第3話
「私は世界強化委員会の広報部!マーレン・アッカーマンです!マーレンって呼んでください!」
「はっはぁ」
「世界強化委員会って言うとあのダンジョンを出現したとかいうあの?」
「そうです!その団体です!」
「そんないかにも世界の命運を背負ってそうなとこの人が俺に何のようで?」
こんな無職の人間に何の用があるんだろうか。現在絶望の真っ最中何だけど。しかも知らないところに来ちゃったし。色々混乱してるよ。
「実はですね…」
おもむろに彼女は茶色い封筒をカバンから出した。俺も仕事で使ったことのある資料を入れるための大きめの封筒。
「今回、うちでダンジョン配信というものをやってみようと思いまして!そのためにダンジョンの攻略経験のない、人に好かれそうな人を探してたんですよ!」
「それで俺が選ばれたと…」
「そうです!というわけで契約し「無理!」何でですか!」
トラウマがあって今までダンジョンから離れていたのに…
「僕にはトラウマがありまして…そのトラウマとダンジョンが少し関係があるんです。そのトラウマを蘇らせたくないんです。だから他の人に勧誘してください。」
「・・・・・られました」
「え?」
「だから他の候補者にはすべて断られたんですよ!」
「え!?」
まさか、他の人にも勧誘していたとは…
「元々この計画はダンジョン作成前から案は出ていて、作成後にこの計画は決定して広報部で1番仕事の出来る私に一任されたんですよ。そしてうちの希望に合う人を選び抜いて総勢1000人ぐらいでしょうか。勧誘しては断られ、勧誘しては断られ。あなたはその1000人の中の最後の一人です。一生のお願いです!契約していただけませんか?」
ああ、もうそんな今にも泣きそうな顔をしないでくれ。良心が痛む。
「う〜む...」
とても迷う。何せずっとトラウマを引きずっていたからな。もしも再発して気絶でもしたら溜まったもんじゃない。それこそ安全だという保証がなければ...
「トラウマがどうにかなればいいんだけどね...」
「そういえば、社さんが言っているトラウマって一体何なんですか?」
「ああ、説明していなかったね。俺が昔サッカーをしているときにボールが顔に当たってその近くにあったジャングルジムに頭をぶつけて気絶したことがありまして、それ以降目の前に勢いよく来るものを取れなくなって...ある日に顔にボールが当たって気絶したんです。トラウマが蘇って、防衛反応っていうんですかね。体がトラウマが蘇るからって意識をなくさせたんです。それで大騒ぎになって本当にあのときは大変でした。」
「そうですか...」
「そんな感じでもしダンジョン探索中に気絶でもしたら死んでしまうでしょう?だから避けてきたんです。」
「なるほど」
かわいそうだけどこればっかりは俺の命のほうが優先だからなぁ。
「だから、あきら「だったらその問題を解決すればいいんですね!」ま、まぁそうかな?それができるんだったら契約するよ」
たしかに
「でも、どうやって解決するんだ?」
「それは、『スキル』を取得すればいいんです!」
す、スキルで??
「スキルで解決するもんなのか?」
「そうですね。大抵の問題は解決できると思います。例えば身体の欠陥とか精神面の欠陥とか。そういうことに関するスキルはいくつかありますね。」
そう言って彼女は分厚い冊子を取り出してパラパラと本を捲っている。そして、俺にあるページを見せてきた。
「例えばこの『精神反射耐性』とかどうでしょう!このスキルならばトラウマによって起こる気絶も無くなります!」
「それって自分じゃなくてスキルのおかげでしょ。僕はできるなら自分で克服したいからさ。」
「むむむ、そうですか...ならば!色々候補がありますよ!」
そう言って彼女は再度パラパラと本を捲って指を付箋代わりにいくつかのページに挟んだ。
「こちらですね!」
彼女は指を挟んだページを1ページずつ見せてきた。
『遠距離攻撃強化』 魔法や弓術の攻撃力が上がる。
『狂化』全ステータスが上がる代わりに暴走する。
『槍術』槍を使いやすくする。
『洞察力上昇』発動時、周りの攻撃が遅く見える。
『未来視』相手の数秒後の行動が視えるようになる。
『反射』急所の攻撃を無効化、反射する。
「そんなところですかね。どうですか!何かお気に召したものとかありましたか?」
「うーん、たしかに気になるものはいくつかあったよ。これだったらトラウマを克服できると思うものもあったけど、なんかこれじゃないなって感じがするんだよね。」
「そうですか...」
「でも、もしかしたら自分に合いそうなスキルがあるかもしれないし!」
「そうです!そうですよ!別に私の選んだものではなくてもいいんです!」
彼女は僕にスキルが書かれた本を渡してきた。
「社さんにこの本をお貸しします!それでも合うものがなかったら私は諦めます。」
「分かった」
「それでは明日あなたの家に伺いますのでよろしくお願いします!」
そう言って彼女が僕の目を隠したのも束の間、僕の意識はふっと消えた。
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