9話 空飛ぶ調理場
――ポーン
レオディヌエ
「では、調理を始めましょう」
「ああ」
「はいです!」
閒夜の宣言で、調理が始まった。今日の調理ではお肉が主役なので、お肉の扱いが上手い閒夜が全体の指揮を執り行う。
俺はスーツを脱ぎ、上下ともに下着姿になったら、手指消毒をしてから調理服に袖を通した。
他種族の文化を学ぶ過程で初めて知ったが、すぐ隣で二人も同様に着替えているという状況は異常らしい。確かに、恋人でもない異性に下着姿を見せるなんて普通なら有り得ないし、状況が違えば俺も興奮しているのだろう。
しかし、わざわざ移動して着替えると調理の時間が削られてしまうし、調理室に雑菌を持ち込んでしまう可能性も高くなる。そもそも、調理服に着替え始めた時点で調理は始まっているのだ。調理中に雑念が混じるなんてあり得ない。
俺が前掛けを一文字結びで留め、首に調理巾を巻き終えると、二人は髪をまとめているところだった。
髪が肩の辺りまである閒夜はもちろんのこと、肩に触れない長さの七岷は前髪をピンで留めている。
調理帽まで被り終えたので、三人で調理室に入り、もう一度手指消毒を行う。これで着替えは終わりだ。
「
「分かった」
「はいです」
今から作るのは、冬眠前のこの時期が旬の
「こんな綺麗な夜景を見ながらの調理、初めてです」
俺が塩ダレ用に
「確かに、滅多にない経験かもな。海に出たら見えなくなるから、今のうちに満喫しておくか」
「ですです」
今飛んでいるのは
「七岷さん、こちらを」
「はいです」
少しすると七岷が皮と内臓を受け取り、鶏油を作り始めた。閒夜はその横でもも肉を紐で縛り、塩叉焼の準備をしている。
……よし、ちゃんと出汁が出てるな。
その一方で、俺は出汁の味見をしてから適量の岩塩とグアニル酸を入れて塩ダレを完成させた。
今回は
「閒夜。塩ダレは終わったから洗い始めるよ」
「優しくして下さいね」
「分かった」
粗熱の取れた塩ダレを冷蔵庫に入れた俺は、閒夜が解体してくれた
途中で鶏油を作り終えた七岷も合流して、二人で丁寧に洗っていく。
「閒夜さん。やっぱりお肉の扱いが上手い、です」
「本当だよな」
今洗っている
正直、どうして
「あ。もう夜景が見えない、です。朝日が出るまでずっとこのままです?」
「多分、そうだろうな」
「少し残念、です」
「まあまあ。機内を暗くすれば星空は見えますし、元気を出してください」
「閒夜さん、ありがとうです。塩叉焼は出来たです?」
「はい。味見しま――」
「したいです」
閒夜は食い気味の返事に頬を緩ませながら、数切れの塩叉焼が乗った皿を持ってきた。
「はい。あーん」
そして、フォークに刺した塩叉焼を七岷の口元に運んだ。
「えっ、ぁ……ぁーん。…………すっごい美味しいです!とろっとろに柔らかくて、お肉の美味しさがぎゅってなって、じゅわーって感じです!」
七岷は戸惑い、顔を赤くしながらも食べると、もぐもぐと口を動かしてから目を輝かせた。擬音の多い感想だったけど、とにかく美味しいことは伝わってきた。
「それは良かったです。
「せっかくだし、しようかな」
「はい。ここに置いておきますね」
閒夜は塩叉焼の乗った皿を調理台に置き、先程とは別のフォークを添えた。明らかな対応の差である。しかし、これは俺が嫌われている訳ではない筈だ。嫌悪の匂いもしないし。
ただ単に、七岷に対して特に優しくしているだけだろう。
「……うん。すごい美味しいな。お肉の水分がしっかり残っているのに、それでいて濃厚な
口に含めば
旬ということもあるだろうが、閒夜の調理技術があってこそだろう。
「ありがとうございます。こちらも終わっているようなので、火に掛け始めましょうか」
閒夜は綺麗になった
間に空気が溜まらないように太い骨、細い骨、大きなお肉、小さなお肉の順番に入れ、最後にお肉の倍の量の水を入れた。
「では、いきますよ」
――シュボッ
合図に合わせ、三人で火をつける。
複数人で調理をする時は、話しながら鍋を見守っている時間が最も楽しい。
ⓡⓡⓡ
日本語だと旨味とうま味は別物で、
旨味→感覚的な美味しさの程度を表す語
うま味→甘味や塩味と並ぶ基本味の一つ
ということらしいです。
しかし、
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