第9話
康太に肩を抱かれるようにしてホームのベンチに座らされた麻里は、俯いたまま。
「間に合わなかったか……」
麻里の姿を見た康太が、ポツリと呟く。
麻里の頭の上に康太の手がポンと乗り、クシャクシャと髪を掻き回したが、麻里は顔を上げることも康太の手を振り払うこともできなかった。
「俺の胸で泣いてもいいぞ?」
「……バカ」
ジワリと滲む涙を指で拭う麻里の目の前に、スッと折りたたまれた紙が差し出される。
「……なにこれ」
「中原の連絡先」
「えっ!?」
受け取ろうとしたが、その手を麻里は止めた。
「でも、勝手に私に教えたら」
「中原の許可は取ってある」
「えぇっ?」
思わず顔を上げ、麻里は康太の顔をマジマジと見た。
「なんで……」
「お前も中原もじれったいんだよ、全く。キキョウの花言葉は『変わらぬ愛』、スズランの花言葉は『再び幸せが訪れる』だろ、だったらあいつも栞なんて渡さないで連絡先くらい渡しとけってんだよな。お前もそんなに落ち込むくらいなら、連絡先くらい聞いとけよ」
言い返すことができず、黙ったまま麻里は再び折りたたまれた紙に手を伸ばしたが、麻里の指が届く直前で紙はヒラリと取り上げられた。
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