第4話 出会い
「このポトフおいしいか?」
智也がこちらに問いかけた。私はいつも通り返答した。
「おいしい」
彼は人に様々なことを問いかける。そしてそれに疑問を呈す人間だ。いえば常識知らずなのだ。彼が常識知らずに育った理由はわからないが、彼の両親は彼を本当に愛していたようだ。それに智也が気付けなかったのかもしれないが。それと彼の15の時、私と彼はおなじクラスになり2学期の初めの席替えで隣になった時があった。初対面での彼の印象はとてもおとなびていて、何でもこなせるような人に見えた。ひたすらに目標に向かって努力し続ける姿を見て、私は彼をいつからか好きになってしまった。それから少し時がたち、高校生になり彼は成績が私より少し良かったのもあって、通う高校は別々になった。卒業式の日、彼と私は次はいつ会えるかという話をした。
「今度会えないか?遊ぼうぜ」
「今日誕生会なんだ。クラスみんな誘ってるんだぜ」
「そう」
「いかないか?」
「私なんかがいいの?」
「当たり前だろ」
「ほんとに」
「うん、普通に」
彼は常識が備わっていない代わりに、普通の人にはもっていないものを持っているのかもしれない。優しさというか、顧みずに何かをこなし続けることだとか。私は智也と出会う前は平凡に過ごしていこうと思っていたのだが、彼との出会いで少し変わってしまったのかもしれない。物事を後ろ向きに考える癖があった私が、彼の前向きな姿勢を見て少しずつ変わっていったような気がする。
「好き・・・」
「ん?」
「だから普通に好き!」
「お前もこんな臭いセリフはけるんだな」
「告白したんだから、智也もしなさい」
「はあ?なんでお前に従わないといけないのか?」
「いいから!」
「俺は・・・」
「2人で何してるの?」
「わあ!」
その時私には彼の言動のすべてが魅力的に見えた。こんな人もいるんだなあと感心したのもつかのま、気づいたら好きになってしまったのだ。いまだに彼からの告白は一切聞けていないが、一つ言えることとしたら私は彼を一生愛し続けてしまうだろうということだ。私の不本意で愛してしまったことに嫌わないでいてくれるのだろうか。しかし少なくとも少しは愛してくれているだろうと思っている。
「おいしいだろ」
「そうね」
「だろ!」
「この世界でここまで再現されたものをつくることもできたなんて驚きだよな。これをつくったやつってどんな天才だ!?」
「さあね」
「俺もなんかこういうシステムまで作ってしまえるほどの存在になりたいと思うことだってあるんだ」
「そうなの?」
「そうだ」
「ふーん」
智也はいつも夢言葉を吐くことがある。その夢言葉はテンションが上がった日に特に多い。しかし彼は夢言葉が一つもかなわなかったという訳ではない。たぐいまれない集中力と持ち前の根性、何より曲げない一心で基本的に叶えられないと言われていることでも叶えてきた。もしかするとボイスリアクトもあることだし、何か一つ本当に成し遂げるのかもしれない。
「店主に何か聞いてみようぜ。なにか知っているかもしれない」
「そうね」
「すいません、ちょっとお時間いいですか。実は私、異世界から来たものでこの世界のことをよく知らないのです。少し教えていただけませんか?」
「そうなんですか。この店にはこれまでに3組のパーティーがいらっしゃいましたね。パーティーの人数はバラバラでしたがそのパーティーにはある共通点がありました。彼らは皆ボイスリアクトというものを探しているそうでした。私たちとしては何も知らないので、ご希望には添えなかったのですが」
「おい、ボイスリアクトって」
「そうね、あなたが持ってる」
「これ、この店主にいうべきなのか?貴重なものかもしれないんだぞ」
「そうかもしれないけど、何もわからないままよりはいいと思ってるんだけど」
「ボイスリアクトですが、それ、持っているのですが」
「そうですか、って、えーーーーーー?」
「じゃなくて、持っているんです、それ!」
「お客様も嘘を嗜むようで。いかにお客様といえど、嘘はいけませんぞ」
「だから、ここにあるんです!」
俺はポケットからボイスリアクトというものを店主に見えるように手を掲げて見せた。まさかここまでこの装置の価値が高いのか。世界を変えることができるウェダーボイスリアクトでもあるまいし、このゲームの世界に来てからなぜか右手で握って持っていたこのボイスリアクトがここまで価値のあるものだなんて俺は驚きで声を荒げてしまった。しかし、驚いてしまったあまり、店主にこんな高価なものを見せてしまって大丈夫なのだろうか。
「このアイテムはこれまでにこの店にいらっしゃった冒険者様によれば、世界に50個しかない代物らしく、これがあれば使用者の創造力というものを用い他人に干渉しない限りでほとんどのものを生み出す頃ができます。このアイテムを使用することができる方はあらかじめこの世界に召喚されたときに両手のどちらかに持たされているみたいで。で、その創造力というのは、使用者の経験値に依存するらしいです。皆この創造力の数値を創造値と呼ぶらしいです。経験値は単純にステータスではなく、この世界で何を見て聞いて、誰を仲間にし、どのようなことするかで大きく変わってくるらしいです。創造値が低いからといって、その人のボイスリアクトの価値が低いかといえばそういうわけではないらしいです。ある側面から見れば低いことはあっても、他の側面から見ればとても高いということはよくある話だからだそうです。それで、この創造値を測るにはこの町よりもはるかに大きな大都市ウェーゼとセリュコンという2つの都市の最先端のギルド専用測定器でしか測れないみたいで。測れたとしても、参考にならない場合がほとんどらしいです」
「その大都市というのはここからどのようにしていけばよいのでしょうか?」
「そうですね、まずこの町を出て森に囲まれた小さな道をすすんでゆけばいずれ大きな湖が見えるはずです。その湖を横切れば丸2日かかってしまいますが、湖にはとても強力なモンスターがいるといううわさが流れております。お気を付けください。湖を抜けてまた小さな道を進むと遠くの山脈がどんどん近づいてきて、やがて小さな洞窟が見えるでしょう。その洞窟には特別危険なモンスターはいませんが、昔から奇妙なうわさが流れておりまして、ある会員証がなければ本来会うべきではないモンスターが襲ってくる場合があるそうで、そのモンスターのレベルがとても高く、レベル80のベテラン冒険者でさえも無事に戻ってきたものはほんの僅かでした。本来お教えすべき内容ではないと思いますが、ボイスリアクターであれば、どんな困難でも超えてくれると期待してお教えいたしました。頼みます。どうかこの世界をお救いください」
この世界は予想よりもはるかに恐ろしい世の中になっているようだ。予想ではモンスターがたまに出没するくらいで冒険者の数のわずかだと思っていたのだが、冒険者にも階級があり、相当数の冒険者がいるということなのだろう。それに冒険者が階級別に襲われるというのも恐ろしい。これからは十分に注意していくべきだと悟った。
「ありがとうございました」
そういって彼らは店を出た。そしてつかの間、彼らは足を止めた、もう一度店に入った。
「よく考えれば、あのギルド会員証をもらうべきじゃないのか?レベル80の冒険者でもやばかったんだろ」
「さすがにそうだよね」
「カララン」
「いらっしゃい、ん?」
「また、すみません。その会員証はどこで手に入るのでしょうか?」
「ああ、そうだったな。この町のギルドで手に入れられます」
「そうですか、ありがとうございました」
「でも、君たちだったら大丈夫だと思うんだが」
「その理由は何があるんですか?」
「そのボイスリアクトには物事を変えることができる能力があるらしいんだ。この世界のステータスなんてある一つの側面だけで判断してるだけだからな。別の側面からみると全く違うらしいんだ。まあ、参考にしておいてくれ」
やはりあのギルドか。ギルド、特に冒険者中心にやばいオーラが漂ってくる。なぜここまでになっているのだろう。非常識な自分がいうのもなんだが世の中の常識は冒険者はかっこいいもので彼らは救世主みたいな扱いを受けることが多い。しかし店主の発言を聞くと冒険者というのはどうやらこの世界ではそういう役割ではないらしい。どちらかというと危険に会う確率が高く、あまり人気ではない職業だという。しかし、俺はそれでもやってのける。
「やはり行くのやめるか」
「そうね、なんか危険だよね」
「この先何が起こるかわからないから、この町で何か買っておきましょう」
「あの武器屋なんてどうかな」
「入ってみましょう」
「カララン」
「いらっしゃいませ」
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