第8話

「中原くん……中原くんっ!」


 ホームに着くと、ちょうど電車がホームに入り、ドアが開いたところだった。

 中原はどこにいるだろうかと、麻里はホームを見渡し、ようやく電車の後方に中原の姿を見つけた。だが、麻里がいるのは電車の前方。


「中原くんっ!」


 麻里は全力で中原の元へと走った。

 だが。

 無情にも、あと一歩というところで、ドアは閉まってしまった。

 ドアに背中を向けて乗っている中原に、麻里はドアをドンドンと叩く。駅員が警告の笛を吹いている。

 すると、やっと中原が振り返った。


「中原くんっ!」


 中原が驚いた顔をして口を開きかけたが、駆け寄ってきた駅員が麻里の腕を掴んで電車から引き離し、電車は静かに動き出した。


「中原くんっ!!」


 徐々に、中原の姿は遠ざかり、やがて見えなくなった。


「麻里っ!」


 駅員も離れ、人気のなくなったホームに麻里を呼ぶ声が響いた。康太だ。

 走ってきたのだろうか、髪が乱れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る