【第五章:渡邊哲郎(1)】
九月に入って最初の日曜日、田畑太一郎(たばた・たいちろう)と真中しずえ(まなか・しずえ)は、B市にあるショッピングモールのフードコートで少し
「真中さん、
「なんだかあっという間でした。もっと長くこっちにいたいです。田畑さんが
「真中さん、まだ大学三年生でしょ?学生の間にこっちにくるチャンスなんて何回もあるよ。」
「そうだといいんですけど。」
「来年の夏にもう一回来てみたら?」
「来年は
「あーそうか。
「はい。
「それ、大事なポイントだよね。」
「はい。田畑さんの教授みたいな人がいいです。」
「そうだね。留学という面ではいいかも。でも、こういっちゃなんだけど、うちの教授って
「大学で教授になる人って、多かれ少なかれ、そういう面はありますよね。研究だけやってても
「はは。たしかにそうだね。」
と、そのとき「ごめんごめん、お待たせして」と、いつものバックパックを
この日、真中しずえが
田畑太一郎としても、あの場で見たことをもう一度、渡邉哲郎と話してみたいという気持ちがあった。そして、その話をするときに、あの場に一緒にいた真中しずえがいてくれるのは彼にとってはとても心強いことだった。真中しずえと田畑太一郎は、坂井かなえ(さかい・かなえ)も
「はじめまして、真中しずえです」と、真中しずえが席を立って渡邉哲郎に
「こちらこそ、はじめまして。先日は、うちのWebサイトでのインタビュー
「え、田畑さん、そんなこと言ったんですか?」と、ちょっと
「だって本当のことだよね。真中さん、小さいときから
「えー、田畑さんだって学生の間にH大学に
「ははは。僕のは単に運が良かっただけだよ。でも、真中さんは自分で留学のチャンスを勝ち取ったんだよね。」
「私も運が良かっただけですよ。あのインタビュー記事でも、そんな感じで
と、そこまで言ってから、真中しずえは「あっ」という顔をして、「あ、すみません。えっと、あの記事に
「いえいえ、そんな。私どものWebサイトに真中さんが登場してくれて、私も
と、頭を下げる渡邉哲郎を、真中しずえは「え、ちょっと、そんな・・・」と、何て言葉にしたらいいかわからない
「例の件って、高野さんのこと?」と、頭を持ち上げながら渡邉哲郎は返事をした。
「はい。高野さんはまだ
「そうか・・・。」
一気に場の空気が重くなる。
「あの・・・渡邉さんはどの
「えっと、高野さんがいなくなったことぐらいかな。でも、君たちがT大学の古い方の
「はい。で、そのときの
「おそらくはもう
「はい・・・。」
「あ、真中さんは倒れていた高野さんの表情を
「いえ、大丈夫です。で、高野さんがどういう方だったかはご
「うん、それなんだけどね・・・」
と、そこまで言って、渡邉哲郎は田畑太一郎の方をチラッと見た。渡邉哲郎としても、自分がどこまで真中しずえに言うべきかを
「とりあえず、この三人で知っていることを共有してみるというのはいかがでしょうか。渡邉さんと真中さんは今日が
「そう言ってもらえて
「あ、はい。もちろんです。お願いします。」
「うん、じゃあ、さっきの真中さんの質問だけどね」と言って、持ってきた
「高野さんのこと、ちょっと調べたんだよね、田畑君にそうお願いもされていたし。」
「あ、そうなんですか?それは知りませんでした。」
「でも、大したことはわからなかったんだ。彼女の
それを聞いた真中しずえは、チラッと田畑太一郎の方を見た。
「高野さんは
「うん、そうだったみたいだね。」と、渡邉哲郎は答える。
「
「えっと・・・」と、渡邉哲郎は
「あれ?
「それはいつだったんですか?」と、田畑太一郎が聞くと、「どうやら高野恵美子が
その回答を聞いて、田畑太一郎と真中しずえはお互いの顔を見た。渡邉哲郎からは、二人が、高野恵美子の
しかし実際は、田畑太一郎と真中しずえの二人は、坂井かなえの言っていたことが正しかったんだ、ということをお
「でも、どうやって
「えっと、それは
やはり、この人は自分たちとは違うんだ、ということを田畑太一郎は
「とすると、高野さんについては、
「いやね、彼女は
「母親の事故と婚約者の事故は何か関係があったりしますか?」と、真中しずえが聞く。
「うーん、それは良い質問なんだよ。僕もね、その二つの事故の
「それは、両者の交通事故に何らかの関係があるかもしれない、と渡邉さんが思ってるってことですか?」と、今度は田畑太一郎が質問をした。
「いや、そういうわけではないんだ。だけどね、母親の事故の犯人はその場で
「え・・・」と、田畑太一郎も真中しずえも同時にそう声を出して、お互いがお互いの顔を見た。二人の
「何か
「それってどういう意味?」
「え?あ、すみません。なんか意味のないことを口走ってしまって。」
「いや、意味がないことはないよ。実はね、僕も同じような
「高野さんの婚約者は何か理由があって殺されて、それと同じ理由で今回は高野さん自身が殺された、ということですか?」
「そういうことになるね。ま、可能性はそんなには高くないと思うけどね。
「
「高野さんのお母様を
「それも
「そうですよね。すみません、
渡部哲郎はそれを見て少し
「高野さんは何か
「
「いえ、なんていうか、高野さんは
「いや、
「ということは、渡邉さんもその
「
「
渡邉哲郎は、目の前の
「あんまり
「特におかしな点は
「そうだね。
田畑太一郎も真中しずえも
***
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