第4話 mute witness

それから長い間、付かず離れず、いわゆる常識的な酒との付き合いをして来たと思う。

たいして飲めなかったし、人前でげろ吐いちゃったり、記憶を失くしたり、そんな粗相とは無縁に過ごして来た。

私生活はめちゃくちゃだった。

十分酷い目に遭っていた。

それでも、酒に溺れなかったのは、ギャンブル依存の存在が大きかったと思う。

20代半ばの僕は、何かに依存しなければ生きて行けない程度には孤独だった。

相変わらず場をわきまえた控えめな麻薬として、酒はいつもちょこんとかわいく座って、僕の隣に居た。

彼女がその存在を大きくしたのは、現実に最愛の彼女を得てからという、とても皮肉な構図があるのだけど、それは後々説明する事にしよう。

ともあれ、僕の、あまりに無茶な、「不屈の精神」みたいなものを担保するのに、何かへの依存が必要なんだ。

そしてそれは、何だって良い。

でも出来るなら、君がそのぜんぶを請け負ってくれるなら。

いまだに僕は、そんな風に思うんだ。

違うかい?

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