【第四章:山川聖香(3)】
「あ、太一郎君こんばんわ。急な話なのに来てくれてありがとう。」
「いえ、とんでもないです。お
「え?まだ六時半前だよ。全然遅くないよ。」
そういって坂井かなえは笑い、続けて隣にいた女性を
「太一郎君、こちら山川さんです。」
「あ、はじめまして。田畑太一郎と言います」と、田畑太一郎が
田畑太一郎は、これまでに、このようなタイプの大人の女性と
席につくと、ウェイトレスがすぐに水とメニューを持ってきた。「お飲み物はいかがですか?」の質問に、田畑太一郎はいつもように「水だけでいいです」と答えようとしたが、山川聖香(やまかわ・せいか)が「田畑さんは何か好みのワインはありますか?」と、アルコール
「え?」と、田畑太一郎は思わず答えてしまった。この質問は田畑太一郎にとっては全く予想していないものだったからだ。
田畑太一郎が
「あ、私これ飲みたいかも」と、山川聖香から受け取ったメニューに軽く目を通した坂井かなえが、あるワインのところを指差しながら言った。
「それいいですね。ボトルで
田畑太一郎は、こういった少しオシャレな
その後も、
だが、そんな田畑太一郎とは
「あのね、やっぱり高野さんとは
坂井かなえが、自分の指を一本ずつ
「夏休みだから、日本に帰っているとか
「うーん、夏休みが始まる前に少し話をしたんだけど、『今年の夏はずっと実験かな』って言ってたんだよね。あの座談会のときにメールしたときも、どこかに出かけるとかは言ってなかったし。」
「やっぱり、何か
そう言ってから、田畑太一郎は「しまった。また
「やっぱり太一郎君もそう思う?土曜日に、あそこで見たのは高野さんだよね。
「え、ええ。自分たち三人が
その
「え?あ、そうなんですか?」と、田畑太一郎は、坂井かなえと山川聖香の二人を
「ごめんなさいね。もう少しきちんと
「山川さんは
「
「えぇ。ここら辺ってアメリカだけど日本人が多いでしょ。ほら、私たちみたいな
「そういう人たちのことを
「ふふ、みんながみんなその
「
「あら、そうでしたの。
「え、そうなんですか?ちょっと
「それはまた今度にしましょう。今は別のお話をした方がいいと思いますので。」
「あ、そうでした。すみません。」
「でね、太一郎君」と、今度は田畑太一郎に向かって、坂井かなえは話しはじめた。
「山川さんのお母様の妹がアメリカ人と
「あ、そうなんですか。それはすごいですね。」
「でね、山川さんがその
「え、そんなことって出来るんですか?というか、しても大丈夫なんですか?」
田畑太一郎は
「もちろん本当はダメなんです。でも、坂井さんにすごくお願いされてしまったので、
坂井かなえの代わりに、山川聖香が変わらず上品な口調でそう答えた。
「え、あ、もちろんです。すみません。なんか
「お気になさらずに。
「でも、高野さんが事件に巻き込まれている
「ええ。でも、土曜日に高野さんが何か事件に巻き込まれたとしても、今日はまだ木曜日だから、その・・・」と、山川聖香が続きの言葉を言うのを
田畑太一郎は、坂井かなえが『
ただ、それでも、『彼女の
山川聖香は、坂井かなえの質問に何て答えるべきかを考えているようだった。その場を
しかし、田畑太一郎のそんな気持ちを知ってか知らずか、坂井かなえは自分の料理を口に運び、そしてさらに、「そういえば」と、その
「そういえば山川さん、高野さんのIDカードの件ですけど。」
「何かわかりましたか?」
「はい。山川さんが、高野さんのIDカードの
坂井かなえや高野恵美子が研究をしているT大学では、
そのエリアには、T大学の
坂井かなえがいる
一方で、高野恵美子の研究室がある
「
「最初は全然ダメだったんですけど・・・」と、口にいれた料理をモグモグと食べながら坂井かなえは質問に答える。
「わいろ代わりに持っていったドーナツが
「ちょっとだけ?」
「ええ、本当はそういう情報は絶対に明かしてはいけないことになっているらしいんですけど、その守衛さんは先週の土曜日のときにいた守衛さんと同じ人で、
「あ、あの人の良さそうな守衛さん?」と、今度は田畑太一郎が会話に入ってくる。
「うん、そう。でね、細かい情報とかは明かせないってことだったんだけど、今週の月曜日と火曜日には高野さんが
「土曜日の記録はどうだったとかって聞けましたか?」
「うん、土曜日のことも聞いた。そうしたら、土曜日も来てたみたいだよって教えてくれたの。」
「それは
「とりあえず良かったです。安心しました」と、田畑太一郎がホッとした表情になると、坂井かなえと山川聖香は二人とも「え?」という顔をした。
二人の
「そうなの、高野さんのIDカードを使ったのが高野さんだとしたら問題ないんだけど、そうじゃない
「むしろ、坂井さんのメールとかに何の
「
「
「わからないわ」と首を横に振りながら山川聖香が答えて、続けて「でも、T大学の関係者でないなら、その事件があった土曜日に、どうやって建物の中に入ったんでしょうか。仮に入れたとしても、エレベーターはIDカードがなければ動かせないし」と
その質問には、田畑太一郎も坂井かなえも答えられなかった。
三人ともデザートを食べ終わったタイミングで、山川聖香が「すみません。ちょっと
「高野さん、どこに行っちゃんだろう。」
「今週の月曜日と火曜日の
「そうね・・・でも、あのとき倒れた高野さん、きっと
坂井かなえはワインで少し
「あれが高野さんじゃなかったって可能性はありますか?」
「ううん、それはないよ。あれだけ高野さんに
「
「はは、太一郎君、面白いこと言うね。
「
「絶対ないとは言い切れないけど、可能性はすごく低そう。」
「ですよね。すみません、くだらないことを言ってしまって。」
「そんなことないよ。こういうときだからこそ、ありえないようなアイデアを出していくのが
「え、
「はは、すごいね、そんなアイデアが次々に出てくるなんて。太一郎君って意外と面白い人なんだね。」
「はぁ・・・・」
「
坂井かなえはやはり
と、そのとき山川聖香が自分の席に戻ってきた。座りながら「あら楽しそうですね、お二人さん」と声をかけた。
「太一郎君がなんか面白いこと言うんですよ」と言って、坂井かなえはまた田畑太一郎の
山川聖香は、坂井かなえのそんな様子を深く
それに対して、田畑太一郎も「いえ、こちらこそありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」と、少し
「では、今日は帰りましょうか。坂井さん、ワインを飲みすぎましたか?大丈夫ですか?」と山川聖香が聞くと、「大丈夫です、山川さん。ちゃんと一人で帰れますぅ」と、楽しそうな笑顔を返した。坂井かなえの顔はアルコールで少し赤くなっていた。
「あ、お
だが、「もう
「え、そんなのはよくないです。せめて自分の分だけでも
田畑太一郎がいつもと違う坂井かなえの
「えー、私なにも聞こえませんけど?」と、山川聖香の腕にしがみついている坂井かなえがそう答えた。田畑太一郎もサイレンの音は聞こえなかったのだが、「どこかで
それに対して山川聖香は、
(「第四章:山川聖香」終わり)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます