第7話 想定外

彼らは武器屋を出て、そのままあの町を出た。武器屋を出て何となく怖くなった。あの町で今現在何が起こっているのだろうか。武器屋の職人の言うとおり悪い街である可能性も捨てきれない。いや、彼は悪いとは言っていなかったから大丈夫なのかもしれない。しかし気を付ければなんてことはないだろう。と智也は考えながら、あの大都市まで向かうために歩き出した。これまでいろいろとこのゲームの世界のことを体感して少し驚嘆する部分もあり怖くもなった。だからこそ旅というものは意味を持つのかもしれない。彼はそういうふうに考え事をしながら、湖へと続く道を彩子とともに歩み続けるのだった。




「湖っていつ見えるんだ」


「さあ」


「あの店主や職人によれば、湖や洞窟が難所だということらしいが、そこに着くまでに疲れ切ってモンスターに襲われてしまうんじゃないか?ここまで2時間は歩いたけど湖なんて全く見えないぞ。あいつわしのことは信じるなとか言ってたが湖があるというのも嘘なのではないのか」


「まさか。さすがにあんな嘘誰もつかないと思う。」


「くそ、ここまで旅路がつらいとは思わなかったぜ。それより少しづつあたりの林が騒々しくなってきたが、大丈夫なのか?」


「あ、あそこにすこし空き地があるよ。休憩していきましょう。」


俺らは待ち望んでいた旅はこうも予想と反するのか。旅に想定外はつきものだ。厳密にプランを立てても、当日の不備や天候の不調で容易に計画が変更される場合がある。俺はこんなことでへこたれるやわな人間なのか。彩子が俺に朝、家でつくっておいたスープが入った水筒を俺に渡してくれた。彩子はこういう時いつも助けてくれるし俺が落ち込んだ時に気づいてくれる優しいところが好きだ。俺はこういう時彩子に何か返せないかと考えるがどんなに考えても俺は彩子の気持ちのことを理解することはできない。でも俺をサポートしてくれた分必ずいつか俺は返してやる心づもりでいる。そのために彩子に俺が世界観を変えうるリアクターにならないといけない。そうやってこれまで俺にくれた借りを返してやる。


「サンキュー」


「まさかここまで遠いとは。そういえばあの店主は湖迂回するだけで丸2日かかるとか言ってたよな。その湖を迂回するんだったらその絶大王イカに見つからないまで遠くから迂回すればいいんじゃないか?そうすれば被害をさけることができるかもしれないし」


「そんな簡単にはいかないと思うな。旅になれた中級冒険者でさえもあのモンスターに襲われるのだから、何かあるんでしょう」


「そうだな。俺も何かがあると思う。遠くから迂回できないようにする何かがあるんだろう。やっぱり準備しないといけないな」


「そうね」


「そういえば店主が旅の地図を渡してくれたのよ」


「で、その地図には湖まではあの町からすぐそこだと書いてあったのよ。正確に言うと歩いて15キロくらいだと。2時間かけて何も見当たらないとかおかしいと思ってる」


「地図が間違うなんてよっぽどの理由があるんだろうな。このぶんだと洞窟についても警戒しておかないとな」


「そうね」


全然すぐそこじゃないじゃないか。あの店主が嘘つきやがったのか。いや結構な数の中級冒険者が勝てない相手に挑んで負けているなんて状況がありえない。何か理由があるとしか思えない。このゲームの世界は案外明るくないところも多いな。俺がこのボイスリアクトを早く使いこなせるようになって、一つ一つ問題を解決していきたい。


「もうすぐ日が沈むわ。どうしましょう。」


「とりあえず、俺なんか出してみる。」


「お願い」


「クリエイト・・・・・スターディーテント」


俺たちが座っていた空き地の芝生の目の前にいかにも丈夫そうなテントが出現した。


「実は俺キャンプ大好きで友達とそこそこキャンプをしていたんだ。そういえば彩子もキャンプに誘ったときあったっけ?」


「あったね。その時あなた時間があればすぐ友達と追いかけっこしてたわよね。その時のあなたって子供みたいにはしゃぐからとても新鮮だったわ、あなたのそういう子供っぽいところも面白いね」


「少なくともあの時よりは俺は確実に成長しているんじゃない?」


「強がってるでしょ」


「俺はいつも本気だと思うが」


「そんなウソ見え見えですよ」


「お前だって、よく見え透いた嘘をつくことだってあるぞ。この間だってコップの水をこぼしたときにさりげなく袖でふいて俺がそれに言及したけど、こぼしてないとか言い張ったじゃないか。」


「わたしなんてそんなみじめなことしません!」


「はははは・・・お前だって・・ははは」


「あなただって・・・はははは・・・ははは」


彼らはこれまでの旅の疲れが吹き飛ぶくらいに笑いあった。その笑い声は近くの林の木々が干渉となり、林全体にいきわたったようだった。そのとき森から一匹の狼が現れた。そのモンスターは何か言いたいことがあるらしいが俺にそれを理解することはできない。未熟者だからだ。俺はモンスターの言うことを理解したいと努力したのだが、俺には無理だった。ボイスリアクトを使っても何も伝わらなかった。彼はこの機にボイスリアクトの利用条件を理解しようと試みたのだが、それはなかなかうまくいかない。俺には何が足りないか。何が必要なのかと彼は悩みながらも長時間奮闘したのだが、伝わらなかったので彼はあきらめてそのモンスターに森に変えるようにジェスチャーをした。それでも狼の外見をしたモンスターが帰らないのでどうしようかと途方に迷っていたところ、彼女が口を開いた。


「ボイスリアクトには何かしらの条件があるのは確かだけど、これまでどんなものを出せたのか一度整理してみない?」


彩子はいつも冷静だ。それに比べて俺は・・・。俺には彼女を支えてあげることさえできないのかとまで思ってしまう。彼女は私を好いているのだろうかと考察することはあれど実際に彼女に言及することはない。俺だって彼女が俺を少しくらい好いてくれていることは考えてはいる。しかし、それを現実にしたくない。まだ駄目なんだ。俺がわがままなのかな、俺が一人前になるまで待っておいてほしい。だから、俺は彼女に会えて面を向かって好きだと言わない。俺は嫌われるのを怖がって言わないだけなのかもしれない。でも、俺は曲げたくない。こんな性格だからいつもみんなに怒られてばかり。多分めんどくさいやつだと思われていると思う。しかし俺にやらないといけないことが・・・。それはそうと俺はこれまでボイスリアクトでバッグとお金とテントを出せたことはある。多分これは見たことがあるかどうかなのだろう。しかしあの町の店主や職人は新しいものを生み出せると言っていた。そんなことが本当にできるのだろうか。少なくとも今の俺には無理だ。しかし、そのために旅を続けているというのもある。こんなことでくよくよしてはいられない。俺よ、しっかりしろ。


「バッグと自分の国の現金とテントだよな。その共通点は何度も使っていてよく知っている」


「それだけではないでしょう。他にはないの?」


「他には、自分の好きなもの」


「それ以外には?」


「それはみんなが使っている」


「それと?」


「それ以外なんてあるか?俺には他はわからないが」


「私の仮説だけど、これはなぜ存在しているのか知っているからだと思うの。バッグだって手で持ち歩けないものを持ち歩くためにあるものだし、お金は人がものを等価交換するためにあるものだし、テントだって人が野外で簡単に立てれて、しかもそれにしては結構丈夫だからつかえるところとか。これは存在意義を知っているかどうかだと思うの」


「それだけじゃその犬の存在意義はわからないから、仮説には適当だとおもうけどギルドのときに日本円が出てきたときだったらそうはいかない。あんときだって最初にジェントルマン出そうとした時もうまくいかなかったし」


「あなたそんなの出そうとしたの?私がいるのに?」


「おまえだけじゃ物足りないと思っただけだよ!」


「そうなの!ふんっ」


彼らは喧嘩をした。彼らは特にお互いの意見が食い違ったときに喧嘩をする。どちらもするつもりはないのだが、物事が悪い方にいくとけんかをすることがある。しかし彼らはその時本当に嫌っているのではない。どちらかというとお互いに愛しているのだがそれがゆえによく衝突が起こるのである。彼らはそれは十分承知であるが、時々意図せずそれが起きてうんざりしている。このまま、結局ボイスリアクトの条件はよくわからず、狼が一向に離れてくれないので、一緒に旅をすることになった。犬はそれにとても喜んでいたようで尻尾を上下左右に振っていた。智也と彩子は少し胸にわだかまりはあったが、狼の外見をしたモンスターなので少し怖いが、でもかわいかったのでとりあえず旅をしてみることにしたのだった。彼らはともにテントの中で一夜をともにした。犬の寝顔はどことなく安心した様子だった。彼らはなんだかんだで旅の仲間が増えて少し安心したようで、モンスターが寝たのを見て、そのまま就寝したのだった。

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音の魔法で世界を旅する 夕村奥 @kyakuyomyu1

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