【第二章:坂井かなえ(1)】
八月最後の土曜日、田畑太一郎(たばた・たいちろう)は、真中しずえ(まなか・しずえ)と一緒にタイ料理レストランでお昼ご飯を食べていた。その日の午後に『座談会』をすることになっていて、そのための打ち合わせを二人でしようということになっていたのだ。
パッタイとトムヤムクンを
「はい。このお店には初めて来ました。というか、私、タイ料理のレストランに来たの初めてなんです。」
「あ、そうなの?まあ、日本にはタイ料理屋さんってあんまりないもんね。俺もタイ料理を食べたのはアメリカに来てからだよ。」
「そうなんですね。あ、このスープおいしい。ちょっと
「でしょ。この辛さがクセになるよね。俺、アメリカの料理って全体的にまずいなと思ったんだけど、タイ料理はありだなって思ってるんだ。」
「このお店よく来るんですか?」
「いや〜、そんなには来れないんだよね。日本の
「いえいえ、そんなことないですよ。私もこっちのレストランの
「
「
「今の
「ないよりは全然マシです!というより、
そのような
「わ、
「そういえば・・・」と、パッタイを口にいれたまま田畑太一郎が話しはじめる。
「今日会う二人の研究者ってどんな人?坂井かなえさんと高野恵美子さん、だっけ。
「えっと、坂井かなえさんとはこれまでに4回、いや5回ですね、お会いしたことがあるんです。こちらに来て最初に参加した日本人研究者の食事会でたまたま
「そうなんだ。坂井さんって今日これから行くT大学でポスドクしてるんだよね。たしか、
「そうです。この間お会いしたときは、アメリカで自分の
「こっちで自分の研究室を持つのって大変なんだよね。」
「ですね。と言っても、私は
「いや、俺もよく知らないんだけどね」とトムヤムクンのスープを口に運びながら、田畑太一郎は
「でも、かなえさん、あ、坂井さんは、日本だと女性が自分の研究室を持つようになるのはまだまだ
「なるほど、たしかにそうかも。ところで、真中さんは、坂井さんのことを『かなえさん』って下の名前で呼んでるの?」
「ええ。こっちって
「そっか。で、話を
「そうみたいですね。ポスドクの
「五百倍!?」と、
「あ、大丈夫ですか?」
「ごめんごめん。大丈夫。でも、五百倍っていうのはすごいね。今日の座談会でそういう話も聞けるといいね。」
「ですね。私も
「で、もう一人の参加者の高野恵美子さんという人とも何回も会ったの?」
「いえ、高野さんとはメールだけですね。」
坂井かなえ(さかい・かなえ)のときと
「そうなんだ。たしか、高野さんも坂井さんと同じT大学で研究してるんだよね。」
「はい。でも、二人の
「あー、メールでもそんな感じのことを教えてもらったね。じゃあ、今日は
「田畑さんは司会ですよね。すごいですね。」
「いやいや。全然すごくないよ。単なるバイトみたいなもんだし。」
「そうですか?今回の座談会が
「だよね。『え、こんなことまで書いてあるの?』みたいな感じ。」
そう言って笑いながらの会話が進み、二人ともパッタイを残さず食べた。
「
「いえいえ、どういたしまして。あ、そういえば、今日の
「え、本当ですか?」
「うん。僕も渡邉さんから聞いたときはビックリしちゃった。」
「わたなべ・・・さん?誰ですか?」
「あ、えっと、あのサイトの運営会社の関係者みたいなんだけど、実は俺もよく知らないんだよね。俺、あのサイトの
「そうなんですか。どんな感じの人なんですか?」
「あのサイトみたいに謎が多い人なんだけど・・・」と笑いながら田畑太一郎は続ける。
「まあ悪い人ではなさそう。というか、むしろすごい人だと思う。この研究業界だけでなく、研究内容にもすごく詳しいんだ。」
「そうなんですね。日本に帰るまでに会ってみたいな。」
「このB
「かも?」
「いや、あんまり人と会いたがらないっぽい
「謎な人なんですね。」
「そうだね。渡邉さんもあのサイトも謎だらけ。俺のアメリカ留学の目的の一つは、あのサイトの謎を明かすことなんだ。
真中しずえは「
***
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