15話 帝王の母
話しかけてくる人が少なくなったので、俺はようやく落ち着いて食事を始めることが出来た。
「
……しかし、人が料理を楽しんでいる最中にも関わらず話しかけてきた女性に邪魔をされてしまった。
ユキの母であり、次の龍主。ロダイカ・アクルムだ。昔からユキを虐めていたが、今もそれは変わっていない。本当に残念だ。
「
「
この国には不敬罪こそ無いものの、こうして表立って帝王を侮辱する人は珍しい。なんせ、帝王は
特に選帝戦に出場して敗れたにも関わらず帝王を侮辱するような行為は、この女性のように外面を気にしない人しかしない。
「
「
……はあ。
アクルム様は去っていったが、最も嫌な形で食事を邪魔されて、気分が悪い。俺は料理を楽しむことを諦め、会場内を回ることにした。
帝王様が主催するパーティーというだけあって、内装がとても綺麗だ。天井には大きなシャンデリアがいくつも輝いていて、壁には窓が無い代わりにステンドグラスが飾られている。歩いているだけでも楽しい。
結局、歩きながら参加者と話をしていただけで、あっという間にパーティーは終わってしまった。ユキの父親と姉は話しかけにこなかったし、ユキと話す時間どころか料理を楽しむ余裕すらなかったのは残念だが、収穫はあった。
予想通り、帝族の方が
万が一漏洩した時のことを考えると記録に残すことは出来ないので、誰が
――コンコン
「莅塩大統領。入っても宜しいですか?」
「ああ、もちろん」
――ガチャっ
返事をすると、
「パーティー後に女性秘書二人を部屋に呼んで、一体どういった要件でしょう?」
「誤解を招くような言い方はやめてくれ。パーティーのことを聞きたいだけだよ。感想はもちろん、何か気になったこととか、不快なことがあったなら教えて欲しい」
俺は話す前から匂いで感情が分かってしまい、第一印象が人と異なることが多いので、二人の視点からどう見えたかを知りたい。
それに、閒夜がダンエさんの視線に不快な思いをしていないか心配だ。閒夜が自ら不満を口に出すことは無いし、俺はあくまで匂いで感情が分かるだけで、読心術が使える訳でも無い。聞いた上で確かめておきたい。
「私はとっっても楽しかったです!料理もすごいいっぱいあったし、難しい言葉が出てきても閒夜さんが教えてくれたから、お話も楽しかったです」
「私も楽しかったですよ。少し気になる視線はありましたが、今夜のように大きな会場のパーティーは初めてでしたので、機会を作って頂いた莅塩大統領に感謝しています」
「ダンエさんのことだよな?悪かった。次からは対策するから、安心してくれ」
俺に出来ることは少ないが、ユキからそれとなく注意してもらうつもりだし、今後行われるパーティーではダンエさんの視線を遮るようにテーブルを配置してもらうつもりだ。
「莅塩大統領は悪くありません。それに、そこまでして頂かなくとも私は気にしませんよ」
「俺が勝手に気にして勝手に対策するだけだよ」
閒夜はこう言ってくれているし、匂いに嘘や遠慮は混じっていない。客観的に見ればそうなのだろう。しかし、俺はダンエさんの性格を事前に知っていた。注意していれば防げたはずだ。
「それより、七岷は本当に平気だった?」
「平気だったと思う、です。私が気付かなかっただけです?」
「いいえ。私から見ても特に問題は無かったと思いますよ」
七岷の方は、特に問題が無かったみたいだな。それは何よりだ。
「教えてくれてありがとう。明日の朝はあまり早くないけど、部屋を綺麗にしてから帰国したいし、余裕を持って起きてくれると助かる」
「はい」
「はいです」
「他に何か連絡事項はある?」
「私からは特にありません」
「……あの、連絡じゃ無いですけど、今日の料理の話をしたいです」
七岷が遠慮がちに言ってきた。確かに、昼食の話も出来てなかったな。
「時間はあるし、閒夜さえ良ければしようか」
「私もしたいです。しましょう」
「じゃあ、お昼の
閒夜も賛成したことで料理の話がすると決まり、七岷の声がワントーン上がった。心の底から辛い料理が好きなことが、改めて伝わってくる。
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