第2話

 翌週。

 再び、麻里の靴箱には押し花の栞が入れられていた。


「おっ、今度はタンポポか」


 いつの間にか背後にいた康太が、ひょいと麻里の靴箱を覗き込む。


「ていうか、ほんとに康太じゃないの?」

「だーかーらっ!なんで俺がお前に押し花の栞なんかやらなきゃいけないんだっつーの!」

「私に気があるとか?」

「アホか」

「なによ、失礼ねっ!」


 康太の言葉に怒りながらも、麻里は栞をそっと持ち上げ、鞄にしまう。


「でも、ま。お前に気がある変わった奴も、この世のどこかにはいるのかもな」

「だーかーらっ!失礼だからそれっ!」

「そーいや中原のやつ、もうすぐ転校だな」


 麻里の怒りの矛先を逸らすかのように、康太は突然話題を変えた。

 だが確かに、麻里と同じクラスの中原賢人は、二学期を最後に転校することになっていた。


「お前、寂しいんじゃねぇの?中原とよく喋ってたろ」

「……うん」


 康太と並んで家への道を歩きながら、麻里は中原のことを思い、寂しさに襲われた。

 たまたま席替えで隣りになって話すようになっただけの中原は、控えめで穏やかながらも、話しているだけで心の中まで温まるような気がしていたのだ。

 そう言えば、よく本を読む中原の影響で、麻里まで本をよく読むようにもなった。

 その中原が、もうすぐ居なくなってしまう。


「中原も寂しがってるかもな」

「そう、かな」


 でも、自分にはどうすることもできない。


 麻里は鞄を持つ手にギュッと力を入れた。

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