【第五章:渡邊哲郎(2)】

フードコートでは、田畑太一郎と真中しずえの二人はランチを買っており、渡邉哲郎が合流ごうりゅうするまでは、二人でそれを食べながら話をしていた。


田畑太一郎は、どこにでもあるようなハンバーガーのチェーン店で、ハンバーガーとポテトフライのセットを注文ちゅうもんしていた。飲み物は普通の炭酸飲料だったが、使い捨てのプラスチックせいのコップのサイズは、日本ではまず見かけないくらい大きいものであった。


真中しずえは、タイ料理屋のお店でパッタイと甘辛あまからいためたチキンと野菜やさいいためのセットを注文していた。だが、彼女はペットボトルの水を持ってきていたので、飲み物は注文しなかった。渡邉哲郎は、この日も自分の持ってきた水筒すいとうの飲み物のみを口にしていた。


高野恵美子が失踪しっそうした件について、三人が一通ひととおり自分の持っている情報じょうほうや考えをべたころには、田畑太一郎と真中しずえが注文した食べ物はほぼ全てなくなっていた。


「さてと、そろそろ情報も出揃でそろった感じがするし、少しまとめようか」と渡邉哲郎が話を切り出した。田畑太一郎と真中しずえは、静かに渡邉哲郎の方を向いていた。


座談会ざだんかいが予定されていた土曜日、君達きみたち二人と坂井さんが、会場となるT大学の会議室に向かった。その会議室は西棟にあり、君達は東棟からの連絡通路れんらくつうろでそこに向かった。ここまでは合ってるよね?」と、渡邉哲郎が小さな手帳てちょうを開きながら、そう二人に聞いた。


「はい、そうです。細かいことを付け加えるなら、座談会は午後二時に開始する予定だったのですが、自分達じぶんたちはその十分くらい前に会議室に到着とうちゃくしました」と、田畑太一郎が答える。


「なるほど。ありがとう」と、言いながら、渡邉哲郎は手帳てちょうに何かメモを書いた。そして、「で、会議室に到着とうちゃくした君達きみたちは、そこの会議室に高野恵美子がいなかったので、いや、いなかったと思ったので、彼女を探しに彼女のラボに行った、と。高野さんを探しに行ったのは、坂井さん一人で、君達二人は会議室に残ったんだよね?」と続けた。


田畑太一郎と真中しずえは静かにうなずく。


「それで、坂井さんが高野さんをさがしに行っている間に、君達二人が高野さんが会議室の中にたおれていることに気づいた、と。それで合ってるかな?」

「最初に気づいたのは真中さんです。で、真中さんの様子がおかしかったので、真中さんの視線しせんの先を見たら自分も高野さんがたおれていることに気づきました。」

「なるほど、ありがとう。」


渡邉哲郎は手帳に何かを書き加え、そして手帳から目をはなさないまま言葉を続ける。


「その後は、坂井さんが会議室に戻ってきて、彼女もそのタイミングで高野さんが会議室の中で倒れていることに気がついた、と。」

「はい、私たちは、そこで初めて倒れている人が高野さんだと知ったんです。私も田畑さんも、高野さんとはお会いしたことがなかったので。」

「そうか。それは大事なポイントだね。で、君達は三人で守衛しゅえいを呼びに行ったんだっけ?」

「はい。最初はしずえさんが一人で呼びに行くと言ったんですが、えっと、こういうことを言うのは良くないんですが、ちょっとあの場に残っているのはこわかったんで・・・。」

「それが普通の感覚かんかくだと思うよ。で、確か守衛は一階にいたんだったよね。階段かいだんは使わずにエレベーターを使ったんだっけ?」


「そうです。あの日は自分たちは一度も階段は使いませんでした。あと、少しだけ付け加えるなら、三人で守衛さんを呼びに行ったとき、会議室のドアはめておいたんですけどかぎはかけませんでした」と、今度は田畑太一郎が答えた。


「ドアを閉めたのは田畑君だったっけ?」

「はい、そうです。ドアを閉めたあとに、ドアノブをまわしてかぎがかかっていなかったことを確認かくにんしました。」

「そうか。でも、守衛と一緒いっしょもどってきたときはドアには鍵がかかっていたんだよね?」

「そうです。」

「で、守衛が鍵を開けて会議室の中には入ったら、だれもいなかった、と。」


田畑太一郎と真中しずえはうなづく。


「守衛を呼びに行ってから会議室に戻ってくるまではどのくらいかかったんだっけ?」と、渡邉哲郎が聞くと、「十分はかからなかったと思います」と、真中しずえが答えた。


「下に降りて上に上がってで十分か。エレベーターを使ったんなら、もっとみじかい時間で往復おうふくできそうな気がするけど?」と渡邉哲郎が言ったが、すぐに「あ、そうか。たしか一階に行ったときは、連絡通路れんらくつうろを通って東棟ひがしとうに行ってから、そっちのエレベーターを使ったんだっけ。なら、そんなものか」と、自分の質問に自分で答えた。


そして、「ということは、犯人はんにんたおれていた高野さんを会議室の外に出してから会議室のドアに鍵をかけたんだよな。これを十分でやったということか・・・」と、ひとごとのようにそう言って、渡邉哲郎は左手でっていた水筒すいとうに口をつけて、右手にある手帳てちょうながめながら考え込んだ。田畑太一郎と真中しずえも、自分の飲み物を一口ひとくちんだ。


三十秒ほどの沈黙ちんもくのあと、「で、それって可能だと思う?」と、渡邉哲郎が口を開いた。


実行可能じっこうかのう不可能ふかのうかとわれたら、不可能ではない、という回答かいとうになるように思います」と、田畑太一郎は答える。


「それは田畑君だったら不可能ではないということ?」

「え?」

「ああ、ごめんごめん。ちょっと質問しつもん曖昧あいまいだったね。田畑君のような体格たいかくの男の人だったら可能かもしれないってことなのかなって聞きたかったんだ。」

「あ、なるほど、そういう意味ですね。えっと、たおれていた高野さんのことをじっくりと見たわけではないのですが、高野さんはどちらかと言えば小柄こがらな感じでした。だから、大人の男性なら動かすのはそんなにむずしくはないように思います。」


小柄こがらというと、真中さんよりも少し小さい感じ?」と、真中しずえの方を見ながら渡邉哲郎は聞く。


そう聞かれた真中しずえは、たおれていた高野恵美子の様子を思い出したのか、少しつらそうな表情ひょうじょうをした。その表情の変化が何を意味しているのかを渡邉哲郎は気づいたようで、「あ、ごめんね。いやなことを思い出せてしまったかもしれないね。無理に答えなくてもいいよ」と、いつも以上におだやかな口調くちょうで言った。


「いえ、大丈夫です。すみません。お気遣きづかいいただいて。えっと、高野さんの身長ですが、手足もだらんとしていて、まっすぐな姿勢で倒れていたわけではないので、はっきりとはわからないのですが、私より大きいということはないかなと思います。私、身長が160 cmちょっとなので、高野さんは160 cmはないかなと思います。」

「そうか。まあ、こんなこと聞くのもなんだけど、彼女の体型たいけいはどんな感じ?極端きょくたんふとってたりとかしてた?」

「いえ、普通っぽい感じでした。ぎというわけでもなかったですが。」

「なるほど。では、大人の男性なら、一人でも移動いどう不可能ふかのうではないね。十分もあれば、会議室から別のところに運ぶのは十分に可能か。」


「あの・・・犯人はんにん単独犯たんどくはんと決まったわけでもないんですよね?」と、田畑太一郎が二人の会話かいわってはいり、思いついた疑問ぎもんを述べた。


「僕もそこは疑問ぎもんに思った。状況じょうきょうから見て、一人で全てをやったとは思えないんだけど・・・」と、渡邉哲郎は前置まえおきをして、田畑太一郎と真中しずえの方を交互こうごに見ながら、「会議室から高野さんがいなくなったとき、会議室のゆかに人をきずったあととかあった?」と聞いた。


田畑太一郎と真中しずえはお互いの顔を見る。


一瞬いっしゅん沈黙ちんもくのあと、田畑太一郎は「真中さん、何か気づいた?ごめん、俺はあんまりおぼえていないかも」と言った。「私も・・・」と、真中しずえが続く。


「守衛と会議室に行ったときも、そこから一階にもどったときも、誰とも会わなかったんだよね?」


「はい。そうだったように思います。田畑さんはどうですか?あのとき、何か気づきました?」と、真中しずえが聞くと、田畑太一郎は首を横にった。


その場にふたた沈黙ちんもくおとずれる。田畑太一郎と真中しずえの料理はどちらもなくなっており、なんとなく二人は自分の飲み物を口にした。渡邉哲郎は自分のバックパックの中に手を入れて何かをさがしていた。


「女性でも高野さんを移動するのは可能だっただろうか?」と、バックパックから小さな布製ぬのせい巾着袋きんちゃくぶくろを取り出しながら、渡邉哲郎は聞いてきた。


「私一人だとちょっときびしいかもしれません。引きずれば、なんとかなるかもしれませんが・・・。」


「そうか・・・。でも、会議室に何か引きずったあとが残っていたかはわからないんだよね?」

「はい、あまり覚えていません。すみません。」


「自分もそこまで注意して見てませんでした。すみません。」と、田畑太一郎も答える。


「いや、そんな特殊とくしゅ状況下じょうきょうかだったら、細かいところなんか普通は見てないよ」と言いながら、渡邉哲郎は巾着袋きんちゃくぶくろの中から大福だいふくをいくつか取り出し、田畑太一郎と真中しずえの前に一つずついた。


え?という顔をした二人に向かって、「知り合いが日本から遊びにきてね、お土産みやげをくれたんだ。おすそけ。美味おいしいよ」と言って、渡邉哲郎は自分の分の大福だいふくつつがみをあけて食べ始めた。


田畑太一郎と真中しずえは突然とつぜんのことに少し戸惑とまどいながらも、渡邉哲郎にお礼を言ってから、彼と同じようにつつがみをあけて大福を食べた。


「あ、美味しい」と、真中しずえは一口食べてからそう言った。その口調くちょうからは、社交辞令しゃこうじれいではなく、その大福を実際じっさいに美味しいと感じたのだとうことが読み取れた。「本当に美味しいですね」と、田畑太一郎も続く。


「二人のお口に合ったようで安心したよ。この銘柄めいがらの大福を僕は好きでね、日本に行ったときは必ず食べることにしてるんだ」と、もぐもぐと大福を咀嚼そしゃくしながら渡邉哲郎は答えた。


そして、「ところで、先ほどの話に戻るんだけど、倒れていた高野さん、あえて高野さんの遺体いたいと言ってしまおうか、彼女の遺体を運ぶのに女性ではきびしいということだったけど、何か道具どうぐを使えば可能になるかな?」と、聞いた。


遺体いたという言葉に、真中しずえは少し緊張きんちょうした面持おももちになったが、あえて平静へいせいよそおった感じで、「台車だいしゃとかを使えば女性でも問題ないように思います」と答えた。


台車だいしゃか・・・」と言って、水筒すいとうの飲み物を少し口にしながら渡邉哲郎は何かを考え始めた。田畑太一郎と真中しずえは、渡邉哲郎の思考しこう邪魔じゃましないようにだまって待っていた。


十五秒ほどの沈黙ちんもくのあと、「研究棟けんきゅうとうなら、台車はそんなにめずらしい道具ではないよね?」と、渡邉哲郎は二人の顔を同時に見ながら聞いた。


「そうですね。自分が留学りゅうがくしている研究室にも、古いものですが何台かあります。」

「私のところにもありますね。たしか、坂井さんの研究室にもあったし、東棟ひがしとうから西棟にしとうにつながる連絡通路れんらくつうろにも台車がいてありました。」


そう真中しずえが言ったので、田畑太一郎は真中しずえに、「連絡通路に台車なんかあったっけ?」と聞いた。


「あ、はい。なんか、あの連絡通路れんらくつうろは少しかたむいている気がしたので、こんなところに台車があったら勝手かってに動いたりしないかなとちょっと不安ふあんに思ったのでおぼえてたんです。」

「そっか、俺は気づかなかった。真中さん記憶力きおくりょくというか観察力かんさつりょくがすごいね。」

「え?いえ、たまたまです。」


「台車とかがそこら辺に普通に置いてあるということなら、単独犯たんどくはんでも高野さんの移動は男女関係なく可能かもしれないね」と、渡邉哲郎が二人の会話を少しさえぎるような感じで言った。


単独犯たんどくはんか・・・やっぱり高野さんは何か事件じけんまれたのかもしれない、と田畑太一郎はそう考えて、先日の坂井かなえから聞いたIDカードのことを思い出していた。高野さんを殺害さつがいした犯人が彼女のIDカードをぬすみだし、それを使って建物たてものの中を移動して、偽装工作ぎそうこうさくこころみていたとしたら・・・?


そのことを口にすべきかどうか田畑太一郎が思案しあんしていると、真中しずえが口を開いた。


「あの、高野さんがあの日いなくなったあとも、彼女のIDリーダーの記録きろくでは、何回か高野さんが西棟にしとうに出入りしていることが確認されているようなんです。」


「え、そうなの?」と、渡邉哲郎はおどろいて少し大きな声でそう言った。田畑太一郎も、まさか真中しずえの口からそのことが出るとは思っていなかったのか、驚いた表情で真中しずえの顔を見た。


真中しずえは、二人がそんなにおどろくとは予想よそうしていなかったらしく、その反応はんのう戸惑とまどったようで、「えっと、実は昨日、かなえさんと食事をしたんですけど、あ、私の送別会的そうべつかいてきな感じだったんですけど、って今はそんなのどうでもいいですよね。あの、そのときに、かなえさんに高野さんのIDリーダーの記録きろくについて少し教えてもらったんです」と、少しドギマギしながら返事へんじをした。


「高野さんが実は生きている?いや、高野さんはおそらくくなっているはず。ということは、誰かが高野さんのIDカードを使って建物内たてものないを移動していたということか」と、渡邉哲郎はひとごととも取れるような口調で言葉をはっした。


「はい。渡邉さんが今おっしゃった内容ないようたようなことを、しずえさんと話したときに私たちも話していました。」


偽装工作ぎそうこうさくなのかな?」と、田畑太一郎が会話に加わると、「何のために?」と、渡邉哲郎はすぐに質問を投げかける。


田畑太一郎は「え?」と言ってから少し考えて、ハッと何かに気づいたような表情をした。そして、「犯人が、高野さんが持っている何かを探しに来た、ということは考えられないでしょうか」と言った。


「うーん、どうかな。仮説かせつとしては面白いかもしれないけど」と、渡邉哲郎はそのあんにはあまり乗り気ではないような感じで答えた。


しかし、真中しずえは「でも、それが正しかったら、高野さんは婚約者こんやくしゃから何かをあずかっていて、犯人はそれをうばうために高野さんを殺害さつがいしたとも考えられるんですよね」と、渡邉哲郎とは違って、田畑太一郎のあん興味きょうみを持ったようだった。


「はじめに高野さんの婚約者こんやくしゃねらわれたのも、その『』が原因だったのかもしれない。」

「じゃあ、高野さんは、婚約者からその『』を預かっていたのかもしれないですね。」

「で、今になって犯人が、いや犯人たちが高野さんがその『』を持っていることをめた?」


「ま、ちょっとこうか二人とも」と、渡邉哲郎は手のひらを二人に向けながら、興奮こうふんする田畑太一郎と真中しずえの会話をさえぎった。


「でも・・・」と田畑太一郎が何かを言いかけようとしたとき、真中しずえが「もしかして、かなえさんも危ない?」とボソッと言った。


「え、どういう意味?」と田畑太一郎が素早すばや反応はんのうする。渡邉哲郎は、言葉こそ発しなかったものの、一瞬いっしゅんだけきびしい目つきになり真中しずえの方を見た。


しかし、真中しずえは、渡邉哲郎の反応には気づかなかったようで、「昨日の食事の最後の方はかなえさんはかなりっていたんだけど、そのときにふと、『あー、あのときにもらった高野さんからのメモは何だったんだろうなー。意味がよくわからないから、いつか高野さんに聞こうと思ってたのに』って言ったんです。それって、もしかして高野さんが婚約者からもらった情報だったりするんじゃないでしょうか」と、田畑太一郎の質問に答えた。


「ガーベラ・・・」と、田畑太一郎がつぶやいた。


「え?」

「真中さん、ガーベラって知ってる?」

「お花のですか?」

「いや、花のガーベラではないんだ。」

「お花じゃないガーベラはちょっとわからないです。それって何ですか?」

「うん、ちょっと突拍子とっぴょうしもないことかもしれないんだけど、ネットで『ガーベラ』という名前のなぞ研究機関けんきゅうきかんのことがたまに話題になるんだよね。でね、その集団しゅうだんは社会のルールとかを無視むしした行動をすることもあるらしいんだ。」

「はあ・・・。そのお話は初めて聞きました。でも、にわかにはしんがたいような気もするんですけど、それって本当にあるグループなんですか?」

「いや、わからない。俺も九割きゅうわりがたはネット特有とくゆうの作り話だと思うんだけど、完全にうそだとも思えないんだよね。」

「でも、それと今回の高野さんの件は何か関係があったりするんでしょうか?」

「高野さんが狙われた理由の『』が、ガーベラがねらっている情報じょうほうだったりしたら、どうだろうか。」


真中しずえは、あまりの突拍子とっぴょうしもない話題わだいに少し面食めんくらったようで、何て答えればいいかを考えているようだった。渡邉哲郎もったままだった。


「渡邉さんは『ガーベラ』のことをご存知ぞんじですよね?」と、田畑太一郎は少し強い口調くちょうで渡邉哲郎に聞いた。


「え?僕はその『ガーベラ』とかいうのは知らないけど、何で僕が知ってると思ったの?」と、話を突然とつぜんられたので、少し驚いた様子で渡邉哲郎は答えた。


「いえ、渡邉さんは色々なことをご存知なので・・・」と田畑太一郎が話している途中で『ピーン』と電子音でんしおんった。


「あ、すみません、お話中に。かなえさんからメッセージが来たみたいなので、ちょっと失礼します」と、真中しずえがもうわけなさそうに言って、自分の携帯電話けいたいでんわ画面がめんを見た。


そして、携帯電話から目を離して、二人の方を向いてから「かなえさんが近くにいるようなので、ちょっとむかえに行ってきていいですか?今日のこと、最初に彼女をさそったときは、『今日は約束があるから参加できない』ってことだったんですけど、昨日会ったときに、もしかしたら用事ようじが早く終わるかもしれないから、そのときはメッセージを送るねって言われてたんです」と説明をした。


「かなえさんが来てくれるんだね」と、さっきまではかた表情ひょうじょうだった田畑太一郎は少しはずんだ声でそう答えた。渡邉哲郎も「坂井さんがこちらに来るんだね。せっかくだから挨拶あいさつさせてもらおうかな」と言い、少しうれしそうな表情になった。


真中しずえは携帯電話けいたいでんわを少し操作そうさしてから、「ちょっとむかえに行ってきます」と言って、小走こばしりで田畑太一郎と渡邉哲郎のもとっていった。残された二人の間には、少し重苦おもくるしい雰囲気ふんいきただよっていた。


***


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