舗から出た異なる香りが混ざり合って不快な匂いになった。


(くっー、この匂い、メアリー先生の部屋を思い出すな)


メアリー先生はシードホートの魔法学校で死を乗り越える為に

研究をしてる怖い印象の人だった。

エルフみたいな雰囲気を持って一人で年をとってないような人物だった。

彼女がこもって研究してる部屋の門は黒い染みに染まっており、

ひび割れた隙間からは嫌な音が門の後ろから聞こえてきた。


噂によると門の前を通りかかった人の生命力を吸うために

メアリー先生が門に魔法をかけたという。それで若さを保ってるとか。


(まあ、私はそんな話は信じないけどな…)


恐怖でおびえた人がその門の前を通ると黒い手が門から

伸び出てその人の生命の一部を引っ張って門の後ろに帰るという。

学生たちは暗い夜にこっそり寄宿舎を出てその門の前で自分たちの勇気を試そうとした。もちろん倒れて病室に運ばれた人もいる。


私は無事に通り過ぎたがまだその門を通る時に嗅いだ匂いは忘れられない。


首を振りして周りを見回しながら歩いた。


道端に出ているテーブルの上に大小の石を積んでおき、腕をテーブルの後ろに

かけて座っている商人は眠い目で通り過ぎる人々を見ていた。


彼はこちらを見てぶっきらぼうで面倒くさそうに低い声で話した。


「はぁー、バニールの破片ですー、

さあ、さあ、1バンシャードですよ。

遺跡から持ってきたばかりですーー」


石が積もっているところを見て私はあきれてふんと笑ってしまった。


(あんな偽物をー 1バンシャード?? はあぁ?)


1バンシャードは普通の人が一日中働いて得る苦労の代償だ。

そしてそれより稼げない人も世の中には沢山いる。


(ノーブルがそう言ってた)


ノーブルが聞かせてくれた《金かごを頭に背負って火の上を歩いた愚かな人の話》を思い出した。 もっと多くのものを欲しがってこれまでのすべての苦労が消える

行動をなぜするのか、私には分からなかった。


もしその中に本物の破片が混ざっているとして(あり得ないけどね)

それを魔法使いに持ってきて売れば数多くの日を楽して過ごせると思う。

しかし、それは輝く砂漠の砂の中で砂粒より小さい宝石を探すのと

同じくらい難しいことだ。 実際、遺跡でバニールの破片を探す仕事をする

専門採掘者でなければ、それほど簡単に見つけることもできず、

遺跡にはヨツンと盗賊が多いため、採掘者たちも冒険家たちと

一緒に破片を探しに行く。 そして見つけた破片は直ちに魔法使いたちに

持っていくため、このような道端で売ることができる物ではない。


もう少し歩くと、店舗の前に出てる長いテーブル上にはがらくたがごっちゃごっちゃになっていた。

子供たちが慎重に手を伸ばして触ろうとしていた。

険しい顔をした商人が外に出て手を振りながら子供たちを追い出しながら怒ったように大声で話した。


「くっー、遺跡から出てきた魔法の道具ですー。

どこでも買えないーー! うちの店だからこんな値段だよ。

この器にいっぱい詰めて、1バンシャード。

おいー!おい! 物に手を出すな!」


(みんな偽物ばかり売っているなーー)


商人が人に見せるようにいろんなものを器にいっぱい詰め込み、

物があふれて金属で作られた小さなものが落ちてしまった。

そして私の足の下に転がってきた。

私は足の下に転がってきた粗雑なものを拾って裏面を向けてみた。

商人は私が拾った物を私の手から取って怒って話した。


「おい!ちび!あっち行け!

お前みたいな子供が買える物じゃない!」


私は魔法使いの帽子を取り出して商人の顔の前に押し付けて話した。


「子供じゃないって!」


私が出して魔法使いの帽子をじっと見た商人は両目が大きくなり

充血してさらに声を高めて怒りを出して唾まで揚げながら話した。


「商売を邪魔しに来たのか!

魔法使いめ! あっちに行けー! あっち行け!」


近寄らずに両手を空中に振り回して私が理解できない言葉でつぶやき続けて私を追い出そうとした。 他の店の商人たちも私を見て鋭い目つきをしてお互いにぶつぶつ言いながら睨んだ。


私はこの不気味な道を早く通ろうと思って前だけを見てもっと早く歩いた。


少し静かな道になったと思って横にある店を見た。


【願いをかなえてくれるフレイヤの魔法石】と言って、多様な大きさに

加工された《赤い石》を売る立派な店の前には多くの人が並んでいた。


何がそんなにわくわくするのか幸せな表情で並んでいて、

その場で走り回りながら待つ子供は母親に『どれだけ待てばいい』と休む暇もなく聞いていた。店から出てくる人たちはさまざまな表情を見せてくれた。


慎重に両手に持った赤い石から目を離ず、明るい笑顔で帰る人。

周りを警戒しながら急いで遠くへ走っていく人。

片手に赤い石を持って周辺の人たちに大声で自慢する人。


彼らも自分たちが手にしたものが【本物の魔法石】ではないことは知っているだろう。


(ちょっと待って… 知らない人もいるかな、まさかー)


遺跡で発見されたバニールの破片の数は限られているため、

昔から魔法使いたちは破片を割って使う方法を研究してきた。


また、ある魔法使いはそのような小さな破片を加工して

魔法の力を一定水準に維持する研究もした。


そのような研究の結果、現在では我々の魔法使いは

純粋な《バニールの破片》を使うより、【加工された魔法石】を主に使う。

なので魔法使いが作った《魔法石》もそう簡単に普通の人が手に入れることはできない。


魔法石を手に入れる方法の一つはシードホートの魔法学校を卒業することだ。

卒業して魔法使いとして認められる時に魔法石を一つもらう。

しかし、シードホートの魔法学校は入るのも、卒業するのも難しい。


ここで売っている《赤い石》は形だけが美しい記念品、もしくは魔法の力が小さいながらも込められた《魔法道具》かもしれない。


フレイヤの魔法石を売ってる店の向かいには武器を売ってる店が見えた。

商人は『《オードの剣》が作られた店だ』と叫びながら手に剣を持っていた。

そこには粗雑に作られた剣と色んな武器が木で作られた筒に入っていた。

長い間、誰も取り出したこともないのかクモの巣が張られていて、剣の取っ手はほこりが積もっていた。


(オードは剣を使ったことがないのに、それも知らないのか?)


オードは《フレイヤの魔法石》と呼ばれる《バニールの破片》を持って戦った魔法使いだ。


それも知らない旅行者や経験不足の冒険家たちが武器屋の前で《オードの剣》と呼ばれる剣を憧れの目で見ていた。


私は顔をしかめて隣で歩いているヘルを見ながら話した。


「こんな所で騙されて買う人たちがかわいそうだね。

オードが見たら全部燃やしてると思うよ。

そう思わない?一体どうしてあんなものを買うの?」


私よりはるかに高い身長と脚の長さを持つヘルは非常に遅い足取りで

私の横からついて歩いてるが足を止めて後ろを振り返った。


ヘルと私が止まると、私たちに向かって走ってきた少女は

止まって息を整えた後、両手を合わせて微笑んで話した。


「平和を伝えます」


(あ、あの挨拶、本当にするんだね。

バルドの魔法使いはあの挨拶するらしい。

うわー、本で見たけど本物だ)


「私はシャーリンと申します。

先ほどはありがとうございました」


(ん?先ほど?あ!)


オードの家で見たバルダーの使者だった。


「私はシードホートの魔法使いローレン、こちらはヘル。

感謝は必要はないですよーー。

ちびと呼ばれるのが本当に嫌だからね。

それだけ。

さようならー」


私は振り向いて道を進もうとした。

その瞬間、急にシャーリンが私の手をぎゅっと握って引っ張った。


(あ?)


そして私の体はバランスを崩して前に倒れそうになったが、

なんとか倒れなく立っていた。

私は助けを求める為にヘルを見たが、ヘルはシャーリンの話に耳を傾けた。


「ちょっと待ってください!

私の世話になってるバルダーの神殿で育つ子供が消えました。


私は夕食の準備をしていました。

子供たちはいつもの路地で遊んでいたみたいです。

しかし、突然現れた大人たちがヒルダに『魔法使いの素質があるから一緒に行こう』と言ったらしいです。 ヒルダは怖くて一緒に遊んでいた子供たちと一緒に逃げようとしましたが、捕まえて無理やり連れて行ったそうです。


私は魔法使いについてはよく知りません。


しかし、魔法の素質がある人をそのように

無理やり連れて行くのはどういう場合ですか?

魔法使いですよね?なにか分かることはないですか?」


シャーリンが話すほど背中から頭までピリッとした感じで

体全身が固まっていた。


「ぁーあっー、わ、私の手が壊れそうー」


シャーリンは驚いて握ってた私の手を離しながら言った。


「あ、すみません。 思わず力が入りすぎました」


シャーリンは急いで両手を合わせて目を閉じて呪文を唱えた。

赤くあざができてぶる震えていた私の手が光に包まれた。


光のかけらが私の手の周りを飛び回り、くすぐるような感覚がした。

そして、あざと痛みが消えていき、体がだるくなった。


私は怒って話した。


「ふん!バルダーの魔法使いはこんな魔法はよく使うね」


シャーリンは真顔で話した。


「バルダーの使者です。

そして魔法ではありません。

バルダーの恩です」

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